結局かなり高くついてしまうことになりそうな消費税増税
前回は2月17日に発表された内閣府の2019年10~12月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値において、内需が総崩れとなっていたことや、同日に馬淵澄夫議員が行った国会での安倍総理らへの質問について取り上げました。
動画 馬淵澄夫議員による国会での質問
馬淵議員の質問は安倍政権が消費税増税による消費への悪影響を防ぐために軽減税率やキャッシュレス還元などいった対策を打ったものの完全に消費が冷え込み、街角景気だけではなく内閣府発表のデータにもそれが現れてしまっているではないかというものです。動画の25分目あたりで馬淵議員はキャッシュレス還元などで2兆円、住宅ローン減税などで3000億円程度、両者を合わせると消費税収1%分の予算を投じたにも関わらず効果を発揮したのかと梶山弘志経済産業大臣を詰めていますが、これを聞いて私は「増税をして一体何をしたかったのだ?」と思ってしまいました。消費税の増税で多少税収を伸ばしても、その半分を景気対策と称する財政支出で相殺してしまっているわけです。この先もっと景気悪化が深刻化し、雇用とかにも影響が出てくる可能性が高そうです。そうなったときに大規模な財政出動を余儀なくされることでしょう。そうなると完全にマッチポンプで非常にバカげた話です。
政治家や官僚らは増税をやって景気が悪くなっても、あとで財政政策を奮発させすれば何とか取り繕えると考えがちです。しかしながら過去にやってきた日本の景気対策と称する財政出動は空回りばかりしていることが多かったように記憶しています。消費税率を3%から5%に引き上げた橋本龍太郎政権のときも、やはり直後に景気の冷え込みが起きてしまい、そのあとの小渕恵三政権がかなりのバラ撒き財政をやりました。しかし当時の財務大臣だった宮澤喜一氏が述べたように大規模な財政出動をやっても「ヘドロにコンクリートパイルを打ち込むようなもの」というぐらい効果が薄く、国家財政の悪化が進んだだけでした。今の状況ですとさらなる追加の金融緩和政策だけではなく財政拡大政策も必要だと私は考えていますが、いままでの前例からいくと政治家・官僚は的外れかつ姑息で場当たり的な景気対策しか思いつかず、死に金だけを垂れ流すような結果に終わるような気がします。
今回の景気失速は消費税率を10%に増税した2019年10月より前の2018年末からはじまっていたので、消費税の増税がすべて悪いということはいえません。私はむしろ安倍自民政権の油断がもたらしたものだと見ています。この政権が2013年からはじめた大胆な異次元金融緩和政策によって民間の設備投資や雇用が順調に伸びて、6年近くに渡って良好な経済状態を維持し続けました。初期のアベノミクスは非常に画期的なものだったと私は評価しています。しかしながらその政策効果が消費者側の消費行動変化という形で現れないまま、2018年から景気失速しはじめました。「消費なき景気回復」です。
2018年1月頃に私はこのブログの「アベノミクスとリフレ政策 」編の終盤でアベノミクスが残した課題についていくつか記事を書きました。
記事1
「なぜ物価がなかなか上がらないのか? ~アベノミクスが残している宿題 その1~」
記事2
「恒常所得向上が消費活発化の肝 ~アベノミクスが残している宿題 その2~ 」
記事3
「リフレは継続なり ~「アベノミクスとリフレーション政策」編最終回~」
この当時の時点で私はアベノミクスで民間投資や雇用は改善したけれども消費者の行動がなかなか変わらず、物価上昇がなかなか起きない問題について考察しています。消費者が将来の雇用不安や収入不安定化に怯え、好景気で一時的に所得が増加しても簡単に消費を増やそうとしない点について指摘しました。それから1年後日銀副総裁の任期を終えられた岩田規久男さんがロイターのインタビュー記事で同様のことを仰っています。
残念ながら安倍政権は最後の消費回復をいかに計るかという宿題をやりこなさないどころか、明らかに消費を冷え込ませる危険が高い消費税の増税を行いました。やがて消費低迷が足を引っ張るかたちで、民間企業の投資や雇用意欲まで低下させはじめることになり、中途半端なかたちでアベノミクスを頓挫させようとしています。
この先民間企業側は消費・需要が頭打ちになることを予想し、投資や雇用を控える動きが鮮明になっていくと私は予測しますが、そうなってしまうとせっかくの異次元金融緩和政策は失効してしまったと判断せざるえなくなります。金融緩和政策というカードを失ってしまったとなると、減税や給付の他に公共事業の拡大などといった財政政策を拡大するしか道がありません。これは大きなギャンブルです。安倍政権はこれまで堅調な経済のおかげで財政状況を改善させ続けてきましたが、このまま景気失速するとなると税収の大きな落ち込みと雇用難による失業給付や生活保護などの社会保障支出増大も覚悟しないといけなくなります。
先に述べたように消費税の増税が景気悪化の元凶だとは言えませんが、それを悪化させた可能性はかなり濃厚でしょう。これから消費税増税で増える税収以上の他税収や歳出肥大化を招くことになっていく恐れがあります。
今回一部で消費税減税を主張される方も出てきていますが、それで消費税の増税による購買量低下で経営破綻した百貨店が復活するわけではありません。一時的に財政出動をやってもそれで消費者の将来に対する不信や不安感が払拭されることもないでしょう。消費税増税がもたらした禍根を取り去ることは極めて難しいかと思われます。
あえてこちらから今後の対策について提言しますと、消費者の所得不安定化に対する不安を取り除くための政策として、給付付き所得税控除(もっと進めてベーシックインカム)の導入を検討すべきではないでしょうか。本来政府はこうした再分配政策よりも、金融政策による雇用安定化で多くの勤労者に「自分たちの雇用や所得は守られるし、伸び続ける」という予想や期待をつくっていくべきでした。しかしながら金融緩和政策というカードを失ってしまった場合、給付付き税額控除やベーシックインカムという方法でしか、国民所得の安定化を計ることができなくなります。かなり大掛かりな話ですが。
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