新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

定額給付金よりも給付付き税額控除制度導入を目指した方がよいのでは

前回「個人向けの給付金ではなく事業者向けが多い日本のコロナ経済対策 - 新・暮らしの経済手帖 ~時評編~ (hatenablog.com)」という記事を書きました。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

アメリカでは3回目の定額給付金支給が実施されていますが、日本の場合、全国民一律給付で行われたのは昨年2020年春の1回限りです。その後も給付金の支給が実施されていますが、困窮状態であるひとり親世帯に限定されており、額もかなり低めです。2021年3月現在政府与党がやはり給付金の支給を検討しているといわれますが、ひとり親だけではなくふたり親世帯に拡大されただけで、かなりしょぼくれた内容のものにとどまっています。

個人向けの定額給付金出し渋りは財務官僚の抵抗がかなり強いこともありますが、日本の場合は個人向けの給付金支給よりも、就労者を雇用する民間事業者を支援するかたちで倒産や廃業、従業員解雇を防ぐことを優先した財政出動を行っています。日本の財政出動の規模自体はGDP比でみたとき世界トップレベルです。

「企業ばかりではなく個人の生活支援を優先しろ!」と言いたくなるかも知れませんが、私はいまの事業者優先型の財政支援を採った方が今回得策ではないかと考えています。本来潰れるはずのなかった企業をどんどん潰してしまったはいいが、それに代わる新しい産業や企業がすぐに育つのか疑問です。さらに労働者が解雇された場合、別業種への転職とかを余儀なくされるかも知れません。そうなると職業訓練の時間やコストが生じてきます。私は残せる既存の企業や産業、そして雇用を温存するやり方の方が、コロナ禍収束後の経済活動回復が早く進むと思います。結果的に「はやい・やすい・うまい」となるのではないでしょうか。

そういう意味で私は定額給付金固執することは決して望ましいことではないと思います。コロナ禍で大きく所得を減少させてしまい、経済的に困窮している人が多いことは私も承知していますが、仮に定額給付金を再度支給したところで、彼ら・彼女らを支え続けることができるでしょうか?数万円、10万円はあっという間に消えてしまうと思います。全国民に一律10万円を支給した場合の予算は13兆円です。私は財政規律よりも経済重視の立場ですが、どんどん財政を膨張させてもかまわないという考え方はもっていません。なるべく高い経済波及効果が望める財政支出をすべきだと考えます。経済政策の基本的な考え方は雇用の維持です。

それともうひとつ、昨年の緊急事態宣言のときと今回のときとでは状況が大きく異なっている点を忘れてはなりません。昨年の場合は新型コロナウィルスの感染経路や予防方法がはっきりわかっておらず、すべての産業の経済活動を最小限に抑えていました。経済的打撃は全産業・全国民に及び、一律で現金を支給する必要性がありました。今回の場合は自粛範囲を飲食に絞っており、経済打撃を受けた業界についても対面サービス業に集中しています。経済支援策もそこに集中投入した方が効果的です。

もうひとつ昨年全国民一律支給にした背景は、経済困窮状態に置かれている人を行政機関がどう選別するのかという問題があったからです。また支給の緊急性も求められていました。支援を受ける側はコロナ禍で所得が急減したことをどうやって証明するのかという問題がありました。しかしながら現在の場合、確定申告等によって所得状況が把握しやすくなっています。これに基づいて著しく所得が落ち込んでいる人に集中的に財政支援を行うことができるでしょう。

長々と書きましたが、定額給付金という手法が必ずしも最善の選択であるとはいえない状況にシフトしています。私はこれまでどおり事業者支援型の財政政策を継続すると同時に給付付き税額控除制度導入の議論へと軸足を移していった方がいいと考えます。この制度は既に様々な国で導入されています。

 とはいえどやはり家計が相当切羽詰まった状況に置かれている人がかなりの数に上るでしょう。政府は緊急小口資金制度を用意していますが、既に100万件以上もの貸付が行われています。実際にはこの10倍以上生計に困った人たちが存在するでしょう。

「緊急小口資金」100万件超 コロナ打撃、生計維持困難 | 共同通信 (kiji.is)

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緊急小口資金制度は一応融資という形になっており、返済が厳しい場合は償還免除もあるようですが、借金は借金です。できればあまり使いたくないという気持ちが働いてしまいますし、申請手続きは申請者と受け付ける行政機関側双方に事務負担が重く圧し掛かってきます。そういう意味で定額給付金のように手軽に申請しやすい制度で支援してほしいという声が高まるのは当然のことでしょう。

 そこで着目すべき制度案が給付付き税額控除制度です。確定申告をされた方は承知のことですが、税には基礎控除が設けられております。いまの日本の所得税制ですと著しく所得が低い人は非課税にはなりますが、基礎控除以下の所得だからといってお金が支払われるような仕組みにはなっていません。給付付き税額控除制度の場合は控除分以下の所得ですとお金が入ってくる仕組みです。

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 いまのコロナ禍や災害、深刻な経済ショックで所得が激減した人に対し、きちんと税申告すれば控除額に満たない分の所得が補填される仕組みです。確定申告だけではなくマイナンバー制度を活用することで、公正な税徴収と税配分を実現できます。菅内閣が推進しているデジタル庁との親和性が高いでしょう。もちろんコロナ禍のように急激に所得が落ち込んでしまうような場合ですと、給付までのタイムラグが発生するので緊急小口資金制度や定額給付金のような制度と併用する必要が出てきますが、生活に困窮しているにも関わらず、公助がまったく受けられないという状況を少なくすることが期待できます。

それともうひとつ私が給付付き税額控除制度を推す理由は厚生労働省地方自治体の官僚たちの業務負担軽減というのもあります。コロナ禍が起きる前より霞が関の官僚たちは信じられないほどの超過勤務を強いられてきました。元厚生労働官僚の千正康裕さんが「ブラック霞が関」という本を著され大きな反響を呼んでいます。

給付付き税額控除とマイナンバー制度、デジタル庁を組み合わせることで、全国民の正確な所得データを捕捉し、それに基づいて給付が行えるシステムをつくることで、効率的な給付が可能となり、各行政機関の職員の事務負担が軽くなるのではないでしょうか。さらにいえばこのシステムが平時において整備されており、所得が低い人に限定して給付できるようになっていれば13兆円ではなく4兆円の政府支出で済むはずでした。

参考

なぜ特別定額給付金に13兆円かかったのか?|千正 康裕|note

 所得が低い人たちに手厚い支援を継続していくためにも、定額給付金の再支給よりも給付付き税額控除制度の実現を目指していくべきだと私は考えます。長い目でみればこの制度は「はやい・やすい・うまい」でしょう。

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