新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

雇用悪化とデフレ不況再発を阻止せよ~集中的政策と面的な政策を同時にすべき~

f:id:metamorphoseofcapitalism:20201020191721j:plain

非常に気が滅入るようなツイッター発言が目に留まりました。kikumakoさんこと菊池誠さんがされたツイートです。

f:id:metamorphoseofcapitalism:20201115213355j:plain

https://twitter.com/kikumaco/status/1326338705557135361

内容を引用します。

5万円の追加給付金は「財務省の強い抵抗で最終的に見送りの方向になった」と新聞にもはっきり書いてある。 敵は財務省なんですよ。これは明らか。今や与党も大規模な財政出動を求める状況になったのに、財務省が国に金を出させまいとして抵抗しています。財務省が人々の命を奪おうとしている

 「5万円の追加給付金」についてはここのブログでも紹介しました自民党内の有志が集まった勉強会「経世済民政策研究会」のメンバーと講師として招かれた経済学者の田中秀臣さんが菅総理大臣に提言したものです。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

この勉強会の提言書はいろいろ誤解されて伝わっているので上の記事を再度読んでいただきたいのですが、追加給付金だけに限らず金融緩和政策の補強やコロナ禍で深刻な打撃を受けた業界への重点的な財政支援なども盛り込まれています。この勉強会のメンバーである長島昭久議員や細野豪志議員は金融緩和政策の重要性も認識してほしいと述べておられます。本文を読まれる前にこの点はしっかり留意しておいてください。

kikumakoさんのツイートに話を戻しますが、追加の定額給付金支給案が財務省の役人らの圧力で潰されようとしていることに私も激しい憤りを感じました。財務大臣麻生太郎氏などの口やマスコミを通じて給付金の景気効果は薄かったとか、貯蓄に回されたといった発言や記事が広められていたので、財務省の役人らが定額給付金再支給を阻止しようとして動いていることは感じ取っていました。

定額給付金無効論については基礎知識編ブログで批判しています。

ameblo.jp

売り上げが大きく減少した中小企業や個人事業主に最大200万円を給付する持続化給付金と最大600万円の家賃支援金についても、財務省財政制度等審議会における部会で予定通りの来年1月15日に申請受付を終了させることを提言しています。

朝日新聞はこんな社説まで出してきました。

www.asahi.com

 記事の最後に「コロナ禍の長期化で、直撃を受けた人や企業の手元資金は枯渇している。再び全国的に営業や外出の自粛を要請する事態になれば、それに応じた対策が必要になる。感染動向を踏まえて柔軟に対応できるよう、政府は対策の中身を考えておかねばならない。」 などと結んでおきながら、与党内から出ている10~15兆円の大型補正予算案にケチをつけています。この記事は「(ほんとうに)必要な政策積み上げて」という言葉をつかって緊縮財政色を前面に打ち出しています。明らかに財務省の役人がいっていることを伝書鳩的に書いた記事でしょう。さらに内容の一部を抜き書きしますと次のことが書かれています。

 

雇調金の特例は、失業を防ぐ上で大きな効果を発揮したが、成長分野への労働移動を阻害する副作用がある。

 

日本経済の生産性の低さは、既存の働き手や企業を守ることを優先した結果、デジタル化などの世界の潮流に乗り遅れたことが一因とも指摘される。

これは俗にシバキ主義といわれる構造改革偏重主義者や清算主義者が言っていることそのものです。前回記事で取り上げた中小企業統廃合論を唱えているアトキンソン氏らの発想とよく似ています。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

ameblo.jp

朝日新聞は左派系メディアと云われてきましたが、いつの間にか弱肉強食型の「新自由主義(←これは意味がよくわからない表現ですが)」に染まっているようです。

 

ここで再度強調しておかねばならないことは、コロナ禍は通常の不況や経済危機とまったく異なる性格のものだということです。この危機は不確実性の塊で去年の年末まで発生がまったく予知できないものでした。企業の経営はありとあらゆる経済危機や自然災害などのさまざまなリスクを想定し、それに対処できるよう平時から備えておくことが常識ですが、不確実性というのはリスクのように事前予測が不可能な範疇です。昨年まで億単位の高収益をあげていた超優良企業でさえも数千億円以上もの赤字を出してしまっています。コロナ禍がなければ健全経営で優良企業として存続できるような会社が突然業績悪化に追い込まれ、資金繰り悪化で倒産・廃業の危機にさらされているのです。これを財務省の役人や構造改革偏重主義者・清算主義者らは”ゾンビ企業”だとかいって見殺しにしようとしています。

私は構造改革万能主義者や清算主義者の思考的欠陥はビルドやストラクチャリングである新しい産業や技術イノベーション、人材の育成の肥やしとなる資金調達を容易にする金融緩和政策や消費者の購買意欲を高めるための財政政策を軽視しておきながら、長年のデフレ不況を放置して数多くの民間企業の活力を削ぎ続けるところにあると思っています。彼らが勝手に”ゾンビ企業”だと見なした民間企業を次々と根絶やしにすることで、結果的に日本の産業基盤を脆くし雇用の縮小や労働者の技能腐食を招きました。私が過去30年の間にみた日本の衰退はまるで凍傷になって指先や鼻先が壊死して落ちてしまったり、心臓の心筋が大部分壊死してしまったような状態に見えてなりません。

不確実性が高いコロナ禍で多くの企業は業績の見通しが立たず、新規雇用を大幅に縮小する動きへと転ずるでしょう。失業率が一気に増加する可能性が出てきていますし、新卒学生の求人や採用が減って再び就職氷河期が訪れています。人々の所得不安定化や低下が進み消費需要も衰えるでしょう。そうなると慢性的なデフレが再発し、それが企業投資や雇用の縮小に滑車をかけます。

そういう事態が予測されるにも関わらず財務省は緊縮財政をチラつかせ、経済支援を早期に打ち切るような態度をみせているのです。企業の経営や個人の家計はよりいっそう防衛的にならざるえないでしょう。給付金について「バラ撒いても消費に回らず貯蓄になるだけ」と麻生太郎財務大臣などが口にしていましたが、コロナ増税を含めた緊縮財政予想を人々に植え付けさせればお金を貯めこむような動きになって当然です。

今回のコロナ禍が収束したとしても、完全に人々の消費行動が変わってしまい、元通りに需要が回復しない業種や業態が出てくることは私も想像しています。そういう意味でもはや継続が不可能な事業を捨てて新しい産業へシフトさせていった方がいいという主張は一理ありますが、新産業が大きな雇用を生み出すほど育つまで年単位の時間がかかります。その間コロナ禍で職を失った人々は無業者のままでいるわけにはいきません。先にいった職能の腐食も進みます。となってくると既存の産業をなるべく潰さず残した方が賢明ではないでしょうか。各事業者が永年にわたって積み重ねてきた技術的蓄積は倒産や廃業によって同時に消失し簡単に元に戻せないのです。

「あの企業は残す価値がある」「ゾンビ企業だから潰した方がいい」などという判断を何も知らない役人たちが勝手に決めることなどできません。政府はとにかく著しく所得が落ち込んだ事業者や個人には理由の如何を問わず公助で支援をするという態度を示すべきです。

 冒頭で紹介した経世済民政策研究会の提言に話を戻しますと、この提言書は定額給付金のように全国民に幅広くお金を給付する政策と、コロナ禍で深刻な打撃を受けた業界への重点的な支援を並行して行うことを提案しています。ピンポイント的な政策と面的な政策を同時にやるのです。

コロナ禍は観光や宿泊業、飲食業、興業、旅客輸送業、医療・介護など特定の業種に打撃を与えていますが、この先被害規模が面的に広がっていく恐れがあります。政官の恣意性や選別性があまりに高いと保護の対象から外れ、路上生活者に転落したり最悪は自殺に追い込まれる人たちが一挙に増えてしまう事態を招きかねません。

何度もこれまで説明してきたように財源についての心配をする必要はないのです。こうした危急の事態については国債を発行し、中央銀行が買い受けるやり方で実質債務性を不胎化できます。国債発行量の膨張を気にするよりも民間の産業が衰弱し、雇用がどんどん失われ生産活動がこのまま衰弱したままになることの方がはるかに危険です。国家財政も所詮民間が産み出した富や財の上で成り立っています。国家財政が先に破綻するのではなく、民が先に潰れるのです。

財務省の横暴を抑え込むべく、全国民が政府に対し財政政策や金融政策による支援を怠るなと声をあげねばなりません。

 

全般ランキング


政策研究・提言ランキング

ご案内

「新・暮らしの経済手帖」は経済の基礎知識についての解説を行う基礎知識編ブログも設置しております。画像をクリックしてください。

f:id:metamorphoseofcapitalism:20200814191221j:plain
https://ameblo.jp/metamorphoseofcapitalism/

ameblo.jp

 
サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター 

 

https://twitter.com/aindanet

twitter.com

 

お知らせ

「暮らしの経済手帖」プロモーショナルキャラクター・友坂えるの紹介です。

f:id:metamorphoseofcapitalism:20200814190559j:plain

 

f:id:metamorphoseofcapitalism:20200812163152p:plain