新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

日本経済再起動に向けて ~護りから攻めのフェーズへ~

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一ヶ月ぶりのブログ更新です。

今年令和3年4月13日に菅総理経済財政諮問会議を開催し、人材への投資(ヒューマン・ニューディール)、デジタル化の加速について話し合いました。

令和3年4月13日 経済財政諮問会議 | 令和3年 | 総理の一日 | ニュース | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)

菅総理が打ち出した「ヒューマン・ニューディール」はもともと2009年に社民党(当時)の辻元清美衆議院議員が国会で提案していたものでしたが、それをちゃっかりキャッチアップしております。それはともかくとしてすでにコロナ禍から立ち上がり業績回復を遂げている業界や事業者への労働力移動や失職者への就労支援策を積極的に打ち出していることを私は高く評価したいです。私が非常に素晴らしいと思っているのは月10万円の給付付き就労支援制度です。国民民主党玉木雄一郎代表が就労訓練つきのベーシックインカムを提案していたのですが、実質それに相応するものが給付付き就労支援制度です。かなり利用者が多く、追加で受講者数を増やしたようです。ネット上で「定額給付金を一律支給せよ」という声をあげている人たちが多くいますが、本来コロナ経済対策というものはもともとコロナ禍がなければ立派に経済的自立をしていた個人や事業者が職を失ったり、事業継続ができなくなることを防ぐことを目的としています。そういう主旨からいきますと、いつまでも公助にしがみつくのではなく、自助で再自立ができるように促していく必要があるでしょう。コロナ禍は不確実性が高く「一寸先は闇」ですが、それでもワクチン接種が進んでいきますと、感染収束が視野に入ってきます。公助から自助のフェーズに転じていると思うべきでしょう。あるいは「護りから攻めのフェーズへ」といっていいかも知れません。

 

これは昨年書いた記事でも引用したものですが、感染症拡大防止策と経済対策の基本的な考え方は下のIMF国際通貨基金)のウェブサイトに書かれています。爆発的な感染拡大が起きているオーバーシュート状態の対策(フェーズ1)と完全ではないけれども感染拡大の抑え込みができて、経済活動の段階的回復が見込める沈静期(フェーズ2)にわけて考える必要があるのです。

 昨年の今の時季は感染拡大予防を最優先とし、経済活動を全面的に自粛する緊急事態宣言を発令していました。営業休止や操業停止をせざるえなくなった事業者が倒産・廃業に追い込まれ、さらにはそこで働く従業員が解雇されないように政府が持続化給付金や休業補償、雇用調整助成金を支給したり、国民全員に一律10万円の定額給付金を支給しています。護りのフェーズであり、私は心臓外科手術のときに心肺を停止させて人工心肺で術中の生命維持をはかるのと同じだと形容していました。

しかしいつまでも人工心肺をつけたままにしておくわけにはいきません。なるべく早く自発鼓動や呼吸に戻し、術後の機能回復訓練を行っていく必要があります。長く経済活動を停めていると事業者がどんどん倒産・廃業に追い込まれて事業再開ができなくなります。失職者たちは勤労意欲を消失し職能を腐食させていくことになります。これを私はサプライサイドの壊死と呼んでいます。

感染収束が見えかけている現在においてとるべき対策は民間事業者の再興や失職者の社会復帰を促すものへと転じさせなければなりません。対面サービス業の打撃がかなり深刻なままでそこへの財政支援は継続しないといけませんが、既に回復傾向にある業界や事業者については積極的な事業拡大や事業投資を行っていただき、失職者の再雇用を促していく必要があります。また失職や著しい所得減少に見舞われてしまった方についても成長産業や企業への転職やそのための就労訓練制度を利用していただき、経済的再自立を目指していただく段階になっています。

これまで政府が行ってきた事業者向けの持続化給付金や補償金は事業をとりあえず継続できるようにするという護りの政策でした。金融政策もそうです。収入激減の中での固定費の支払いや銀行による貸し渋りなどで資金づまりが起きて倒産したりすることがないようにするという意味合いが強かったです。あと金利を抑え込んで事業者が抱え込んだ債務負担を軽減する役目もありました。しかし感染収束期に転じてきたならば財政政策や金融政策の意義や目的が変わってきます。新たな事業への挑戦を促すためのものとなっていきます。

昨年秋に自民党内の勉強会である経世済民政策勉強会の提言について紹介しました。この提言書についてはマスコミやネットで提言のひとつである定額給付金再支給要請のことばかりが注目されてしまったのですが、それよりも金融緩和政策の強化や医療機関と対面サービス業への集中支援、GoToトラベル延長、防災インフラ整備事業に力点がおかれていたものです。

給付金の追加だけではない経世済民政策研究会の提言 - 新・暮らしの経済手帖 ~時評編~ (hatenablog.com)

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

 下は昨年10月の提言書です。

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 しかしこの勉強会は今年3月にも開催され、新たな政策提言書も作成されました。

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前回のときと同じく金融緩和政策のコミットメント強化や金融機関による貸しはがし防止と積極融資促進が提言されていますが、任期中の増税を行わないことのコミットメントや成長指向的な経済対策を打つことも盛り込まれています。定額給付金や持続化給付金については一律ではなく低所得者層や中小企業など的を絞ったものとなっていました。コロナ禍は特定の業種に偏って被害が集中してしまう特殊性を考慮したものとなっています。

ネット上の経済政策についての発言を読んでいて感じることですが、上で述べたような状況や段階に応じて政策対応にしていかねばならないということを理解している人が少ないです。昨年春に行われた緊急事態宣言Ⅰと今年初頭に行われた緊急事態宣言Ⅱはやり方や考え方が異なっており、前者は全般に、後者は局所的に実施されています。未だに「定額給付金を一律支給せよ」と言っている人たちはナンセンスです。先に述べたように打撃を受けた業界が局所的に集中してしまっているのが、今回の危機の特徴です。逆に感染拡大期のときにも関わらず「消費税を減税もしくは廃止せよ」とか「もっと規制緩和をしろー」と主張する人たちも的外れです。今後新コロナウィルス感染が抑制され、経済活動が本格的に再開できる状況に転じたときには給付金などよりも減税や規制緩和といった政策が活きてきます。

私はこれまで金融政策を重視する姿勢ととってきましたが、新コロナ感染拡大期においては財政政策の方に力点をおいています。感染収束期が見えてきたならば再び金融政策主導へと態度を切り替えていくつもりです。

財政政策についても、個人や事業者を庇護するかたちのものから、成長指向型へと切り替えていかねばなりません。今回の危機で政府は巨額の財政出動を行ったために、財政危機やら物価や金利高騰を危ぶむ人たちが多いですが、これについて私はあまり心配はしていません。むしろ今後もしばらく積極財政を進めるべきだと考えています。しかしながらその内容は企業や個人の経済的自立を促すものでなくてはなりません。サプライサイドの壊死を防止するだけではなく、強化を目指していかねばならないでしょう。財政支出が多少増えて金利上昇や物価上昇があっても、それを上回る成長があれば、わたしたちの生活に大きな支障を与えることはないでしょう。今後の民間事業の成長と発展と噛み合うかたちの財政支出となっているかどうかが大事であると私は思います。

 

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