新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

コロナウィルス対策と景気後退への対処が同時に求められている今

新型肺炎コロナウィルス感染拡大によって、わが国においてもあちこちで混乱が起きています。感染防止のためにマスクが不足してしまったとか、人混みの中での感染拡大を避けるために企業が社員に在宅勤務・テレワークをさせたり、多くのイベントが中止になる他に、政府から全国の公立小中高校に3月2日より15日まで休校要請が出ました。

 

経済ブログであるここでは経済活動への悪影響について取り上げていきますが、自動車産業などの製造業においては中国に工場を建てたり、部品供給や輸出を行ったりしていますので、操業を停止しないといけなくなるような事態が発生したりします。また近年増加していた中国からの観光客を相手にしていたホテルやバス事業者などといった業種が予約をキャンセルされてしまい、大きな打撃を受けています。当然のことながらそうした事業者は資金繰りや従業員への給与支払いの問題に直面します。最悪の場合は倒産や解雇の発生につながりますが、そうでなくてもパートやアルバイトの人はいきなり所得が無しか激減してしまったりするわけです。

 

政府や政党もこの問題を承知していて、いきなり収益が断たれて資金繰りに困った企業のためのつなぎ融資や従業員の給与支払いに困っている事業者のための雇用調整助成金などといった施策を打ち出す動きが出てきています。最近かなり冴えた発言や行動が光出している細野豪志衆議院議員がブログ上でそれを提案していますし、安倍政権側もその考えを打ち出しています。

 

 今回の場合、消費低迷が足を引っ張ったであろう2018年末からはじまった景気失速の動きに加え、昨年2019年10月の消費税率10%増税によって消費や投資などの内需のさらなる減少を招き、そこへコロナウィルスショックが加わろうとしているのです。元々慢性疾患を抱えて体が弱っていた人が今回のコロナウィルスみたいな感染症に罹ってしまったような状態だと思っておいていいでしょう。さらに今年夏に開催されるはずの東京オリンピックを中止するか、別会場に振り替えるといった話まで浮上してしまっています。日本は二重・三重で大きな経済損失を被る可能性が出てきました。

 

そういう中で今後どういう経済政策を打つべきかなのですが、短期かつ急性的な経済ショックとなるであろうコロナウィルス問題への対処と、今後中期~長期に渡って進行しかけているデフレ・不況の再発という問題への対処にわけて考えねばなりません。上で述べたつなぎ融資や雇用調整助成金、安倍政権が打ち出している新しい休業補償制度の創設といったものは短期かつ急性的経済ショックへの対策です。コロナウィルスの蔓延期間が数ヵ月程度であるならばこうした短期集中型の財政出動で対処すればいいでしょう。この僅かな期間のために会社が潰れたり、失業者が出てしまうようなことがあってはなりません。国がポンとつなぎのためのお金を出してあげるべきでしょう。

 

それよりも厄介なのはコロナショック前からはじまっていた景気失速の問題です。本当は2018年より前から消費低迷やインタゲ未達成の問題をもっと真剣に考えるべきでした。安倍政権や黒田日銀がはじめた異次元緩和政策が奏功し、企業の投資や雇用については伸びてきたのですが、消費者側が動かないままで今日まで来ています。私はリフレーション政策で企業経営者の予想や期待を変えることに成功したけれども、消費者側の予想や期待をポジティヴに変えるまでには至っていないと見ています。そうなってしまっているのは1990年代以降ずっと雇用や所得の不安定化と減少が続き、多くの勤労者=消費者のネガティヴな予想が固着してしまっていることに拠るものでしょう。

おまけに財務省の役人らが政治家や御用学者、マスコミの口を使って必要以上に財政危機の不安を煽り、増税社会保障費などの歳出削減を企てています。多くの国民は増税ばかり進むけれども、国は自分たちの生活を守ってくれないという予想を強めていくことになります。それが生活費の切り詰めと貯蓄というかたちでの自衛策という行動を生んでしまうのです。流動性の罠みたいな現象が起きて当然です。

 

国民の頭から負の暗示を消し去るには、政治家や財務省の官僚たちが増税や財政規律偏重主義の過ちと失敗を認め、デフレや不況を克服できるまで増税や緊縮財政を行わないというコミットメントをすべきです。その証として手始めに消費税軽減税率5%を全品目に適用することが第一になります。

前回の記事「結局かなり高くついてしまうことになりそうな消費税増税 」でも書きましたし、細野議員も取り上げて下さっていますが、多くの人々が持つ所得減少や不安定化への不安を払拭するために給付付き税額控除の導入も進めていくべきではないでしょうか。

 

これまで安倍政権が肝入りで進めてきたリフレーション政策の主軸となっている金融政策は企業の投資意欲を引き出すことで雇用の最大化を計るものでした。私は金融政策を巧く活用し、安定した雇用と所得分配の実現を望んできました。これが成功すれば多くの国民に「国(中央銀行)が自分たちの雇用や所得を守ってくれる」という予想や期待を生み、消費も回復していくことにつながっていくからです。また今回のコロナショックで収益や所得が大きく毀損してしまった事業者や就労者にも雇用調整助成金や休業補償といった対策が行われようとしていますが、これもまた「国が自分たちの雇用や所得を守ってくれる」という予想や期待、信頼を生みます。

しかしながら給付付き税額控除やベーシックインカムといった所得保障制度があるならば人々の安心感はさらに増すことでしょう。

 

今後の経済情勢を見ていると税収の落ち込みや財政の支出が増加し、国の財政運営は厳しさを増すことになると思われますが、国民生活や民間企業を見殺しにしてしまうようなことをすれば、逆に国家(財政)破綻の到来を早めてしまう危険があります。「損して得とれ」の気持ちで景気対策を行っていくべきでしょう。

 

 

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