新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

”内需総崩れ”状態の経済に対するダメージコントロールができない政界

中国発の新型肺炎コロナウィルスの蔓延で、かなり騒がしくなっていますが、日本の経済状況もじわじわと悪化の兆候が見られています。統計からみると景気のピークは一昨年末あたりだったのですが、にも関わらず安倍政権は消費税率10%増税の先送り・中止をせず、昨年2019年10月に増税を決行してしまいます。

 

今月2月17日に内閣府から発表された2019年10~12月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値ですが、実質GDP伸び率(物価変動分を差し引いたもの)が前期比マイナス1・6%、年率換算は6・3%減と落ち込み、ネット上でも”内需総崩れ”という見出しが流れます。

GDP、5四半期ぶりマイナス 増税・台風で年6.3%減―10~12月:時事ドットコム

www3.nhk.or.jp

政界や官僚、マスコミなどは消費税の影響に関することは意図的に避けて、経済状況の悪化は海外経済情勢の悪化とか、昨年襲った大型台風ならびに暖冬など気候の影響のせいであるという論調で発言や記事の執筆をしています。しかしながら各地域の鉱工業生産指数の低下や小売店の売り上げ減少の動きは台風の被害を受けていない地域を含めた全国規模でみられるものですので、台風の影響だというのは無理筋でしょう。

 この発表があった同日に馬淵澄夫議員が国会で安倍総理西村康稔国務大臣麻生太郎財務大臣らに景気判断や税収の見通しの甘さや景気対策の不備に関する質問を行いました。f:id:metamorphoseofcapitalism:20200219200411j:plain馬淵議員は内閣府発表のデータや消費税増税前後の実質家計消費支出のグラフなどを用いて厳しい状況を伝えると共に、経済指標の数値悪化の原因は天候や米中貿易摩擦などの海外経済情勢のせいにし逃げ答弁をする安倍総理や西村国務大臣らを突いていきます。 

 安倍総理らは「良好な雇用と所得の環境に加え、経済対策の効果が発現していくことを踏まえれば、わが国の経済は基調としては、今後とも内需主導の緩やかな回復が継続していくものと考えている」などと、かなり楽観的すぎるといっていい姿勢を崩していませんが、問題の内閣府発表のGDP速報値内訳の詳細をみていくと、かなりまずい点に気がつかされます。

 

GDP=投資(I)+消費(C)+政府支出(G)+海外部門(輸出EX-輸入IM)ですが、多くの人にとっていちばん目につき、明らかに景気の足を引っ張っていると思われるのは民間消費Cの6・3%減(前年度比11%減)でしょう。こちらのブログでも消費がなかなか伸びない問題について指摘してきております。

しかしながら今回の速報値で最も注意すべきことは投資(I)の落ち込みが目立つことです。民間設備投資2・4%減(14・1%減)、住宅投資0・3%減(10・4%減)です。

 

不況のときに最も落ち込む有効需要は投資(I)であり、標準的な経済学の考え方ではこれを盛り返すことが景気回復の肝と考えます。これはかつてケインズが説明していたことであり、金融緩和政策などを駆使したリフレーション政策も民間投資の活発化を促すことを重要視してきました。投資と聞けば株とか不動産取引みたいなものを連想する人が多いですが、企業がモノやサービスの開発・生産・販売のために資金を注ぎこむことであり、社員を雇用することも人への投資となります。民間投資が減少となってきた場合、勤労者は雇用縮小・賃下げという事態を覚悟しないといけません

投資の不振は前回の消費税率8%増税の直後にも見られましたが、年率換算7・3%減程度でした。しかし今回はその倍の年率換算14・1%減の落ち込みです。

 

2012年末に第2次安倍政権が発足し、翌年から異次元の量的質的金融緩和政策や積極財政政策、規制緩和などを盛り込んだ経済政策アベノミクスがはじまりました。これはリフレーション政策の考え方を採り入れた画期的経済政策で、約7年に渡り民間投資や雇用改善をもたらし続けました。私は中央銀行総裁によるインフレターゲットのコミットメントを採用したリフレーション政策が奏功した証拠として民間設備投資が2013年初頭を始点に上昇してきた点や長期雇用と育成が前提となる新卒学生の企業側求人倍率アベノミクス以降高まったことを挙げています。逆をいえばこれが崩れてくると、アベノミクス及びリフレーション政策の頓挫や失効という由々しき事態を憂慮しないといけません。リフレ派経済ブロガーである私にとってかなり受け入れ難いことが現実化しつつあります。

 

今まで消費(C)の回復がいまいちだったものの、企業投資と雇用だけは伸び続けていました。これは金融緩和政策の効果が最も出やすいもので、これまで二度の消費税増税社会保障関連の引き締めといった緊縮策をとってきたにも関わらず、景気が持ちこたえた理由であるとみていいでしょう。ところがこの金融緩和の効果まで息切れしてしまうと、不況再発がかなり濃厚になってきます。

 

金融緩和政策で企業が積極的にお金を遣うようになり、それに伴って雇用も順調に伸ばし所得分配を促すことに成功したが、所得が増えたはずの勤労者=消費者の消費行動がなかなか積極的に転換せず、消費低迷や物価の抑制が続いたままになっています。そこへ消費税の増税が追い打ちをかけ、さらなる消費抑制やデフレ誘発を招いた可能性が高いのです。消費低迷や物価抑制は生産・販売者側である企業の再投資を躊躇わせます。この問題を一層顕著にしてしまった結果が、今回の速報値でしょう。

 

今回の景気悪化兆候は消費税増税だけによるだけものではなく、その前からはじまっていたことでした。しかしながら景気悪化に追い打ちをかけたことは否定できないでしょう。本来ならば簡単に消費意欲が回復しない一般消費者に対する減税や家計支援のための恒久的給付金制度(給付付き税額控除)などの施策を考えるべきでしたが、財務省を中心にこれを妨害し続けます。財務省は不必要に国家財政危機や社会保障制度不安を煽り、増税や歳出抑制を国民に強いようとします。多くの国民は政・官に対し「税ばかり重くなっていくのに、自分たちの生活は守ってくれない」という不信や不安を募らせていきます。消費抑制は国民にとって最大の生活防衛となっているのです。

 

今回の安倍総理や西村国務大臣麻生太郎財務大臣の答弁にはそのことへの思慮がまったく感じられません。

 

安倍総理が金融緩和政策をはじめとするリフレーション政策に理解を持ち、それを政策として実行してくれたことは大いに評価しますが、それによって得た民間投資の積極化とそれに伴う雇用の拡大という成果を自ら台無しにしてしまうようなことになってはいけないでしょう。

 

本来であれば労働者・生活者寄りを標榜する左派系野党が馬淵議員のように安倍・自民政権の経済政策の不備を徹底的に追及すべきなのですが、彼らは保守系政党顔負けの金融財政タカ派となってしまっています。そして相変わらず「桜を見る会」に関するスキャンダル追及ばかりに現をぬかす有様です。

 

このままですと、この国は前回書いた悪しき日銀理論や財政規律のことしか眼中にない財務省の役人らに呑み込まれ、民間経済が衰弱しきってしまう危険があります。私は「日本で金融緩和や財政政策なんか効果が出ないのだ」「政府や中央銀行は民間の経済活動なんか統治できないし、してはいけないのだ」という日銀理論を手術や抗がん剤放射線治療で癌は治せないという近藤誠の”がんもどき理論”と同じだと評しましたが、こんな論法がまかりとおってしまうならば、この国は”ホスピス経済”となるでしょう。

 

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