新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

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MMTに”裏付け”を与えてしまった日本の財務省がついた嘘

前回の「実はMMTラブ?な財務省・日銀」という記事は、旧い日銀理論とMMTは同じ穴の狢だという話をしました。片や財政規律一辺倒主義で、片や極端な財政拡大論者と正反対の主張をしているかに見えますが、両者とも金利と民間企業の経営活動や雇用との連関を軽視しており、財政政策で国の経済を統治できると信じ込んでいるのです。両方とも政官主導の国家社会主義的な経済観です。今回は別の視点から両者の批判をします。

 

MMTの代表的論客であるステファニー・ケルトン教授は、財政赤字の増大と金利の関係をめぐってポール・クルーグマン教授と論争を交わしましたが、このときケルトンは「 日本はここではかなり良い例となっていますが、負債比率はいつか300パーセントに達する可能性があります。その間、日本銀行が設定するところで金利は正しく設定されており、政府はその主要な赤字を容易に支えています。」と反論しています。

和訳参照 

主流派?と云われる多くの経済学者はMMTerに対し「(完全失業率財政赤字を膨張させていくと、金利上昇を招き、民間企業の投資を阻むクラウドアウトを引き起こす」と批判してきましたが、それに対しケルトンらMMTerは「実際にはそんなことになっていない。財政赤字が増えると金利が上昇するどころか、逆に下がって民間投資を加熱させる(クラウドイン)させる」と反駁してきたのです。

政府が(自国通貨建て)国債を発行して財政赤字をつくっても、中央銀行国債をどんどん買い占めてしまえばそれが品薄になって国債価格が上昇し国債金利も低下となります。これを現在日本の安倍政権が進めてきた異次元金融緩和政策の中でもやってきました。中央銀行である日銀が民間銀行用の当座預金口座に準備預金(ベースマネー)をじゃぶじゃぶに積み上げてしまえば金利を低く抑えられます。

 

となってくるとケルトンらが言っていることが正しいように思えてくる人が多くいるかも知れません。日本はGDPの2倍とか3倍もの財政赤字を抱え込んでいても、財政不安による金利高騰なんか起きていないじゃないか?それどころか日銀による国債買受で金利上昇を抑え込んでいるじゃないかとなってくるわけです。

 

しかしこれに対し、御大・浜田宏一教授はMMTerらにこのような反論をしてきました。 

「日本の公的債務は一般に思われているほど多くはない」

「本当に重要なのは、資産を債務から差し引いた純債務残高だ。この点、日本は莫大な公的資産を保有している」

【解説】日本に消費増税は不要? ケルトンが提唱するMMTは1936年にさかのぼる | ビジネス | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイトト

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ケルトン教授と並ぶ浜田宏一教授

 

私は浜田教授の指摘の方が正しいと思っています。

この件については高橋洋一さんらがずっと説明してきた話で、IMFのレポートでも日本の国家財政は資産側と負債側がほぼ同じで債務超過にはなっていません。

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 本来貸借対照表(バランスシート)は資産側と負債側を並べてみないといけないのですが、財務省は負債側ばかりを国民に見せて財政危機の不安を煽り、増税や歳出削減を進める口実に使ってきました。

 

”御用学者”と揶揄される財務省や金融機関よりの経済評論家たちは「増税しないと財政危機になって国債暴落するぞー」とか「ある日突然、円が通貨価値を失ってハイパーインフレになるぞー」と1990年代の後半からずっと言ってきたのですが、ちっとも予想が当たらず、オオカミ少年みたいになっております。皮肉にも財務省や金融機関より経済評論家たちが言ってきた嘘が、MMTerが主張していることが正しいような錯覚を与えてしまっているのです。

 

おかげで「政府債務が5000兆円になっても全然問題ないんダー」と言い出すような人まで出てきました。

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これまで財政危機を煽ってきた財務省御用学者らは「ある日突然日本の国債や貨幣が市場関係者からの信用を失って暴落する」「物価が急騰する」というだけで、明確にどこまで財政赤字が膨らむと危ないのかなどといった説明をしてきていません。

逆にMMT側もまた「インフレになるまで財政赤字を拡大可能」と説明しますが、これもまたタイミングや条件を明示できていません。つまりはリミッターのない理論です。

 

財政懸念で日本の国債や円の価値が急落する条件やポイントはどこになるかという自分の予測ですが、日銀も含めた統合政府バランスシートでみて債務超過に近づいてきたときとか、経済成長の低迷していくにも関わらず債務だけが膨張して債務残高対GDP比が発散していく一方になったときかと考えられます。

 

私は「国債暴落ダー」「ハイパーインフレガー」と煽る財政規律一辺倒の人間がいうほど日本の国家財政は危機的でないし、財政政策拡大の余地はまだあると思っていますが、逆に「政府負債が5000兆円になってもそんなの関係ねえ!」とも言えません。

 

表題に戻りますが、財務省の役人らがこれまでついてきた嘘が、逆にどんどん「財政赤字をつくれー」という極論を生み出す元凶となっているのです。どっちもどっちです。

 

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