新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

コロナ禍後の暮らしと経済の再建

 今年初頭から世界中を呑み込んでしまったコロナウィルスの感染拡大ですが、わが国日本においては先月5月末までの時点ではかなり収束してきており、段階的にですが政府が発令した緊急事態宣言や各地方自治体が促した行動自粛が緩和・解除されつつあります。

といいつつも北九州市や東京都で十数人程度の規模だとはいえ、新たな感染クラスタが発生してしまいました。(2010/6/2 東京都で「東京アラート」発令) 高齢者の感染・重症化・死亡リスクが高いと云われてきたコロナウィルスですが、小学校内で児童への感染が出てしまっています。隣国韓国もコロナ感染対策の優等生的成果を出し、緊急事態宣言を解除したものの、再度の感染拡大の兆候が現れているなど油断できない状態です。

 

感染拡大が収束してきたとはいえ、いままでの私たちの生活行動や経済活動を元通りに全面回復させられる日はかなり遠いことを再認識せざる得ません。しかしながらこのままいつまでも生産活動を抑制し続けるわけにはいかないでしょう。あまりに長い経済活動の抑制によって業種によっては民間事業者の資金繰りがかなり悪化し、事業の存続が厳しくなってきます。雇用の維持もできなくなってくるでしょう。

 

 近日中に「 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~」で書くつもりですが、今回のコロナ禍で非常に厄介なのはCOVID-19の正体が完全に掴み切れておらず、社会全体に極めて大きな不確実性をもたらしていることです。不確実性は経済活動の最大の敵であると言っていいものです。「一寸先は闇」という状態のなかで企業は積極投資や雇用拡大を計れるかというとできないでしょう。

 

経済活動の再開といっても、事業者や利用者らは3密を避けるとか社会的間隔をとるといったさまざまな行動制約が残ったままのかたちのもので、緊急事態宣言や自粛の解除というより緩和といった方がいいのかも知れません。コロナ感染再拡大を警戒しながらの経済活動再開です。

 

先月の記事でも紹介しましたが、国際通貨基金IMF)のウェブサイトにある「見解書・論評 」でジョバンニ・デラリチア   パオロ・マウロ   アントニオ・スピリムベルゴ ジェロミン・ゼッテルマイヤー らが「新型コロナウイルスと戦うための経済政策」という論評を公表しています。

このコラムでは感染症の拡大期と収束期で経済政策を切り分けています。前者はフェーズ1、後者はフェーズ2です。いまの日本はフェーズ1からフェーズ2へ移行しかけているときです。休業を強いてきた民間事業者やその就労者らに操業の再開と現場復帰をしてもらい、経済活動の再開と回復を目指していくのですが、コロナ危機がはじまって僅か数ヵ月間の間に事業の廃止や倒産に追い込まれた企業や失業に追い込まれた就労者の数は少なくありません。100%元通りの経済活動復旧とはならないのです。私はこれを”サプライサイドの壊死”と呼んでいます。

 

上のIMFコラムにも載っていますが、感染膨張期で行動制限が敷かれている間にサプライサイドの壊死を防止するために、資金繰り悪化防止のための特別融資や税金などの支払い免除・延期、家賃などの支払い猶予、借入金の返済猶予、税や社会保険料の支払い猶予や免除、休業補償、現金給付などといった政策を各国の政府は行ってきました。経済活動を抑制していても、とりあえず企業が存続できる・一般個人が生活を維持できるようにするといったことです。

しかしながらこうした手厚い政策を行っても、それが間に合わなかったり、規模が小さすぎるといった理由で保護できなかった企業や個人が数多く出ています。いやこれ以上の手当を行ったとしても倒産・廃業・失業に追い込まれる企業や個人が発生したと思います。

 

今回の危機は打撃が及んでしまった企業や労働者個人はその会社の事業規模や危機前の経営状態、就労者の勤怠に関わらず、業界全体がダメになってしまったというケースが目立つことです。飲食産業や興業、旅客輸送、観光・宿泊業界がその代表例です。とくに近年盛んだった中国人観光客を相手にした業界は需要がいきなり壊滅し、しかもこの先その需要回復がほとんど期待できなくなっています。そういう業界は事業再開を断念せざる得ないでしょう。スクラップ&ビルドが求められる状態です。

 

フェーズ1の間に政府や中央銀行が行ってきた財政および金融政策は民間企業の経営存続や個人の生活維持を目指し行ってきていますが、今後のフェーズ2における経済対策は倒産・廃業・失業に追い込まれた企業や個人の再起を支援する内容のものも盛り込まねばなりません。第1次安倍政権のときに「再チャレンジ政策」というものが導入されていましたが「令和版再チャレンジ政策」を打ち出す必要があるのではないでしょうか。

事業を廃止した経営者が別の業種の事業を新たに興すという第二の起業再投資を国や日銀が支援していくのです。失業に追い込まれてしまった人は別の業種への転職ができるように職業訓練を支援したり、失業給付だけではなく給付付き税額控除制度の導入も計って、生活不安に怯えることなく、ゆとりをもった転職活動ができるようにしていくべきです。今回の場合はもともと起業精神が高かった人たちやごく普通に勤労し続けてきた就労者が突然予期せぬアクシデントで事業や職を失ってしまったわけですので、再起の意欲は決して低くないでしょう。当面まだ身動きがとれない状態が続きますが、休業補償や給付付き税額控除などでその間の生活保障(補償)を行い、完全収束期を迎えたときに新たな経済活動ができるように政府や中央銀行は金融財政政策を通じて支援していかねばなりません。

 

国民個人への生活支援は先日実施された定額給付金や給付付き税額控除の導入で支えていくことになりますが、企業向けには持続化支援金や雇用調整助成金などのような補助金だけではなく、特無利子・無担保・無保証人の特別融資制度もつかわないと金額が追い付かないことになります。事業規模が大きいところですと、10万円、100万円とかでは”大河の一滴”に過ぎません。経済学者の飯田泰之さんが推奨し、第2次補正予算案にも盛り込まれましたが、実質資本注入となる劣後ローンという支援策があります。

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 劣後ローンは債務者が破産してしまったとき、遺った資産を取り立てる順番が一番最後となるものです。借り手にとってはものすごく有利ですが、貸し手にとっては貸したお金が戻ってこないリスクが非常に高いローン制度です。融資といっても実質資本注入だといっていい内容のものです。そのかわり通常だと債務者は債権者に高い金利を支払わなければなりません。

しかし飯田さんの提案ですとこれを無利子・無担保・無保証人で行うとしています。これですと貸し手側にとっては「もってけ泥棒!」みたいな融資制度で相当不利なものです。ですので一般の融資と同等の利益率が見込めるように,融資額に応じた手数料をつけるといったインセンティブを与える必要ができますし、借り手側の制度濫用を防止するために劣後ローンの借入限度額を「予想される(前年比)売上減の×割まで」と足かせをつけたり、融資実行から1年後に「2019年と2020年の実際の売上低下幅」を超える劣後ローンを借り入れていた場合には差額を一般貸付に変換するといった条件を加えることも飯田さんは提唱します。

 

あとマイナス金利を活かした特別融資制度という方法もあります。いまの黒田日銀体制になってからマイナス金利が導入されていますが、これはお金を借りると利子を支払わなければならないどころか、利息がついてきてしまうというものです。特別融資をうけた企業が僅かながらでもおまけで補助金がついてくるといったところでしょうか。そうした特別融資を行う金融機関に対しても日銀が付利という融資奨励金をつけてやれば積極融資に結びつくでしょう。

 

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今後民間企業や一般個人はポストコロナの新常態を模索し続けねばなりません。極力人と人の接触が少なくても成り立つ新しいビジネスモデルの構築や就労のあり方を見出していくことが必要となってきます。政府や中央銀行はそれまでのつなぎとなる給付や助成、そして融資を今後も継続していかねばなりません。

 

今回の話は融資が中心となってしまいましたが、コロナ経済危機対応は「給付」「融資」、そして不確実性の高い状況に柔軟かつ機動的に対応するための準備金である「予備費」の積み上げという三本柱が重要です。

 


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