これまで発生してきた悪性インフレの事例を検証してきた「ハイパーインフレについて 」編ですが、まとめに入ります。こちらが気がついたハイパーインフレ(それに準ずる急性的かつ悪性なインフレも含む)の発生要因は既に述べましたが次のとおりです。
1 人・物資が枯渇し、生産や供給が著しく劣化してしまっている。
2 他国からの侵略や革命・クーデターなどによって貨幣の発行主体である政府の存続が危ぶまれる。(貨幣が無価値化する可能性)
3 他国に売却できる財を生産・供給する能力がないにも関わらず、政府が外国資本からの負債を膨張させ、他国や国際市場からの信認を失ってしまった場合
4 生産や供給が衰えているにも関わらず、負債の膨張や貨幣を濫発した場合
多くの人たちが思い浮かべるハイパーインフレの要因は貨幣の大量発行と国の債務(特に外債)の膨張です。財務省やその御用学者である経済学者・評論家の他に政治家やマスコミもそれでハイパーインフレが起きると煽るように言いふらしています。
「「リフレーション政策でハイパーインフレ」なんてバカげている 」でも書きましたが、世界的に標準的な景気回復策として既に採用されている量的緩和政策でさえも日本だと「ハイパーインフレが起きる」などといって妨害しようとする経済学者がわんさとおります。とにかくちょこっとでも市中のお金を増やしたら危ないとか、年率2%程度の物価上昇を目指すといっただけで「ハイパーインフレ」などというのは病的かつヒステリックにも程があるでしょう。
そして何よりも彼らはマネーのことにしか視野に入っていないのです。
経済学はおカネの動きを調べる学問だと思われがちですが、われわれの暮らしに最も重要なものはモノやサービスといった財=富です。マネーはモノやサービスといった財を交換するための媒体に過ぎません。われわれの暮らしに必要な物資やサービスがまんべんなく隅々まで分配されるかどうかが経済学において最も重要なテーマなのです。おカネよりもモノやサービスを尊重します。
ハイパーインフレについて調べるときについてもそうです。物資・サービスの調達や生産・供給が不足なく行うことができるかどうかという視点を持たないまま「お金が紙屑に」などと言って不安を煽っている人ばかりです。通貨の発行量や負債の減少を計っても物資とサービスの生産・供給が滞り、交換される商品が無くなってしまえば貨幣は意味や価値を失い持っていても意味がなくなります。ジンバブエやベネズエラは交換価値のあるモノやサービスが枯渇した状態ですので、我々がそうした国の貨幣を持っていても何も得られません。
前回飯田泰之先生の初心者向け経済解説本「世界一わかりやすい 経済の教室.」を取りあげましたが、この本の中で不況は
1 生産・供給側(潜在GDP)の縮小による実力不足型不況と
2タイプがあることを説明されております。
飯田先生は日本の場合「失われた20年」の間にモノやサービスの生産・供給能力に対し有効需要が不足するギャップ型不況と同時に、潜在GDPも萎縮していく実力不足型不況も進行していることを指摘されています。
つまりは有効需要が慢性的に不足し、モノやサービスが生産しても売れなくなっていくと、供給側の企業は設備や人員を縮小して減産を繰り返すようになっていきます。売れるかどうかわからないものに対し多大な研究開発費を投じるようなこともしなくなります。デフレの進行で企業が倒産・廃業をし、技術者たちが職を失っていくと日本の国全体の技術力が腐食していき、産業競争力がじわじわ失われていきます。
日本がモノやサービスの生産・供給がまともにできない国に落ちぶれていけば、中国をはじめとする新興国にどんどん経済的シェアを奪われていくことになりかねません。そうしたことが悪い自国通貨安を招き、将来深刻なスタグフレーションを招くことにつながりかねないのです。
いまの中高年齢層を中心に未だ「日本は豊かな国だから」「経済大国だから」という甘い認識から抜け出せていないように見受けられます。私はこの先日本がアルゼンチンのようにかつては豊かだったが、どんどん没落して貧困者だらけの国にならないか不安視しています。
負債についてもそうです。負債を抱え込むことが悪いのではなく、その国の生産・供給能力が落ちて負債の返済能力が失われることがいちばんまずいことです。倒産の危機に面した企業でも高い収益を得られる部門が残っていれば、それを大きく引き伸ばして再生させることが可能です。それがまったくない企業は解体せざる得ないのです。
自国の産業がしっかりさえしていればハイパーインフレを気にする必要はほとんどありません。
~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。