新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

緊急事態宣言解除後も終わらないコロナウィルスとの闘い

今月に入って延長が決まってしまったコロナウィルス感染拡大防止のための緊急事態宣言ですが、自粛要請で営業・操業を休止させられ深刻な売り上げ落ち込みと月々の支払いの板挟みになって苦しんでいる民間事業者の経営者らにとって非常に酷なことになっています。出口の見えないトンネルの中を延々と歩き続けないといけないような閉塞感や不安感に苛まれます。私はコロナ感染防止のための行動制限解除に慎重な態度を持っていますが、経済活動抑制による倒産・廃業・失業・所得激減といった理由が引き金となる自殺などの経済関連死を無視することはできません。

 

私は休業を強いられる民間事業者に対する休業補償や助成金、つなぎ融資などといった継続策や一般個人への現金給付などといった政府や中央銀行による財政金融政策の積極拡大を訴えてきましたし、もたつきが感じられつつも日本政府はそれを実行させてきています。しかしながらこれから先何か月も心臓の動きを停め、人工心肺で循環を代替するようなことを続けられません。

 

幸いなことに日本の場合、欧米ほどのひどい感染爆発(パンデミック)は発生せず、2020年5月7日現在感染拡大の抑え込みができているように見受けられます。政府の緊急事態宣言は5月末まで延長となりましたが、いまの状態が今後1~2週間続いたのではあれば行動制限の緩和が視野に入ってきます。5月14日前後にその見通しが示されることでしょう。 つい先日阪大の中野貴志教授らが作成した論文を目にしましたが、これに添付されているグラフを読んでみると4月頭から既に累積感染者数を1週間前の累計感染者数で割った値の逆数を1から引いた値”K”が順調に下がってきています。

K値で読み解くCOVID-19の感染状況
と今後の推移

http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/~nakano/note2.pdf

感染の封じ込みに成功した台湾のK値は-0.0524、韓国は-0.0820にまで下がりました。日本においても5月中旬あたりにK値が他の感染収束宣言を出している国と同じレベルの0.5あたりになると予測されます。やはりこのあたりが行動制限の緩和を判断する目途になっていますね。

 

大阪府の吉村洋文知事は政府の緊急事態宣言を請け、府が行ってきた自粛や休業の要請をどのような条件でどのような順序で緩和や解除を進めていくのかという出口戦略(テーパリング)の方向性を府独自で以下のように示します。

▽1日当たりの感染経路がわからない患者数が10人未満であること
新型コロナウイルスに感染しているかどうかを確認する検査を受けた人のうち陽性者の割合が7%未満であること
▽重症の患者を受け入れる病床の使用率が60%未満であること
の3つの指標のすべてを7日間連続で満たすこと

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いち早い緊急事態宣言の解除で経済活動の全面再開をと期待したいところですが、恐らく段階的に行動制限の一部緩和していくようなかたちでテーパリングさせていくことになるでしょう。吉村知事は「報道では出口戦略ばかりですが、第二、第三の波が来ることも想定する必要があり、それに備えた、出口戦略と逆の入口戦略も策定しました」と感染再発散という事態を見据えた発言もされています。同じく維新の会である松井一郎大阪市長は「そもそも、感染症だから効果のあるワクチンと治療薬が出来るまでは緊急事態ですよね。」というツイートをしました。コロナウィルスとの闘いはかなりの長期持久戦となるという覚悟を私たちは持たないといけないのです。

 

緊急事態宣言が解除をされたとしても、経済活動が100%元通り完全復旧できるという期待はできません。事業者が営業もしくは操業再開したとしても入場制限をしたりして、社会的距離をとったり3密状態を回避したりするなど相当な制約がついてしまうでしょう。改めて取り上げてみたいですが、国会議員の細野豪志さんは「緊急事態宣言が解除された後も新しい生活様式が維持されることを考慮すると経済の回復は6割から7割の水準にとどまるものと予想されます」と仰っていますが、私もそう予測しています。

緊急事態宣言の延長で求められること | 衆議院議員 細野豪志オフィシャルブログ Powered by Ameba

 

残念ながら今後も世界中が経済活動の最大の敵というべき不確実性と対峙し続けなければならないのです。この間に多くの民間事業者が倒産したり、廃業を決断するようなことになっていくでしょう。会社経営者でなく一般就労者たちも雇用や所得の不安定化に翻弄されていく可能性が高いです。

 

前回「緊縮財政目的で緊急事態宣言解除を早めるのはまずい 」と題して記事を書きましたが、一部の自称・自由主義者や財政規律偏重主義者たちが期待しているように緊急事態宣言解除によって国家や政府による財政政策や金融緩和政策の必要性が低くなるわけではありません。緊急事態宣言を早期に解除したとしても民間事業者の壊死を即時食い止められるほど事態は甘くないのです。一度事業を休止したり畳んでしまった民間事業者が商売替えなどして再出発するにしても、新たな投資が必要となります。ですので金融緩和政策の拡大で資金調達がやりやすくなる手立てをせねばなりませんし、所得が著しく減少してしまっている人たちへの給付もやらねばなりません。

 

経済再生への道は想像以上に長い道のりになるでしょうし、国家や中央銀行はかなり手厚い財政や金融の手当をし続けることになるでしょう。経済や産業構造が一変していくことになるかと思います。コロナショック後の経済政策について考察していきたいと考えます。

 

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