新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

コロナショックと長期景気悪化への対処が同時に求められている

コロナウィルス蔓延によって世界各国で生産活動の停止や旅行・興行・外食などの自粛によって経済活動が沈滞しています。小さな政府志向が強く民間の経済活動に政府が介入することを嫌うアメリカや財政規律(オルド)を過剰に遵守したがるドイツに至るまで金融政策・財政政策共々緩和全開状態です。形振りかまっていられない状況でしょう。

 

コロナショックは東日本大震災と同じく巨大災害です。世界規模で発生する急激かつ大規模な供給・需要ショックに民間個人や企業単独では対処しきれません。平時においては民でできることは民に委ねるべきですが、このような有事においては積極的に政府が出動するのは当然のことでしょうし、それが国家の存在理由といえましょう。

 

それはさておき今回の主題である日本におけるコロナショックによる経済的打撃への対処について述べていきます。その前に昨年10月の消費税増税の悪影響も加味した景気への悪影響の規模を把握しないといけません。今回の場合有効需要と生産供給力をフル稼働させたときの潜在GDPのギャップが最悪マイナス1%近くまで落ち込む可能性があります。いまの日本の年間GDPが約530兆円でその1%となると最低6兆円ほどの財政出動が求められます。さらに長期不況を回避するとなると10兆円規模の財政出動が望まれるでしょう。識者次第によっては20~30兆円規模の財政出動や金融緩和政策を主張する人もいます。

 

具体的対応策について述べる前にひとつ頭に入れておかねばならないことがあります。

それは日本の場合

  1. 2018年末からはじまった景気後退
  2. 2019年10月の消費税10%への増税とその影響による消費・投資の冷え込み
  3. コロナショック

の三重苦に見舞われているということです。

あとで述べますが、1と2の対処は同一で考えていくものの、3の対処は異なってきます。1、2と3がお互いに絡み合っていることも否定できませんが、1,2はどちらかといえば中~長期の経済問題で、3は緊急性を要することです。けがや病気に例えれば前者は慢性疾患で後者は急性的かつ劇症的なもの、あるいは交通事故などによる大怪我です。コロナショックの経済的対応策は救急治療に近いものになります。いま1,2と3の対処を同時進行でやらないといけませんが、頭の中できちんと切り分けはすべきかと思います。両者で治療方法が異なるからです。1,2の対策は消費税減税が対策案のひとつに入りますが、減らす税率をどの程度にするのかという話は後でしましょう。

 

まず1,2の問題は置いて、緊急性が極めて高い3のコロナショックへの対処についてから入っていきます。先に述べたように今回のコロナショックでもっとも大きな経済的打撃を受けているのは中国からの部品供給が停まって生産活動ができなくなってしまった製造業者や流通業者、インバウンド観光客の激減や外出自粛で需要急減に見舞われた観光業界やバス・タクシーなどの輸送業、外食産業でしょう。生産停止や予約客キャンセルなどで売り上げが急減したり、不良在庫を抱えて大きな損失を被ったにも関わらず、人件費や光熱費、賃料、税金等の固定費の支払いや銀行融資の返済が押し寄せてきます。大・中・小・個人を問わず事業者にとってキャッシュフローが圧迫されるというのは非常に危険な状態です。

コロナ自粛という僅か数ヵ月間だけのために業者がバタバタと潰れ、その結果多くの失業者を生むなどということになれば供給側(サプライサイド)の壊死となります。反対の需要側(デマンドサイド)もさらに萎縮して、ひどいデフレ不況へと進むでしょう。とにかくキャッシュフローがつまってしまった民間業者の倒産・廃業を食い止めないといけません。もちろん休業に追い込まれた従業員への所得補償もすべきです。

 

いま資金繰り悪化に悩まされている事業者に対しては

  1. 大きな損失を抱えた事業者に対する損失補填補助金や無利子・無担保・無審査の政府保証融資を拡充する。貸出制度の申請は簡便化、 現在のマイナス金利を活かすのも手。
  2. 雇用調整助成金の支給や光熱費支払いの政府立て替え、所得税や消費税、社会保険料、今年度支払い消費税、固定資産税などの納付免除(延期)など固定費負担の軽減を計る。所得税法人税の還付も。
  3. 銀行による貸し剥がし貸し渋りを防ぎ、金利上昇を防ぐための金融緩和政策をしっかりやる。量的金融緩和拡大によって準備預金(MB)を積み上げそれを防ぐ。

あと休業している非正規雇用のサービス業従事者等については休業補償制度や臨時給付金の交付による手当が必要になります。

 

コロナショックによる供給・需要ショックへの対応策は考えればわんさと出てきますし、多くの経済学者から数たくさんの提言がなされています。予算については超低金利状態ですし、これまでの安倍政権時代に積み重ねた”ため”もあります。予算のことを心配するよりも、この短期間で民間の事業者や従業員の雇用を守ることが先決です。そうしないと逆に将来得られるはずだった税収を失ったり、公助依存者を増やすことになりかねません。民間企業に融資する側の銀行も借り手を失えば、ますます収益性が悪化するだけです。公助で支えるといってもごく一時的なことですので、財政問題の観点からいっても大きな問題ではありません。

 

次に慢性的消費低迷が原因であると考えられる長期不況への対処ですが、これは消費税減税や一般消費者の家計を助ける給付付き税額控除制度の導入が考えられます。先に1,2とコロナ対策の3は政策目的や手段が異なり、切り分けをすべきだと述べました。私の場合、消費税増税反対論者でしたが、コロナショック対策の中に消費税減税は入れていません。消費税減税は恒久減税であり、慢性的な消費低迷に対処する方策と位置付けています。コロナショックのように収束まで数ヵ月程度という短期需要ショックの対処には機動的だとはいえない消費税減税は適応外だと考えているからです。少し考えてみるとわかりますが、僅か数ヵ月のうちに何度の税率を変更できるのでしょうか?その度ごとに小売商店はレジスターやPOSシステム、値札の貼り換えをしないといけないのでしょうか?

自民党の一部グループ(西田昌司議員など)が消費税を0%にすべきだと進言していますが、この場合19.4兆円、約20兆円の財政政策となります。冒頭で述べた経済損失想定額6~10兆円と比較すると額が大きすぎます。それにコロナショック後に需要が急回復したら、どうするのでしょうか。それから慌ててまた消費税を増税するとなると大混乱を招きかねません。

中長期視点で考えると減税する消費税の税率設定は全品目8%(約2兆円規模)できれば5%(約6兆円規模)に戻す程度に留めておいた方がいいのではないでしょうか。もし仮にコロナショックの収束がかなり長引いてしまった場合は給付金など他の機動的な財政出動で補填すればいいことです。

 

誤解がないよう申し上げておきますが、いま起きていることは長期不況とごく一時的なコロナショックの併発です。両方の手当を同時にやらないといけません。1,2と3は切り分けて考えるべきだと申し上げましたが、消費税減税や給付付き税額控除制度の導入もいま検討すべき事柄です。コロナショック収束後に需要が2018年までと同じ勢いで回復するという見込みがないと、事業を畳んでしまう業者が続出し、雇用悪化につながりかねません。

 

この国はこのまま長期不況へとフェードインしてしまうかどうかの瀬戸際に立たされています。

 

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