新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

現代貨幣理論(MMT)論者の貨幣供給と租税に対する見方

3回目になります中野剛志氏やMMT(現代貨幣理論)の財政に対する見方についての批評を続けます。
今回はMMTの貨幣供給の見方と租税に対する認識、物価調整の手法についてです。

中野氏が説明するMMTの貨幣観や租税に対する認識は以下のとおりだとこちらで述べてきました。
1 多くの人は貨幣は物々交換から生まれたという商品貨幣論を信じているが、実は違う。
2 また金や銀などと交換できることを価値の裏付けとする金属主義な見方も持っていない。
3 貨幣は負債の借用証書として発生したものである。その信用の裏付けは(債務不履行の可能性が低い)国家が行っている。
4 貨幣は国家がそれを租税手段として認めることによって、市中でのモノやサービスとの交換及び貯蓄として活用できるようになった。(国定信用貨幣論

いまの貨幣は銀行が民間企業や個人に融資するかたちで無の状態からマネーを創造する信用創造から生まれています。「負債からマネーが生まれる」ということは私もそのとおりだと認識しています。ここは中野氏やMMT論者と見解が同じです。

ただしいまの貨幣を物々交換から生まれたのではないと彼らが述べている点と国家が租税手段と認めているから貨幣価値が生まれるという認識については「あれっ?」と感じます。確かに中世ヨーロッパでそうした事象があったことは認めますが、私の貨幣に対する認識はやはりモノやサービスといった財との交換が貨幣発生の始源であり、その財の裏付けがなければ貨幣として機能しないという見方です。

・中世における租税と貨幣についての関係に触れた記事

誰もいない砂漠のど真ん中や宇宙空間で貨幣が意味を持つのか考えてみるべきです。交換できる財と交換する相手が存在しない中で貨幣を持っていてもそれは紙切れや金属片でしかありません。

交換財でないはずの貝殻・金属・紙などが貨幣として人々の間で認められるのはある集団の中である特定の物体ないしは記録・信号を「これは貨幣だ」という共通了解が得られることによって貨幣になります。岩井克人教授の貨幣自己循環論法がそうです。その証拠に国家が発行する貨幣の信用・価値がガタ落ちしてハイパーインフレを引き起こしたベネズエラでは卵が貨幣として見立てられるといった現象を生んでいます。国定信用貨幣論が絶対でないことを示す事例のひとつです。

なお念のために誤解がないよう注意しておきますが、私の言っていることは貨幣そのものが最初から価値のある財で交換媒体となったとする貨幣商品説とは異なります。
貨幣論の話はさておき中野氏やMMT論者の貨幣供給と租税・物価調整のことに話を戻します。彼らは政府が財政赤字を発生させることで貨幣を生み出し、財政政策で市中に供給して、租税で貨幣を回収するという貨幣循環システムを描いているようです。私もこうした見方を採っていたことがあります。中野氏らは金利信用創造の調整による金融政策ではなく、国家が財政赤字によって産んだマネーを財政政策によって貨幣供給管理を行う方法を主張し、彼らは財政政策が金融政策だと述べます。一方租税については物価が急激に上昇してきたときにそれを止める手段であるという認識を持っています。これはかなり特異なものです。

私の場合、貨幣論における租税の位置づけはモノやサービスといった実物財による裏付け行為のひとつであると認識しています。上の小林慶一郎氏の文を引用しますと「紙幣は広義の政府(中央銀行)の債務証書であるから、その価値を保証するのは政府の「収入を得る力」すなわち徴税能力である」ということです。

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前に高橋洋一教授が日本の国家財政危機論は嘘であるということを説明するために用いた簡易的なバランスシート図を引用させていただいたことがありますが、ここに徴税権という言葉が登場します。
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この徴税権は本来フローである毎年の税収見込みをストックの資産として見なす形でバランスシートに記載しています。日本の場合は民間の財の生産や供給力がしっかりしており、毎年多額の徴税が期待できます。(毎年の税収×25倍) 高橋教授もきちんと実物財と貨幣のバランスを意識されながら、日本の国家財政は健全性が高いことを証明しているのです。「日本国のバランスシート分析 政府資産世界一、徴税力も強大

私が得た印象では中野氏やMMT論者の場合、実物財と貨幣のバランスという認識が薄いのです。(まったくではありません) 彼らの場合日本の国家累積債務が資産分を引く前のグロスなのか差し引いたネットなのかという話もせず、ただ物価や金利が上がらないからもっと歳出を増やしてもいい程度のことしか言っていません。挙句の果ては債務残高対GDP成長率は関係ありませんなどと言っています。GDPはその国が生産した、もしくはできる実物財の量や価値を現す数字です。実物財の生産力を超える貨幣や負債を膨張させてしまうバクが生ずる可能性が含まれます。

それともうひとつ財政政策と租税で貨幣供給管理(金融政策)を行う考えにも盲点があります。迅速な貨幣供給管理がしにくいという問題です。それは衆議院参議院双方の国会を通さないと歳出や徴税率の変更ができないという問題です。つい先日見つけたあるブログ記事で興味深いことが指摘されていました。

参考 政治・経済を中心にした時事問題を熱く語ります様

この方が述べていることをすべて支持するわけではありませんが、「経済の調整を金利の上げ下げではなく、財政出動増税で調整する論であり、金利の調整よりも、増税に偏る調整ゆえに増税がより大きくなり、低所得者層や中間層により負担が大きくなるため、経済格差が広がり過ぎてしまう」や「金利の上げ下げのように機能的に小刻みに財政出動したり、増税したりという調整は政治の意思決定に要する物理的な時間の長さゆえに、それこそ機能的には対応できず、経済が過熱し過ぎたり、経済が悪化し過ぎたりするという弊害が伴う」という指摘は当方も直感で気が付いたことです。

よく景気が過熱したら消費税を上げて調整すればいいということを述べる人がいますが、消費税は景気動向で税率を変動させられにくいものです。今日は8%だったけど、明日になったら10%だとか5%になりますなどということが各商店や購買客に受け入れられるのでしょうか?消費税率8%引き上げ直前のときに自分がある家電量販店系の模型屋さんへいってみたら、臨時のアルバイトをつかって値札の貼り換えを必死にやっていました。これを頻繁にやることは可能なのでしょうか?大手量販店でもこの状態ですから個人商店はどうなるかです。

こうした粗雑な論法しか持ち合わせていない人たちが積極財政をとか、増税反対などと言っていても信用されないでしょう。結果的にホンモノの増税・緊縮財政派が高笑いするような結果につながりかねません。

中野氏やMMT論者に対する批判は一旦今回でひと区切りをつけさせていただきますが、これまで述べてきたこと以外にも彼の基礎的な経済理論が身についていないことを物語る発言がいくつかあったので改めて書きたいです。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

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