新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

供給側の劣化が招いたスタグフレーション

ハイパーインフレについて 」編ですが、不況で雇用が悪化しているにも関わらず物価高騰が進むというスタグフレーションという現象についても取り上げます。この奇妙な現象が起きたのは1970年代から1980年代のアメリカやヨーロッパが中心です。1973年(第1次)と1979年(第2次)に起きたオイルショックが、資源価格高騰による物価上昇を強めてはいますが、スタグフレーションの主原因はアメリカ・ヨーロッパの産業の非効率化による生産・供給側(サプライサイド)の劣化です。

第2次世界大戦後は世界各国でケインズ経済学の継承者といえるケインジアンたちの主張が広く採り入れられ、国が公共事業によって産業育成を計ったり、労働者階級の権利を保護する政策が積極的に導入されてきました。北欧圏のように社会保障や福祉の拡大を進めた国もあります。国が財政支出を拡大し、需要(ディマンド)を創出してやることによってどんどん経済が発展していくという考えでした。またアメリカや西欧諸国をはじめとする資本主義経済圏と旧ソ連を中心とする社会主義圏との間における冷戦という緊張関係が、労働者の権利保護や高福祉型社会を推し進めてきたともいえます。

ところが1960年代から1970年代あたりに入ってくると、半社会・共産主義的な経済レジームに綻びが生じ出します。アメリカですと軍産複合体の肥大化によって財政が膨張し、ヨーロッパですと国営化した企業の経営効率悪化とそれに甘えた労働組合の悪質なストライキサボタージュの連発と過剰な賃金引上げ要求が目立ってきました。そうした理由によって国家財政が悪化したり、自国の主要産業の競争力が失われていき、新興国に負けてしまうといったことが起きるようになってしまったのです。

ヨーロッパなどの国営企業は経営が悪化したときには公費で損失を補填してもらえればいいという甘えを生み、かつて日本で「赤字三公社」といわれた国鉄電電公社・専売公社のように慢性的な赤字経営体質に陥りがちでした。そこへ強すぎる労働組合が経営状況を無視して、度重なる賃上げ要求したり、山猫ストなどといったサボタージュの頻発させることによって、生産活動の非効率かつ高コスト化が進んでしまいます。高くて品質もたいして良くなく、また供給も安定しない商品は他国製品に見劣りしますので、自国産業が衰退して輸出が縮小・輸入が増加という状況を生みます。これが通貨下落へとつながってしまいました。自国産業は人件費コストがどんどん高騰していき、通貨安が輸入物資の価格上昇を招いて高インフレを招きやすい経済体質になったのです。当然自国産業の収益は悪化しますので、雇用も縮小していきます。
さらに自国の激しい労働争議を嫌って、資本が海外の新興国に流出してしまい、ますます産業空洞化が進みました。国内産業の衰退が不況を生み、にも関わらず物価が上昇していく要因がいくつも生まれてしまったのです。

過剰な賃上げ要求による人件費コスト上昇や不効率化による自国産業の腐食・国際競争力低下
物価上昇
さらなる賃上げ
供給側の劣化と物価上昇

という悪循環がスタグフレーション発生へとつながりました。

参考文献
 甲南大学 稲田義久教授 「現代アメリカ経済
 Vivid forum様 「戦後イギリスの経済政策

経済学者の飯田泰之さんは「世界一わかりやすい 経済の教室.」において不況を
1 生産・供給側(潜在GDP)の縮小による実力不足型不況と
2 潜在GDPが高いにも関わらず、有効需要が不足して実力を発揮しきれないギャップ型不況の
2タイプにわけておられます。

1970年代のアメリカやヨーロッパで起きたスタグフレーションは1の実力不足型不況によって生まれたものでした。ケインズ経済学は2のギャップ型不況に対する処方箋としては非常に良かったのですが、1の実力不足型不況には合わないものだったのです。生産・供給側が劣化しているにも関わらず、有効需要だけどんどん膨らませれば高インフレになるのは当然のことでしょう。

これによってディマンドサイド(需要)拡大重視だったケインズ経済学は当時批判の的にされ、代わりに国営企業の民営化や財政政策依存型の経済レジームからの脱却、甘やかされ過ぎた労働組合の追放と彼らの労働参加促進を計るといった供給側強化の経済政策レジーム=サプライサイド経済学が1980年代に勃興してきます。それを進めたのがアメリカのレーガン大統領やイギリスのサッチャー首相でした。日本ですと赤字三公社の民営化を進めた中曽根康弘政権や郵政民営化を進めた小泉純一郎政権がそれにあたります。

今回の話はスタグフレーションについてでしたが、旧社会主義圏やジンバブエ、戦時中の日本などのようにハイパーインフレを起こした国においてもモノやサービスといった財の生産・供給力不足といった状況が見受けられています。貨幣や国債を大量に発行したからハイパーインフレが起きたという人が多いのですが、財の生産・供給力不足という問題を重視する人はあまりいないようです。モノやサービス不足で起きる悪性インフレが多いことに注意が必要です。

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