新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

コロナ感染拡大がひどくないはずの日本でなぜ医療崩壊の危機が叫ばれているのか

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コロナ感染拡大による2回目の緊急事態宣言発令から10日以上経ちました。息詰まるような状況が続きますが、今回は日本の医療体制がそれに対処しきれなくなる寸前の事態になぜ陥ったのかということについてです。

 

この話をする前にもう一度コロナ感染拡大防止対策と経済対策の考え方の基本を確認しないといけません。対策の第一優先は感染拡大抑制とそれによる重症者や死者の抑え込みです。日本をはじめとするアジア諸国では比較的コロナ感染拡大の抑制ができていますが、欧米のようにあまりに感染拡大と重症者・死者の数が膨張しますと経済活動どころではなくなります。政府の財政政策についても医療機関への支援が第一優先になります。

 

感染症拡大の抑制には接触率削減という対策が真っ先に出てきます。それは人と人が接触する機会をなるべく減らすということになりますが、経済活動というのは人と人の関わりや結びつき、交流そのものです。つまりは感染抑制のためには経済活動を抑制しないといけないという二律背反(アンチノミー)の状況に置かれます。経済活動は人が生きていく上で必要なモノやサービスを生産し、供給して消費をしていくものですから簡単に止めることはできません。人間の体でいえば心臓を停めることと一緒です。2~3か月の期間ならばまだしも、長期に経済活動を停止させ続けると社会システムや人々の生活が完全に崩壊してしまいます。

 

仮にロックダウン(都市封鎖)などものすごく厳しい国民や企業への行動制限によってコロナウィル感染による死者が抑制されたとしても、それを上回る自殺や生活窮乏による経済理由による死者が発生してしまっては話になりません

 

感染拡大による死者の抑制と経済理由による死者の抑制は先に申し上げたとおり二律背反なのですが、少しづつコロナウィルス感染拡大防止の急所というかツボらしきものが見えかけています。昨年初頭~春は世界各国でロックダウンのように全面的な行動制限を国民や企業に課しましたが、今回の場合日本の緊急事態宣言は飲食店を中心とした限定的な営業自粛要請に止めました。目指すのはコロナ感染による死者+経済理由による死者の最小化です。

 

これまで日本は欧米諸国に比較しますと人口10万人あたりの死亡者数がきわめて低いです。

(グラフにはのっていないが台湾などアジア圏は健闘)

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(出典 第二波真っ只中のスウェーデンから 現地日本人医師による実態証言 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

 

しかし2020年末から2021年初頭現在において日本では医療崩壊の危険性について叫ばれています。首都圏においては確保病床を上回る勢いでコロナ入院患者の増加が続き、専用病棟の稼働率が8割以上となって、新たな入院患者の受け入れができなくなる寸前のところまできています。コロナ患者以外の通常診療や救急診療までも支障をきたしかねません。

「医療崩壊」が現実味 少ない医師・看護師、現場逼迫 日本の医療課題がコロナで噴出 - 産経ニュース (sankei.com)

 

昨年12月日本医師会中川俊男会長が「医療緊急事態宣言」を言い出し、感染拡大がひどい首都圏の小池東京都知事などが政府に詰め寄って緊急事態宣言を再発令するように求めました。マスコミも「緊急事態宣言を発令して感染収束と医療崩壊回避を」という論調でした。

 

重症のコロナ患者を受け入れる医療機関とそのスタッフは自らがウィルスに感染するリスクに晒されながら不眠不休で疲労困憊で治療や看護にあたっておられます。この姿は10年前に発生した東日本大震災による津波で大事故を起こした福島第一原発の処理と解体を行う作業員の姿を想起させられます。現場の疲弊は言語を絶するものでしょう。そういう中で緊急事態宣言を敷いてでも新たな感染者を抑えなければならないという主張はもっともなものに思えますが、時間を遡ると昨年の夏の時点でも感染第2波、第3波の到来が予想されていました。そのために当時の安倍政権は医療機関支援のために莫大な予算を積み上げています。しかしながらコロナ専用病棟の増設やスタッフの確保が十分進んでいなかったのです。

 

その原因は政府側が用意した医療機関への支援制度が現場の状況にあっていなかったことや日本の医療体制が永年抱えていた構造問題でした。

まず前者についてですが、新型コロナの重症患者をICU=集中治療室で治療した場合、病院に支払われる診療報酬の特別加算は原則14日間までしか支払われませんが、その期間中に患者がICUを出られなかった場合、超過した分は病院側の負担となってしまいます。それが増えてしまうと医療機関はコロナ患者を積極的に受け入れられなくなるでしょう。

コロナ患者 ICU治療長期化 診療報酬 特別加算されない例相次ぐ | 新型コロナウイルス | NHKニュース

 

 

コロナ患者を受け入れる病院は院内感染のため病棟閉鎖をしなければならなくなったり、風評被害による患者減などで赤字を抱える可能性が高いです。ですので民間病院がコロナ患者受け入れに手をあげようにあげられないのです。

 

そして後者の日本の医療の構造問題ですが、他国に比べ民間病院の割合が非常に高く、さらには開業医の割合も大きいのです。国や地方自治体は民間医療機関に対し経営に口を挟み「コロナ感染患者の受け入れをせよ」といった命令を出すといった行政介入をすることができません。それができるのは公営の医療機関だけになります。当然のことながらコロナ感染患者の受け入れは公立病院に集中します。

そして感染患者を受け入れる医療機関に、医療従事者を公的に派遣する措置がありません。感染者を受け入れる病院では、内部で人員をやりくりせざるをえないのです。一部の医師や看護師がかなりの長期間コロナ患者につきっきりとなり消耗してしまうわけです。。

 

病床の多い日本でなぜ「医療崩壊」が起きるのか | 新型コロナ、長期戦の混沌 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)

 

 

いま日本の各医療機関がもつ人的資源や設備をうまくシェアリングさせれば、ごく少数の公立病院などにコロナ患者の受け入れ負担が集中してしまうことなく、医療崩壊閾値が上がるはずであると考える医療関係者が多くいます。その一環として医療法の改正や特措法の改正を行い、非常時には国や地方自治体が強権発動で感染患者の受け入れを命令したり、医師や看護師の派遣をできるようにすべきだという声が上がっています。

 

さらに医療機関や医師・看護師たちにコロナ患者の受け入れや治療・看護に従事したいというインセンティブを与えることもすべきだという主張も出てきています。

 

先日1月13日に行われた菅総理が行った記者会見の場で神保哲生さんというフリーライターが「日本は人口あたりの病床数は世界一多い国で、感染者数はアメリカの100分の1くらいなのに、医療が逼迫している。医療法を改正して病床を確保しないのか」という質問を出しました。このときの菅総理の回答は「医療法についても今のままでいいのかどうか。国民皆保険、そして多くの皆さんが診察を受けられる今の仕組みを続けて行く中で、今回のコロナがあって、そうしたことも含めて、もう一度検証していく必要はあると思っています」というもので、医療法改正について否定しないけれどもはっきりとしたものではありませんでした。この後各マスコミが藁人形論法的に「菅総理国民皆保険の見直しに言及」などという的外れな報道をします。

「菅義偉首相が国民皆保険の見直しに言及」とSNSで話題に ⇒ 実際には何と言った? | ハフポスト (huffingtonpost.jp)

 

 

神保氏の質問自体はよかったのですが、問題は彼が質問の事前通告をしていたかです。彼のツイッターを確認すると菅政権は安倍政権以上に事前通告のない質問は答えないなどとツイートしているのでしていない可能性が高いと思います。もし仮に突然いきなり上のような質問を菅総理にぶつけたとしても、当たり障りのないぼやけた回答しか得られなかったと思います。

 

それからしばらくして、慈恵医大の大木隆生教授が菅総理に医療人材や病床確保の方法について進言されたというニュースが飛び込みます。

菅首相 医療人材や病床確保めぐり大学教授と意見交換 | 新型コロナウイルス | NHKニュース

 

 

 

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東京慈恵会医科大学 対コロナ院長特別補佐 大木隆生教授

 

ここで大木先生のツイートを転載しておきましょう。

以下が昨日の出来事です。総理と小一時間にわたりディスカッションしました。内容は、例えば、

1)新コロ対応している大学病院を含む多くの大病院では医師・看護師の給与が硬直化しているために不眠不休で新コロ対応してくれている感染症科や集中治療科などの医療従事者は受診抑制で余裕が生じた一部の他科医師と同額の待遇で働いている上に手当も月額数万円程度である(→政府の補助金が医療従事者個人に渡るシステム構築)

2)そしてこれら他科の医師を新コロ対応にリクルートしようにもインセンティブがつけられない、報いられない(→大阪市立十三病院の教訓)

3)新コロ重点医療機関の認定基準が厳しいため参入したくても出来ない民間病院が多数存在する(→平時の厳格な審査基準を改め有事対応する)

4)民間病院が新コロ対応して院内感染のため病棟閉鎖、風評被害で患者減などで赤字が出ても保障がないままでは二の足を踏む(→新コロ診療報酬5倍増、前年度売上の確約など)

5)新コロとの闘いは長丁場であることを念頭にサステイナブルな対応が必要(→非常事態宣はサステイナブルではない)

6)これらが実現できたら医療崩壊閾値は格段に上がり(欧米の病院ベッドの新コロ対応率30-40%に対して日本2-3%)、その暁には新規感染者数、過去最多、に一喜一憂することなく国民も安心して社会経済活動に勤しめる。総理は終止にこやかでうなずいてくれていました。山が動く予感がしています。

もう一点、大木先生がfacebookに書かれた記事を転載されているブログ記事があったので紹介しておきます。

慈恵医大の先生の文章をシェアさせて頂きます | 能楽師・山井綱雄の~日々去来の花~ (ameblo.jp)

 

 

これまでコロナ患者受け入れを行うと手をあげた医療機関の審査が通りやすくする行政的配慮や赤字補填、過酷な状況で働くコロナ病床の現場スタッフへの手厚い報酬などを提言されています。医療人材や設備のシェアリングが進めば医療崩壊閾値が上がってきます。コロナ対策と経済・社会活動の維持を高次元で両立させる道がみえてきます。菅総理が乗り気になったというのは当然でしょう。

 

神保氏よりも大木先生の方が一枚上手だと私は思いました。

 

今回のコロナ禍という非常事態において、日本の医療の構造問題が顕かにされたといえましょう。菅総理が着任早々「縦割り行政の解消」を政治目標を打ち出しましたが、医療崩壊リスクが表面化したのはまさに医療界の縦割り構造にあると私は感じました。

 

遅きに失したとはいえ、大木先生が仰るように一気に山が動いていくと私は予感します。

 
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緊急事態宣言再発令と経済的影響について

 

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2021年1月7日、政府は新型コロナウィルスの感染拡大の深刻化をうけて、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県を対象とした緊急事態宣言の発令に踏み切りました。期間は1月8日から2月7日までの一か月間を見込んでいます。今回の緊急事態宣言再発令は4月のときと異なり、対象地域を首都圏に止め、飲食店に対し20時までの時短営業を徹底 、テレワーク推進で出勤者数7割減を目標 、20時以降の不要不急の外出自粛、スポーツ観戦などのイベントは5000人までといった制限にしました。

自分は新聞やテレビを読んだり視たりしない方ですが、世間から聞こえてくるのは「菅内閣の決断が遅かった」とか「菅内閣は後手後手だ」、あるいは「小池百合子東京都知事らにせっつかれてやっと政府が重い腰をあげた」という感想の声です。

しかしながら今回の緊急事態宣言に至るまでの経緯を辿ると、それとはどうも違うようです。コロナウィルス感染の再拡大は11月下旬ごろから目立ちはじめ、東京都や大阪府、北海道などでは飲食店等の営業時間短縮を要請し、これに応じた店舗に協力金を各自治体が支払ってきました。その期限は当初12月中旬で切れる予定でそれを延長するかどうかがという話になったのですが、感染拡大が収束する気配がなかったために政府側は自治体に延長を求めていました。ところが東京都の小池百合子都知事は営業時間短縮期間延長を渋っています。政府側と小池都知事は揉めたようですが、結局小池都知事は渋々延長を受け入れる格好になったものの、その期限が1月中旬に切れることになり、それをどうするのかという問題が今回の緊急事態宣言へとつながったのです。

東京都をはじめとする地方自治体が民間の飲食店等に営業時間短縮を要請し続けるには当然のことながら営業損失補填のための協力金を支払い続けないといけませんが、その財源問題が発生します。東京都は地方自治体の中でもかなり裕福で財政基盤がしっかりしているわけですから、政府側は「協力金の財源は東京都の方で負担しなさい」と返されてしまうことが目に見えています。そこで小池都知事がお得意のペテンを利かせて、東京都単独ではなく、財政力が弱い千葉・神奈川・埼玉の3知事を巻き込み、緊急事態宣言をかけろと政府に詰め寄り、国のカネを引き出そうと動いたわけです。政府側は政府側で5兆円余っている予備費を使い切らないといけないという事情があるのですが、小池都知事らの動きや緊急事態宣言再発令は予算消化のよい口実であり、ちょうど都合がよかったといえましょう。ある意味(緑の)たぬきときつねの化かしあいみたいな茶番劇です。

そういった政治的裏事情の話はさておいて、今回の緊急事態宣言の再発令は望ましいものなのかというと決してそうではありません。冒頭で述べたように多くのマスコミが「菅政権は命よりも経済を重視して緊急事態宣言の再発令の決断を躊躇ってきた」という報道を繰り返していたようですが、それはコロナ禍対策の基本的な考え方を理解していないものです。

 

コロナ禍対策で重要なことは

コロナ感染による死者+経済理由死の最小化

を目指すことです。

 

コロナ感染による死者と重い後遺症を遺す重症者を極力抑制し、医療機関側のパンクと疲弊を防ぐことが対策の第一優先順位となることは言うまでもないことですが、それと同時に社会・経済活動の麻痺やそれによる生産活動の破壊と雇用崩壊を防止することも同時にやらないといけないのです。厳格な自粛や行動制限によってコロナ感染による死者や重症者を抑え込んでも、倒産・廃業・失業で生活困窮状態に陥って自殺に追い込まれる人たちがそれを上回ってしまったら話になりません。

 

もし仮に厳格な外出制限や休業命令みたいな形でコロナ感染拡大やそれによる死者数が大幅に抑制できる効果があったならば、春に行っていたときと同じように政府が補助金や休業補償を行って民間の経済的打撃を軽減しながらそれを進めるという考えはありですが、後日の検証結果をみるとこうした感染防止対策はさほど大きくないとされ、それ以上に経済活動の著しい沈滞や倒産・廃業・失業の増大というデメリットが得られた便益よりを上回っているという指摘がなされています。

スペインのコロナ対策・ロックダウンは効果があったのか?|英語ニュースを読もう! (maki3english.com)

 【ケント・ギルバート ニッポンの新常識】緊急事態宣言の効果は“未知数” 米国ではロックダウンした州としない州の感染増加率に大差なし (2/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

上の2記事だけで判断すべきではないかも知れませんが、今回緊急事態宣言を再発令したとしても感染抑止効果がどれだけ期待できるのか未知数です。しかし経済活動抑制による民間産業の壊死や人々の生活破壊が進むリスクが相当高いことを覚悟しないといけないでしょう。菅内閣が緊急事態宣言の再発令に慎重だったのはそのためです。

 しかしながら多くのマスコミは前回の緊急事態宣言や海外で行われたロックダウンの効果について十分検証することなく、昨年末まで雰囲気だけで「早く緊急事態宣言を発令しろ」「GoToキャンペーンを中止しろ」と大合唱していました。実際に緊急事態宣言が再発令されたらされたで、今度は「緊急事態宣言の再発令で飲食店等の経営が」などとちぐはぐな批判をします。

このようなマッチポンプ的なマスコミの場当たり的な政策批判は旅行業界や飲食業界の支援策として導入された「GoToキャンペーン」にも向けられました。竹中平蔵氏が今年年始からはじめられたネット動画配信番組「平ちゃんねる」にて根拠なきマスコミによるGoToキャンペーン叩きについての批判をされています。

www.youtube.com

 「GoToキャンペーン」については当方も竹中氏同様に決してポジティブな評価をしていなかったのですが、いざ実施してみると2000億円の財政支出に対し、消費がその25倍の5兆円も増えています。乗数効果が極めて高い大ヒット作でした。

このGoToキャンペーンによってコロナ感染が拡大したならばまずいことですが、竹中氏によるとこのキャンペーンでコロナ患者が急増したという統計的証拠はないとのことです。(その検証をしたのはこのブログでこっぴどく批判したことがある小林慶一郎氏ですが)

竹中氏ではないですが、GoToトラベルによる移動は全国民の移動の1%に達しないものですから感染拡大とはほとんど関係はないとみるべきでしょう。

結局マスコミがやっているのは政権批判そのものが目的化しており、政府側が打ちだしてきた対策を否定して潰し、彼らの言った通りに政府側が対処してもまた別のあら捜しを延々と続けることの繰り返しでしかないのです。

今回の緊急事態宣言によって営業時間短縮に応じる飲食店業者等への協力金はすでに積み増しの準備が進んでいます。持続化給付金の再給付や間もなく期限が切れる家賃支援給付金の延長、資金が枯渇している雇用調整助成金の補填などが必要となっていますが、先ほど述べたように予備費が5兆円ほどまだ余っており、第3次補正予算案でも地方自治体への財政支援策として地方創生臨時交付金が盛り込まれました。補償のためのお金の問題は解決しています。

 

とはいえど今回の緊急事態宣言再発令によって昨年来よりかなり傷んで弱っていた民間の経済活動の壊死がさらに進む恐れがあります。慢性的なデフレ不況再発がすでにはじまっていることを忘れてはなりません。今年度において政府がかなり思い切った財政政策及び金融緩和政策をフル稼働させないといけないのは確かです。今後このブログで回復期の経済対策についての話を展開していくことを考えています。

 
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コロナ危機後の経済政策を考える

 

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上のお姉さんは相変わらずノースリーブドレスのままですが、11月下旬となり冷え込みが増してきています。もう冬です。

寒さが増すと同時に気になるのはコロナウィルスの感染再拡大です。アメリカ・ヨーロッパでは既に感染拡大の第3波が訪れており、日本においても欧米ほどではないにしても感染者の増加が目立ちかけています。今月11月25日にも西村康稔経済再生担当相が今後3週間で感染増加を抑えられなければ「緊急事態宣言が視野に入ってくる」という発言をしたというニュースが飛び込んできたばかりです。

感染抑制できなければ緊急事態宣言も視野 | 共同通信 (kiji.is)

春の緊急事態宣言と自粛要請で人々の行動が抑制され、経済活動もそれに比例して停滞させられたのですが、既にご承知のとおり観光・宿泊・旅客輸送業・飲食・興業そして医療機関は大きな打撃を被りました。政府による持続化給付金や雇用調整助成金の支給を受けたり、劣後債という形で金融機関から資金投入をしてもらうかたちで辛うじて息をつなげている企業は少なくありません。再び緊急事態宣言や自粛となりますと耐えきれず事業を畳む企業が出てくるでしょう。そんな状況を無視するかのように政府の財政制度等審議会が持続化給付金や家賃支給給付金を来年2021年1月の申請期限をもって予定どおり終了させるべきだなどという提言書を提出するといった無神経な行動をとっています。

www.nhk.or.jp

 記事引用

国の財政制度等審議会は、来年度予算案の編成に向けた提言を取りまとめました。新型コロナウイルスへの対応で、財政状況が一段と悪化していることを踏まえ、非常時の給付金による支援から、生産性の向上に取り組む企業などへの支援に、軸足を移すべきだとしています。

財政制度等審議会は25日、国の来年度予算案の編成に向けた提言を財務省に提出しました。

新型コロナウイルスへの対応で、今年度の一般会計の歳出規模は、過去最大の160兆円余りに膨らみ、歳入の56.3%を国債に頼る過去最悪の状況です。

こうした状況を踏まえ、提言では「新型コロナなど事前には予測できなかった出来事が、数年に1度のペースで発生している。大きなリスクにも耐えうる回復力を兼ね備えた、財政を作っていくことが求められている」と指摘しています。

そして、非常時の支援を常態化することは、政府の支援への依存を招くと弊害を指摘したうえで「財政支出を増やせば持続的な経済成長が起きるといった単純な話ではない。単なる給付金といった支援からウィズコロナ・ポストコロナを見据えた経済の構造変化への対応や、生産性の向上に取り組む主体の支援へと軸足を移すべきだ」と提言しています。

具体的には、中小企業に対して最大200万円を支給する「持続化給付金」や、賃料の負担を軽減する「家賃支援給付金」を、来年1月の申請期限をもって予定どおり終了させ、業態転換などを行う企業を支援する必要があるなどとしています。

財務省は提言の内容を踏まえて、予算編成の詰めの作業を急ぐことにしています。

この財政制度審議会の提言書ですが「生産性の向上に取り組む企業」とか「単なる給付金といった支援からウィズコロナ・ポストコロナを見据えた経済の構造変化への対応や、生産性の向上に取り組む主体の支援へと軸足を移すべきだ」などという文言が気になります。政府の成長戦略会議メンバーに就任したデービット・アトキンソン氏らのような構造改革万能主義者や清算主義者が唱えている主張を連想させる文言が連なりますが、財務省の役人らがそれに便乗している感じがします。

構造改革万能主義と清算主義の問題について書いた記事です。

ameblo.jp

財務省の役人らは企業を潰しまくっても、後から草が生えて伸びるがごとく勝手に新興企業や産業が興されると思っているのでしょうか。「国の財政は限られているのだからほんとうに必要なところだけ支給するべきだ」という役人たちの論理は一見正しそうに思えますが、それを役人たちが選別・判断できるのかということです。

まず忘れてはならないのはいまのコロナ禍は良い意味でも悪い意味でも不確実性が極めて高く、わずか数か月先のことでさえ先行きが読めません。いまだもって感染拡大状況や経済活動の動向がひどく流動的です。現在倒産や廃業目前の苦境に立たされている業界や企業ですが、それらは昨年まで何事もなく健全経営であったところが多く含まれています。逆にコロナ禍以前には彼らから日本において斜陽産業だとかいわれた製造業の方がコロナ禍からの業績回復が早かったりします。先日新型コロナウィルス用のワクチンが開発されたと報じられましたが、それによってウィルス封じ込みに成功すれば今苦境に置かれている業界がV字回復する可能性が見えてきます。役人らの勝手な判断で本来十分経営存続ができる民間企業まで見殺しにしてしまえば経済回復をしないままL字状態で推移してしまう恐れがあります。恐ろしいのは完全に弱った日本企業を中華系資本がどんどん買収して居抜きすることでしょう。スターリン砕氷船理論を想起させます。

コロナ感染が収束した後に日本のみならず世界全体で産業や経済構造の変化が訪れることは間違いないでしょう。リモートワークの普及などによりIT産業や宅配ビジネスなどが伸びることが予想されますし、その分野への労働移動が発生するはずです。とはいってもそれらが現在日本で30兆円~40兆円も失った有効需要の穴埋めができるほどの規模になるのかわかりません。有効需要が元通りに回復しなければ当然企業倒産や廃業、失業が大量に発生することでしょう。

感染拡大が完全に収束し人々が以前どおりの自由な行動ができるようになって、さらにこれまで倒産や廃業をした民間企業や衰退した業種に代わる新たな産業が育成されるまでの間、相当の時間が必要になることが予想されます。この間多くの人が失業者のままでいたり、無収入のままでいいはずがありません。これを放置すれば完全にデフレ不況の再発となり、国民生活・経済・国家財政全部がダメになることでしょう。日本国内の生産活動が萎縮したままの状態となる危険性があります。慢性的な需要減少は供給側の縮小へとつながります。倒産・廃業によって企業が持ち合わせていた技術の途絶や失業したままの労働者の職能腐食が進行していくことでしょう。「サプライサイドの壊死」を少しでも食い止める必要があります。

政府による財政支援を積極的に行ったとしても、企業倒産や廃業、失業増加を防ぎきれないかも知れませんが、その場合は継続的な定額給付金の支給などを行う必要が出てきます。以前から申し上げてきたように、かなりそれが長期化するならば臨時の定額給付金というかたちではなく、恒久的な給付付き税額控除制度に切り替えたほうがいいかも知れません。

新たな成長産業が勃興する状況を生みだすには、それを志す起業家への積極融資と消費者の購買欲を高めるための家計支援策の両方が必要です。前者は金融緩和で後者は給付金や減税などで支援します。

財務官僚や日銀職員は民間の苦境を知ろうとせず、お上の財政状況と自己の権益(天下りなど)のことしか関心を持たない人種です。彼らに民間が振り回され、ときには破産や自殺にまで追い込まれるようなことがあってはなりません。国家財政を再建するにも民間が税を支払うことができないと無理なのですから、まずは民間救済が先決です。

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コロナ禍から非正規雇用者を守るセーフティネット整備を

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前回記事と同じような内容になりますが、コロナ不況の深刻化がかなり目立ってきています。このままですと年末から年明け以降に企業倒産や廃業、そして失業が大量発生する危険性が高まってきました。来年春卒業の大学生の就職内定率が7割を切ってしまっており、就職氷河期の再来というべき状況になってきています。就職内定率が7割を切るのは2015年以来ということですが、そうなってくるとアベノミクスが誇る最大の成果が失われ、元の木阿弥となりかけつつあります。

つい先日今年2020年7月~9月期の国内総生産GDP)が年率換算で21.4%と「記録的な高成長だ」と報道されましたが、きわめて先行き不透明で不安定な現在の経済情勢において年率換算は意味が薄く、12か月を4で割った一期分が前年度比5%上がったといった方が実情に近いでしょう。

参議院議員の金子洋一さんは

 とツイッター上で指摘されました。

同じく金子さんのツイートで知ったAERAの記事ですが、コロナ禍によって経営悪化に陥った企業が人員整理に着手せざるえなくなり、解雇や雇止めをされた派遣労働者たちが路上生活者になってしまった人たちが急増しています。若年層でしかも女性が多く含まれていることが記事で書かれていました。

dot.asahi.com

これは私の想像ですが、今回のコロナ禍で増えた自殺者ですが女性の割合が非常に高くなっていることと因果関係があるかも知れません。

こちらの記事もかなり悲惨な状況を伝えます。

dot.asahi.com

どちらにしてもある日突然住む場を失ってしまうという問題です。両者ともども失業保険や今年春に支給された定額給付金10万円だけでは追いつかない状況でしょう。上の方の記事ですと路上生活者の支援を行うNPO法人が冬物衣服を提供したり、生活保護の利用手続きを手伝ったりしていますが、人間が生きる上で大事な生活基盤である住の確保が重要になってきます。所得が不安定で住居が会社の社員寮であるとか借家住まいであるという非正規雇用労働者が深刻な経済危機に遭遇して無所得状態になった場合の公的な救済制度の整備をしないといけないと思います。

現在の雇用保険は会社都合退職の場合で180日~最大330日、自己都合退職ですと90日分しか支給されません。この制度は終身雇用や完全雇用が当たり前だった高度成長期に整備されたものであり、失職してもすぐに次の仕事が見つかるという前提で設計されたものです。1990年代以降のように深刻な不況が10数年おきに発生し長期失業が当たり前となった現在の雇用状況に対応できなくなっています。生活保護についても非常に利用の申請がしづらい問題があることを何度もここで指摘してきました。

 今年春より政府が国債を大量に発行して財源を確保し、かなり思い切った財政出動を行っています。政府だけではなく日銀も金融政策面で資金繰りが難しくなったり多くの負債を抱える羽目になった民間事業者の債務負担を減らすための手立てを打ってきました。にもかかわらず倒産・廃業に追い込まれた企業が多く出ましたが、それでも持続化給付金や雇用調整助成金などで息をつなげた企業は少なくないと思われます。しかしながら財務省は今年年末~年始を目途に持続化給付金や家賃支援金を打ち止めにすることを臭わせ、定額給付金再支給にも否定的な姿勢をみせてきました。もし政権与党が財務省の役人の言いなりになって財政を緊縮方向に向けてしまった場合は、これまで辛うじて事業を継続してきた民間事業者が廃業を決意したり、経営破綻に追い込まれる可能性がきわめて高いです。当然のことながらそれによって失職する勤労者が一気に増加し、新卒学生がなかなか就職できないという状況に陥るでしょう。2008年末に起きた年越し派遣村みたいな状況が再び訪れるということもありえます。

ただ少し希望が持てるのは与党自民党内においても30兆円~40兆円以上の財政出動が必要だと主張する議員が出てきたことです。何度か紹介した経世済民政策研究会メンバーの長島昭久議員や三宅伸吾議員らだけではなく、世耕弘成参議院幹事長も同様の経済対策をすべきだと発言しました。これは大いに歓迎すべきことでしょう。

mainichi.jp

世耕氏の発言を引用します。

「年明けには企業倒産や失業率の上昇が起きかねない。GDPギャップをしっかり埋める補正予算にすべきだ」

「30兆円がボトムライン。30兆~40兆円ぐらいは必要ではないか」と述べた。「国土強靱(きょうじん)化でやることはいっぱいある。給付金その他もだ」

政治家や役人の利権につながりにくい現金直接給付型の定額給付金について取り上げる政治家はあまりいませんが、今回世耕氏はそれも忘れず言及しておられます。ここも大きく評価したいです。

持続化給付金やGoToキャンペーンの延長、国土強靭化、そして定額給付金の再支給といった政策をフルオプションで打ち出していくことが必須なのですが、いま懸念されることは日本経済がこのまま再びデフレ不況と雇用低迷が慢性化してしまうことです。それによって長期失業者や就業困難者が多く生まれる可能性が高まっています。上の対策はどちらかといえば短期集中型のものです。よく混同されますが、財政出動というものは財政政策の中でもそうした性格のことを指します。

もし仮にこのまま多くの日本国内の産業規模が委縮してしまい、雇用規模が回復しないままだとしましょう。そうなると厄介です。長期失業や第3の就職氷河期世代発生となってくると、持続化給付金・雇用調整助成金・GoToキャンペーン・定額給付金だけで企業の経営や長期失業者の生活を支え続けることはできないです。生活保護に代わる所得保障制度や住宅補助制度も用意しないといけないかも知れません。

生活保護に代わる所得保障制度として私はかねてより給付付き税額控除制度やベーシックインカム制度の導入を訴え続けてきましたが、これらの制度は給付金額が月額数万円程度と決して高いものではないですし、とくにベーシックインカムについては導入議論が混乱して実現性がかなり低いです。最低限の生活を保障する上で正直もの足りないです。仮に給付付き税額控除やベーシックインカムが実現したとしても、それを補足する制度がないと路上生活や自殺、餓死などに追い込まれる人が続出しかねません。

よくセーフティネットという言葉が用いられますが、これは自動車など機械の安全性と同じく0次安全性、1次安全性、2次安全性といった具合に多層化しておく必要があります。

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私は防貧セーフティネットを次のように位置付けて考えています。

0次セーフティネット

=金融政策による企業の事業活動や雇用の安定化(菅総理的にいえば”自助”)

1次セーフティネット

=不況時の財政出動による企業支援や定額給付金などによる家計支援。景気落ち込み防止
2次セーフティネット

=失業者の再就職支援や職業訓練、訓練費や生活費の一時支給
3次セーフティネット

=給付付き税額控除やベーシックインカムなどによる家計支援
4次セーフティネット

=路上生活者保護、生活保護支給など

といった位置づけです。

 

自民党内の経世済民政策研究会の提言や世耕氏の主張は主に上でいう0次と1次セーフティネットが中心です。前者については2次や3次も含まれています。これによっていちばん最悪のオプションというべき4次セーフティネットが必要となる事態を回避するための予防安全策であるというのが私の受け止め方です。

しかしながらもう不幸なことに既に多重に用意された0次・1次・2次・3次セーフティネットすら突き破ってしまった人たちが多数出かかっているのです。安倍政権時代は0次セーフティネット対策についてかなりしっかり頑張っており、それによって4次セーフティネットで救済しないといけないような人を大きく減らしましたが、コロナ禍によって1次セーフティネット、2次セーフティネットを用意せざるえなくなりました。さらに今後4次セーフティネットまでしっかり張っておかねばならないような事態を迎えようとしています。

 

 こうした対策案を示すと政府の財政事情を気にする人が出てきますが、日銀に国債を買い受けてもらうようなかたちをとってでも民間事業者や国民の生活を守るための経済対策を進め、さらには今回と同様の経済や雇用危機に備えたセーフティネットの整備を急がねばなりません。

 

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雇用悪化とデフレ不況再発を阻止せよ~集中的政策と面的な政策を同時にすべき~

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非常に気が滅入るようなツイッター発言が目に留まりました。kikumakoさんこと菊池誠さんがされたツイートです。

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https://twitter.com/kikumaco/status/1326338705557135361

内容を引用します。

5万円の追加給付金は「財務省の強い抵抗で最終的に見送りの方向になった」と新聞にもはっきり書いてある。 敵は財務省なんですよ。これは明らか。今や与党も大規模な財政出動を求める状況になったのに、財務省が国に金を出させまいとして抵抗しています。財務省が人々の命を奪おうとしている

 「5万円の追加給付金」についてはここのブログでも紹介しました自民党内の有志が集まった勉強会「経世済民政策研究会」のメンバーと講師として招かれた経済学者の田中秀臣さんが菅総理大臣に提言したものです。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

この勉強会の提言書はいろいろ誤解されて伝わっているので上の記事を再度読んでいただきたいのですが、追加給付金だけに限らず金融緩和政策の補強やコロナ禍で深刻な打撃を受けた業界への重点的な財政支援なども盛り込まれています。この勉強会のメンバーである長島昭久議員や細野豪志議員は金融緩和政策の重要性も認識してほしいと述べておられます。本文を読まれる前にこの点はしっかり留意しておいてください。

kikumakoさんのツイートに話を戻しますが、追加の定額給付金支給案が財務省の役人らの圧力で潰されようとしていることに私も激しい憤りを感じました。財務大臣麻生太郎氏などの口やマスコミを通じて給付金の景気効果は薄かったとか、貯蓄に回されたといった発言や記事が広められていたので、財務省の役人らが定額給付金再支給を阻止しようとして動いていることは感じ取っていました。

定額給付金無効論については基礎知識編ブログで批判しています。

ameblo.jp

売り上げが大きく減少した中小企業や個人事業主に最大200万円を給付する持続化給付金と最大600万円の家賃支援金についても、財務省財政制度等審議会における部会で予定通りの来年1月15日に申請受付を終了させることを提言しています。

朝日新聞はこんな社説まで出してきました。

www.asahi.com

 記事の最後に「コロナ禍の長期化で、直撃を受けた人や企業の手元資金は枯渇している。再び全国的に営業や外出の自粛を要請する事態になれば、それに応じた対策が必要になる。感染動向を踏まえて柔軟に対応できるよう、政府は対策の中身を考えておかねばならない。」 などと結んでおきながら、与党内から出ている10~15兆円の大型補正予算案にケチをつけています。この記事は「(ほんとうに)必要な政策積み上げて」という言葉をつかって緊縮財政色を前面に打ち出しています。明らかに財務省の役人がいっていることを伝書鳩的に書いた記事でしょう。さらに内容の一部を抜き書きしますと次のことが書かれています。

 

雇調金の特例は、失業を防ぐ上で大きな効果を発揮したが、成長分野への労働移動を阻害する副作用がある。

 

日本経済の生産性の低さは、既存の働き手や企業を守ることを優先した結果、デジタル化などの世界の潮流に乗り遅れたことが一因とも指摘される。

これは俗にシバキ主義といわれる構造改革偏重主義者や清算主義者が言っていることそのものです。前回記事で取り上げた中小企業統廃合論を唱えているアトキンソン氏らの発想とよく似ています。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

ameblo.jp

朝日新聞は左派系メディアと云われてきましたが、いつの間にか弱肉強食型の「新自由主義(←これは意味がよくわからない表現ですが)」に染まっているようです。

 

ここで再度強調しておかねばならないことは、コロナ禍は通常の不況や経済危機とまったく異なる性格のものだということです。この危機は不確実性の塊で去年の年末まで発生がまったく予知できないものでした。企業の経営はありとあらゆる経済危機や自然災害などのさまざまなリスクを想定し、それに対処できるよう平時から備えておくことが常識ですが、不確実性というのはリスクのように事前予測が不可能な範疇です。昨年まで億単位の高収益をあげていた超優良企業でさえも数千億円以上もの赤字を出してしまっています。コロナ禍がなければ健全経営で優良企業として存続できるような会社が突然業績悪化に追い込まれ、資金繰り悪化で倒産・廃業の危機にさらされているのです。これを財務省の役人や構造改革偏重主義者・清算主義者らは”ゾンビ企業”だとかいって見殺しにしようとしています。

私は構造改革万能主義者や清算主義者の思考的欠陥はビルドやストラクチャリングである新しい産業や技術イノベーション、人材の育成の肥やしとなる資金調達を容易にする金融緩和政策や消費者の購買意欲を高めるための財政政策を軽視しておきながら、長年のデフレ不況を放置して数多くの民間企業の活力を削ぎ続けるところにあると思っています。彼らが勝手に”ゾンビ企業”だと見なした民間企業を次々と根絶やしにすることで、結果的に日本の産業基盤を脆くし雇用の縮小や労働者の技能腐食を招きました。私が過去30年の間にみた日本の衰退はまるで凍傷になって指先や鼻先が壊死して落ちてしまったり、心臓の心筋が大部分壊死してしまったような状態に見えてなりません。

不確実性が高いコロナ禍で多くの企業は業績の見通しが立たず、新規雇用を大幅に縮小する動きへと転ずるでしょう。失業率が一気に増加する可能性が出てきていますし、新卒学生の求人や採用が減って再び就職氷河期が訪れています。人々の所得不安定化や低下が進み消費需要も衰えるでしょう。そうなると慢性的なデフレが再発し、それが企業投資や雇用の縮小に滑車をかけます。

そういう事態が予測されるにも関わらず財務省は緊縮財政をチラつかせ、経済支援を早期に打ち切るような態度をみせているのです。企業の経営や個人の家計はよりいっそう防衛的にならざるえないでしょう。給付金について「バラ撒いても消費に回らず貯蓄になるだけ」と麻生太郎財務大臣などが口にしていましたが、コロナ増税を含めた緊縮財政予想を人々に植え付けさせればお金を貯めこむような動きになって当然です。

今回のコロナ禍が収束したとしても、完全に人々の消費行動が変わってしまい、元通りに需要が回復しない業種や業態が出てくることは私も想像しています。そういう意味でもはや継続が不可能な事業を捨てて新しい産業へシフトさせていった方がいいという主張は一理ありますが、新産業が大きな雇用を生み出すほど育つまで年単位の時間がかかります。その間コロナ禍で職を失った人々は無業者のままでいるわけにはいきません。先にいった職能の腐食も進みます。となってくると既存の産業をなるべく潰さず残した方が賢明ではないでしょうか。各事業者が永年にわたって積み重ねてきた技術的蓄積は倒産や廃業によって同時に消失し簡単に元に戻せないのです。

「あの企業は残す価値がある」「ゾンビ企業だから潰した方がいい」などという判断を何も知らない役人たちが勝手に決めることなどできません。政府はとにかく著しく所得が落ち込んだ事業者や個人には理由の如何を問わず公助で支援をするという態度を示すべきです。

 冒頭で紹介した経世済民政策研究会の提言に話を戻しますと、この提言書は定額給付金のように全国民に幅広くお金を給付する政策と、コロナ禍で深刻な打撃を受けた業界への重点的な支援を並行して行うことを提案しています。ピンポイント的な政策と面的な政策を同時にやるのです。

コロナ禍は観光や宿泊業、飲食業、興業、旅客輸送業、医療・介護など特定の業種に打撃を与えていますが、この先被害規模が面的に広がっていく恐れがあります。政官の恣意性や選別性があまりに高いと保護の対象から外れ、路上生活者に転落したり最悪は自殺に追い込まれる人たちが一挙に増えてしまう事態を招きかねません。

何度もこれまで説明してきたように財源についての心配をする必要はないのです。こうした危急の事態については国債を発行し、中央銀行が買い受けるやり方で実質債務性を不胎化できます。国債発行量の膨張を気にするよりも民間の産業が衰弱し、雇用がどんどん失われ生産活動がこのまま衰弱したままになることの方がはるかに危険です。国家財政も所詮民間が産み出した富や財の上で成り立っています。国家財政が先に破綻するのではなく、民が先に潰れるのです。

財務省の横暴を抑え込むべく、全国民が政府に対し財政政策や金融政策による支援を怠るなと声をあげねばなりません。

 

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生産性に関する勘違い

 

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先日10月15日に政府が設置する成長戦略会議のメンバーに元金融アナリストで文化財の修復などを行う小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏が起用されることになりました。IT関連企業会長の金丸恭文氏や、国際政治学者の三浦瑠麗氏の他に慶應義塾大学名誉教授の竹中平蔵氏もメンバーとして起用されたようです。

アトキンソン氏の名前は私もちょこちょこ聞きますが、氏は日本の(労働)生産性の低さとそれによる日本の労働者の低賃金化を問題視しており、その原因は大企業に比べ生産効率が低い中小企業の多さにあるとみているようです。ゾンビ企業というべき中小企業を整理統合したり淘汰させることで、生き残った生産効率が高い優良大手企業に日本経済を牽引させていくことが望ましいという考えです。

toyokeizai.net

これについて経済学者の朴勝俊(パク・スンジュン)さんがアトキンソン氏に対し批判をしています。

parkseungjoon.hatenadiary.com

それに対しアトキンソン氏も記事に名前こそ出さなかったものの朴氏に反論記事を書いています。

toyokeizai.net

アトキンソン氏の記事をざっと読んでみたのですが、やはりこの方はマクロ経済学の知識が薄いなという印象を持ちました。その中でいちばん気になるのは氏がいう「生産性」という言葉の定義があやふやになっている点で、生産性の低い中小企業を整理統合させたり淘汰させ、残った生産性が高い企業が雇用や経済成長の牽引役になるような構造改革を進めていくべきだと考えてしまっている点です。こういう思考を清算主義といいます。アトキンソン氏に限らず生産性の低いゾンビ企業をどんどん淘汰することで日本経済が復活するという妄想を抱いている人がかなり多くおり、彼らは金融政策や財政政策といったマクロ経済政策を無視するのです。

会社経営者にありがちなことですが、ミクロのことばかりに関心が向いてしまう傾向にあります。よくありがちですが経営と経済を混同してしまっているのです。両者はまったく結びつきがないというわけではないですが、経営の場合は一事業者というかなりミクロな世界で、経済の場合は社会や国全体、もっと視野を拡げて国家間というマクロな世界を対象としていっます。経済学者が会社の経営をやってうまくいくのかというとそうでなかったりするし、また経営者が経済学や経済政策を理解しているわけでもありません。日本国民を30年以上も苦しめ続けたデフレ不況やその真逆のハイパーインフレといった問題は一会社経営者の努力で解決できることではありません。会社経営者にできることはそうした事態に対処して自分の会社や従業員を守ることだけです。政府や中央銀行が解決にあたるべき問題ですし、その助言ができるのは経済学者です。守備範囲が異なります。

それはさておき上で述べたアトキンソン氏がいう(労働)生産性についてはどうも氏の捉え方には大きな問題が潜んでいます。朴氏だけではなく他の経済学者も指摘していることですが、経済学でいう労働生産性とはGDP÷就業者数です。ついでに言いますとGDPを人口で割ったものは一人当たりGDPです。アトキンソン氏の文章を読むと両者の区別がついていないのです。氏のいう「生産性」についても効率のことなのかGDPのことなのかあやふやな部分があります。あと「実際に仕事をしている就業者の労働生産性が1000万円の場合」という文言が出てきますが、これは潜在GDPのことでしょうか?

さらにアトキンソン氏はGDP÷就業者数=労働生産性ならば就業者数×労働生産性=GDP労働生産性を上げることで生産性(GDP?)がもっと増えるはずだという勘違いもしているようです。朴氏が指摘するようにGDP÷就業者数=労働生産性というのは左辺の結果として右辺の解になるというもので、逆に右辺を大きくすれば左辺の値も大きくなるのかというとそう限りません。因果関係でいえば左辺は「因」で右辺が「果」となります。

ついでに言いますとここは朴氏と私で見解が異なるかも知れませんが、同じくGDPを構成する式で

Y(GDP)=C(消費)+I(投資)+G(政府支出)+NX(純輸出)

というものがあります。これもやはり勘違いしてGの政府支出をどんどん増やせばYのGDPはいくらでも増えるんダーという二文字な人たちが大勢います。自分も以前ツイッターで絡まれた経験を持っています。

日本の場合はご存じのとおり四半世紀以上もの長期のデフレ不況に悩まされてきました。これは需要不足不況です。日本の労働生産性や一人あたりのGDPが低い原因は何でもない低成長でGDPが伸び悩んでしまっているからです。アトキンソン氏のいう生産性というか生産効率の向上は供給側の能力を伸ばすという話になります。需要側が頭打ち状態で生産・供給側の能力や効率が向上したとしてもGDPが伸びていくということはないでしょう。例え話をしますと普通のバスから連接バスに置き換えしますと、1車輛が一度に輸送できる人員が倍増します。バスの運行でいちばん大きな経費は運転士の人件費ですが、運転士ひとりあたりの輸送人員が増えることになり、生産効率が上がることが容易に想像できるでしょう。しかしお客が数名しか利用しないような路線でこんなバスを入れたところで収益が伸びるでしょうか?

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連接バスを入れて輸送力(供給)や運転士ひとりあたりの生産性を高めても、輸送需要がなければ意味がないということです。

もし労働生産性を向上させれば就業者数の分GDPが伸びるというのは需要不足不況を完全に脱し完全雇用を達成しているような状態ならばアトキンソン氏がいうように労働生産性↑×就業者数→=でGDP↑となるでしょう。しかし需要不足でGDPの伸びが頭打ちになっていたとすると労働生産性↑×就業者数↓=GDP→となる可能性が出てきます。いままで10人でやっていた仕事が生産効率の向上で5人でできるようになり、なおかつ需要がそのままで変わらないのであれば5人は余剰人員となりリストラ対象となります。

 

東洋経済に寄稿されたアトキンソン氏の文章を読ませていただくと批判対象がMMT(現代貨幣理論)となってはいるものの、アベノミクスの一環として行われた異次元金融緩和政策や財政政策についても決して肯定的ではないと見受けられます。氏は「日銀によるゼロ金利政策などの金融緩和によって流動性を高めた結果、生産年齢人口が減っているにもかかわらず、驚くことに就業者の絶対数は史上最高になり、就業率も過去最高を更新しています。」と認めつつも、「近年の日本の生産性の向上は、労働参加率の上昇によるものなのです。人の給料は、国全体の生産性で決まるものではありません。人の給料は、労働生産性で決まります。」と言ってしまっています。

実際には企業の投資(Invest)やそれに比べたらいまいちだったけれども消費(Consumer)といった有効需要の増大で多くの雇用需要を発生させたといった方が正しいでしょう。需要のパイが大きくなったから多くの人にパイを切り分けできるようになったといった方が自分は正しいとみています。ところがアトキンソン氏の場合は労働生産性や効率が高くなると需要のパイも大きくなると思っているように感じられます。上の自分の例えでいえばバスを大きくしたから乗客もその分増えるというものではありません。

日銀副総裁だった岩田規久男さんも次のような例え話をされています。

景気が悪化し、デパートが販売する商品への需要が減少すると、客は商品を見るだけで購入しない。すると、店員1人当たりの売上量も減少する。これは店員1人当たりの生産性の低下を示しているが、店員の売る技術が低下したことが原因ではない。

結局需要そのものが落ち込んでしまうと、労働者が同じ質の同じ量の仕事を忠実にこなしていても、生産性が落ちてしまうことになります。乗客が数十人であろうが1人か2人しか乗らなくてもバスの運行経費は一緒で、乗客が少なければ運転士の労働生産性が悪くなります。

岩田規久男さんの例え話に同じく経済学者の飯田泰之さんが

この例は甘い 生産性ガチ勢なら 「客が来るようにデザインからビジネスモデルを変える,店員も客が来ないなら来るように努力・工夫する。。。そういうのまで含めた生産性なのだ」 と返してくる.実際学会でみた.

 なんてツッコミを入れられたそうですが、長引くデフレ不況でお客となる労働者の所得が落ち込んだり不安定化してしまい、いくらお店側が魅力的なデザインやら画期的なサービスを提供しようが「ほしいけど高いから買えない」となってしまいがちです。結局有効需要を喚起する金融緩和政策とか積極財政政策をやって皆が安心してお金を遣えるようにならないと高付加価値のモノとかサービスを買おうとしないでしょう。

それと日本の中小企業の生産性が高くない理由のひとつに仕事の取引先となる大手企業や販売店などから仕事の報酬や単価を低く押さえつけられてしまったり、大企業が効率の低い業務を中小企業に丸投げして、おいしい仕事だけ自社でやるといった図式があることも疑うべきです。中小企業にカス仕事ばかりを押し付け「お前ら生産性が低いから潰れろ」という論理は極めて身勝手といえましょう。大企業がやりたくない仕事を請け負ってきたのも中小企業だということを忘れてなりません。

あとアトキンソン氏の話からズレますが、コロナ危機でこれまで堅実な経営をしてきた会社がいきなり資金繰り悪化で経営危機になって、倒産や廃業に追い込まれてしまうという理不尽な事態が発生しています。こうした企業をゾンビ企業だとか言って切り捨ててしまえということをいう人が結構目立ちますが、このようなことをやって日本でどれだけの企業が生き残るのでしょうか?生き残った企業がコロナ危機で倒産・廃業した会社が稼いでいた分以上の収益を稼ぎ出して、これまで以上に日本のGDPを押し上げてくれるのでしょうか?私はそう思えません。この国は心筋の大部分が壊死した心臓と同じで残った心筋が辛うじて動いてくれているような状態だと思っています。コロナ危機以前よりどんどん客ばなれが進んで衰退の一途を辿っていたような企業ならまだしも、しっかりと営業を続けてきた企業ならば一時的に公的支援をしてでも残さないと、この国は何もできない・何もつくれない国となってしまうことでしょう。安易にゾンビ企業というレッテルを貼り付けてしまう構造改革偏重主義者こそこの国を衰弱死させかねないのです。


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給付金の追加だけではない経世済民政策研究会の提言

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前回の記事にも少し関わりますが、先日令和2年10月14日に菅義偉総理大臣も交えて自民党有志議員による経世済民政策研究会の勉強会が行われました。この勉強会には菅総理の左隣(写真で見たときは右隣の白スーツを着た方)に立たれている上武大学田中秀臣教授をはじめ、元日銀審議委員の原田泰・名古屋商科大学ビジネススクール教授などが講師として参加されてきた勉強会で三原じゅん子議員や長島昭久議員、細野豪志議員などがメンバーとなっています。

今回この勉強会は定額給付金の追加をはじめとする緊急経済政策提言を菅総理に提出し、テレビのニュース番組などでも報道された模様です。

私はかねてよりこの勉強会に大きな期待を抱いています。金融政策と財政政策はマクロ経済政策の二本柱なのですが、多くの政治家は金融政策を日銀に、財政政策は財務省官僚にといった具合に任せきりにしてきました。まだ財政政策は多くの議員が興味や関心を持っていますが、金融政策については与野党含めて極めて少数の議員しか理解していません。この勉強会は財政政策だけではなく金融緩和政策についてもしっかり取り上げられ、細野豪志議員や長島昭久議員の金融政策に関する理解はかなり深いものになってきています。

今回菅総理に提出した緊急経済政策提言ですが、上で述べたように定額給付金の追加だけではなく、政府が日銀に対し2021年度までのインフレ目標2%達成の要請をすることや、医療・介護現場、観光・飲食・興業などコロナ禍で大きな負担や打撃を受けた産業への支援策も盛り込んでいます。このことはネットや報道でもあまり広く伝わっていないように感じられます。

ネットや報道でいちばん目立って伝わったのは定額給付金の追加ですが、これについても決して正しく伝わったとはいえません。定額給付金の第2弾は第2次補正予算の残りをすべて吐き出すかたちでひとり5万円給付だけ先行実施することを提言したのですが、この5万円給付しかないように伝わってしまったりしています。下に経世済民政策研究会の提言書を添付しておきますが、金額こそ明記していないものの第3次補正予算の項目に定額給付金の支給の継続が謳われています。この不確実性の高い経済危機がどこまでの影響を及ぼすのかまったく予想できません。あえて追加給付の金額や支給期間を明記していないようです。

 

添付資料 令和2年10月14日 経世済民政策研究会 提言書

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定額給付金の追加支給については現金収入が激しく落ち込んだままの状態の人がいるでしょうから所得保障(補償)としてやっていただきたいものですし、落ち込んだ需要を補う経済政策面においてもすべきでしょう。しかしながら同時に事業継続が危ぶまれるような企業や業界の支援と雇用維持も計っていかねばなりません。このブログで今年何回も記事で書いてきたように金融緩和政策はコロナ危機で資金繰りが悪化し、多くの債務を抱えなくてはならなくなった民間事業者を支える上で非常に重要です。「金融緩和政策でやるべきことはやり尽くした」と云われますが私はそうだと思いません。民間事業者や雇用を守る上で日銀の金融政策が担う使命と責任は今までになく高まったといえましょう。提言書で政府が日銀に2021年度中のインフレ目標2%達成を要請していますが、こうしたコミットメントの強化は企業にとって将来の見通しを描かせるものです。見通しがなければいまの苦境に耐えることができません。

今回の提言書を受け取った菅総理は失業率、それも公式の失業率だけなく退職後より長く働きたくても不況でできない人や休業者、不況で働く場がなくて求職自体を断念した人たちの数も含めた"本当の失業率"の高さを問題視していた田中秀臣教授はいいます。さらに長島議員や細野議員によれば菅総理が「金融政策は常に頭のど真ん中にある」と口にしていたようです。給付金の追加給付については総理は明言を避けていたとのことですが、第3次補正予算への意欲を示しておられたとのことです。今回の提言書が現実の政策として反映される脈は十分にあるとみていいのではないでしょうか。

 その一方でネットや報道の動きをみてみますと相変わらず突出した今年の国家財政支出の高さや累積債務、国債の発行量のグラフなどをみせて財政危機やハイパーインフレの不安を煽るようなものを見かけます。給付金についても「消費に回らず貯蓄をふやすだけだ」などという使いまわされた屁理屈でやめさせようとする動きも目立っています。

今回の巨額財政出動の財源は国債で調達しており、それを日銀が買い受けることで通貨発行益を発生させています。実質債務性がないかたちで財源確保ができているので将来の増税も心配することはありません。

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 参考

コロナ増税をしなくていい理由 ~国債と通貨発行のカラクリ~ | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~

 

中央銀行による国債買受とそれで発生する通貨発行益を財源にするかたちの財政出動はあまりに乱暴にやるとひどいインフレを招くリスクがありますが、現在のように著しく需要やGDPが落ち込み、インフレどころか慢性的なデフレ不況すら予想されるなかでそれを心配するのはおかしなことです。金利の方も企業の投資意欲が簡単に復活することはないので上昇することはないでしょう。

いまの状況において政府の財政規律よりも民間産業の崩壊や失業増加を食い止めることの方が先決です。いつも私がいうように国家財政という神輿を担ぐのは民間企業や国民個人の納税です。民が先に疲弊することで国家財政が悪化するという順序です。

 

経世済民政策研究会の提言については私の末文よりも、田中秀臣教授自身が書かれた記事を読んでいただいた方が正確な理解を得られることでしょう。最後に紹介しておきます。

ironna.jp

 


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