新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

コロナショックで隠れた消費税増税の悪影響を無視するな

前回コロナショックによる経済的打撃とそれより以前からはじまっている景気減速の動きに対する手当についての記事を公開しました。私は両者の性質が短期劇症型と長期慢性型で異なっており、対応策は違ってくるということを言うと共に、両者を同時に進めないといけないことも伝えました。政策の切り分けです。

 

前回記事

コロナショックと長期景気悪化への対処が同時に求められている 

 

コロナショックについての手当は現在急激な売り上げ減少と固定費の支払い・融資返済に苦慮し、廃業や倒産の危機に晒されている民間事業者やその従業員の雇用維持、所得保障(補償)が中心となります。私は消費税減税はここに含まれず、中~長期の慢性的経済低迷への対応策だと述べました。

 

しかしながらこれは大きな誤解を招きかねない発言であると思います。そこで追加記事を書くことにしました。一昨日3月19日前後よりかなりトンデモなコロナショックに対する経済低減や記事がいくつも出ております。その代表は小林慶一郎氏や佐藤主光氏ら経済学者10人が立案し、東京財団政策研究所から発表されたものです。

www.tkfd.or.jp

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賛同人からして、日頃から不必要に国家財政危機やハイパーインフレの不安を煽り、金融機関や財務省の言いなりになって金融緩和政策や積極的財政政策を妨害し、消費税をはじめとする増税や歳出抑制ばかりを唱えてきた面々です。

提言内容を見ますと

所得の急減が一時的であれば、必要な支援は現金を贈与することではなく、一時的に現金を融通すること(流動性不足を融資で解消すること)

現金給付を否定して貸し出しにしろと言っていたり、公的資金による株価対策は100兆円という上限をつけていたりとかなりせこい内容のものです。

また

いま新型コロナ問題で急激な業績悪化に苦しむ中小企業を支援すべきことは言うまでもないが、それとともに適正なスピードでの企業の新陳代謝を促す政策も組み合わせることが必要である

 と清算主義的な文言が書かれているのも引っ掛かります。コロナショックに耐えられない弱い企業はどんどん潰してしまえということでしょうか。

 

それからさらに次のような記事を見つけました。久留米大学商学部の塚崎公義教授が書いたものです。

その文中で目を疑うような記述を見つけます。

そもそも、今の消費が落ち込んでいるのは、消費税のせいではなく、新型コロナウイルスの感染拡大防止のための外出自粛などが原因だ。消費税を減税しても消費が増えるとは限らない。

 

今回の短期的な急激な景気の後退に対する対応策として、消費税を下げるのが良いとは思っていない。それは、上記のように、消費税は短期的に大幅に税率を変更すると買い控えや駆け込み需要を誘発するからだ。

論者の中には、「とにかく消費税は景気に悪いのだから、下げれば景気が良くなる」「昨年秋に景気が悪化した原因が消費増税なのだから、消費税率を戻せば景気が良くなるに違いない」と考えている人も少なくない。

これについては、筆者としては「消費税と台風と暖冬と輸出減少がたまたま重なったために経済指標が悪化したが、新型コロナウイルスの問題がなければ景気は再び回復していたはずなので、消費増税で景気が悪化したわけではない」と考えている。

 塚崎教授のような「消費税と台風と暖冬と輸出減少がたまたま重なったために経済指標が悪化した」などという見方は無理筋だということは国会で馬淵澄夫議員が指摘していたことです。台風の被害を直接受けなかった西日本でも著しい消費減退が見られています。言い逃れはできません。

 参考記事

”内需総崩れ”状態の経済に対するダメージコントロールができない政界

塚崎という人は一応「消費税は良い税だとは思っていない」と言ってはいます。しかしながら昨年末から深刻化した「内需総崩れ」と言われる消費や民間投資の落ち込みを軽く見過ぎているのはかなり問題です。もう一度念押しして言っておきますが、それが起きたのはコロナショックより前のことです。「新型コロナウイルスの問題がなければ景気は再び回復」などと高をくくっているのは極めてまずいことでしょう。

 

あと塚崎以外もこのような記事を書いている人がいました。

 

 上の東京財団の緊急経済提言の賛同者の一人である土居丈朗慶大教授の記事です。

 土居教授はいま大事なのは感染拡大防止で、これをやるために医療分野に資力を集中させることが、最も効率的な経済政策だと述べると共に、感染拡大を促しかねない高齢者への給付と公共事業積み増しといった財政出動は百害あって一利なしであると斬り捨てています。

さらに

退職した高齢者の主な収入源は年金で、給料を受け取ってはいないのだから、今回の感染拡大で所得は減っていないはずだ。高齢者は、新型コロナウイルスの感染によって重症化するリスクが高いと言われる。従って、給付金を受け取って観光に出かけるなど、感染拡大防止の観点からしてもってのほかである。だから、消費税を減税して高齢者の消費を下手に喚起するのではなく、同じ財源を経済的打撃を受けた人に集中して支援した方が効果的だ。

などと言っています。

 

どうせいま外出や渡航、興行の自粛をやっている最中だし、年金をもらっている高齢者の所得は変わっていないのだから、消費税の減税で消費喚起という発想は有害ですらあるという論法は一見すると頷いてしまいそうですが、消費税減税の恩恵を受けるのは高齢者に限ったことではありません。現役の勤労者にもメリットを与えます。土居がやっている消費税減税を高齢者向けの政策だと思い込ませる誘導は狡い手でしょう。

 

さらに言いますと、いまコロナショックを機に廃業や事業縮小を考えている事業者はそれだけの理由ではなく、消費税増税以降から需要が急速に冷え込んだことも含まれている可能性があります。コロナショックが収束した後には景気が回復するといった楽観視を経営者らが持てないままだとすると、そのまま長期不況にフェードインする危険があります。消費税減税の提案は今のための対策だけではなく、収束後のいち早い経済回復を見込んだものであるのです。

 

また土居らのように「同じ財源を経済的打撃を受けた人に集中して支援した方が効果的だ」と考える人たちがいま大勢出てきていますが、その選別を政治家や役人らが正確にできるのかという疑問が出てきます。今回の場合は無選別で迅速性の方を優先しないと、コロナショックが収まった後も経済活動は供給側・需要側共々萎縮したままとなり重い後遺症を引きずることになりかねません。

 

いまわたしたちがしっかり認識しないといけないのは、慢性的消費低迷を主因とする長期不況がじわじわ進行しているということです。コロナ禍の中でそれが隠れてしまって人々の関心が向かなくなっているのです。もし仮にコロナショックが起きなかったとしても、消費税増税の悪影響や景気問題が大きく取り沙汰され、安倍政権への非難が集中していたことでしょう。

 

突然の売り上げ減少や操業停止でキャッシュフロー(資金繰り)が詰まり、苦境に喘いでいる民間企業やその従業員らを保護することを最優先すべきときですが、消費税減税や継続的な給付金制度、そして民間企業の投資意欲を保つための金融緩和政策も同時進行でやらないといけません。

 

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