新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

リフレーション政策と雇用回復 ~投資が増加したかが重要~

今回はリフレーション政策がどのような形で雇用に貢献したのかという話をしますが、この件についてもここ最近「団塊世代が定年退職時期を迎えたから雇用が回復したに過ぎない」だとか「少子化で就労可能人口が減ったからだ」といったかたちでリフレーション政策無効論を唱える人たちがいます。

リフレーション政策と雇用の関係を検証する前にもう一度念に入れていただきたいことがあります。リフレーション政策とは企業の投資意欲を刺激することです。企業にとって雇用は人への投資となります。企業の投資意欲を促す方法としてインフレ予想を利用するのです。


投資がちゃんと活発になってきているのであればリフレーション政策は成功とまでは言い過ぎにしても、効力は発揮していると判断すべきです。

設備投資の方ですが、ものの見事にアベノミクスがはじまった前後から急上昇しています。

グラフ引用 NIPPONの数字様 設備投資より
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つまりは雇用(=人への投資)についてもアベノミクスがかなり貢献している可能性が高いことになります。これで説明完了といってもいいです。

しかしもう少し詳しく2013年より前と現在までの雇用情勢変化を検証してみましょう。
まずはよくリフレ派が使う就労者数のグラフによって雇用改善効果をみる方法です。
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確かに第2次安倍政権が発足する2013年1月前後に就労者数が伸び始めています。しかしながらこれだけで「アベノミクスのおかげで雇用回復!」とドヤ顔できません。グラフのトレンドラインの引き方もリフレ系か反リフレ系かで変わっていたりします。就労者数の回復時点が2012年夏あたりだという指摘もあります。就労者数や失業率だけで要因を特定しきれません。ですのでコミットメント効果で企業の投資行動が変わったかどうかというデータを併せて参照する必要があります。

同じ就職状況でも高校や大学の新卒者はパートやアルバイトと違い何十年間も彼らを雇い続けていくことになります。業績が悪化したからといって簡単に整理解雇できません。ですので雇う側の企業は将来の事業の見通しが明るくないと大勢新卒者を採用することはしないはずです。企業の将来予想が反映されるものです。
リクルートワークスが大卒者の求人状況に関するデータを作成していますので見てみましょう。

求人総数および民間企業就職希望者数・求人倍率の推移
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業種別 求人倍率の推移
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2014年卒業つまりはアベノミクス始動の2013年に就職活動をしていた大学卒業予定者からぐんと求人状況が改善されましたね。2016年以降は横ばい推移ですが堅調といっていいでしょう。求人は建設業と流通業の伸びが目立ちます。製造業も僅かですが上昇気味です。建設業の伸びはもちろん「公共事業の拡大を計ったからだ~」という可能性も考えられますが。

次に最近目立ってきているリフレ無効論者が使っている論法である「雇用が増えたといっても医療・福祉系ばかりじゃないか」というものについても触れてみましょう。この分野の雇用拡大は民主党政権時代から見受けられました。リーマンショックや派遣切りにあった非正規雇用者が介護業界に相当数流れこんだことは確かでしょう。
しかしながらアベノミクスがはじまる直前の2012年末から2017年までの5年間で就労者が大きく増加した業種は

1位 医療福祉 112万人 (全体の45%)
2位 情報通信業 44万人
3位 卸売・小売り25万
4位 教育・学習24万

であり、やはり医療・福祉系の増加が目立つのですが、他の業種も増加しており「医療・福祉系以外は増えていない」などと言いきるには無理があります。あと長らく雇用が漸減傾向にあった製造業ですが、5年間で19万人ほど雇用を吸収しています。自分はこの業種の雇用を下げ止めた点を評価したいです。

あと他にもいろいろなリフレ無効論が出てきているのですが、もうひとつ代表的なものを挙げると団塊世代引退説と少子化進行による就労可能人口減少説です。これについても左右問わず唱える人が目立ちますね。
戦後の第1次ベビーブームに生まれ人口層が厚い団塊の世代(1947~49年生まれ)が定年退職で引退する時期がアベノミクスがはじまった2013年と重なるから雇用が増加したというものです。確かにこれもアベノミクス以後の急速な就労者数増大の一因かも知れません。
ですがこの団塊世代引退説もはっきりしない点がいくつもあります。もともとこれについては「2007年問題」とか定年5年延長後の「2012年問題」、そして団塊世代最後の1949年生まれが67歳になる「2016年問題」と何度もこの世代の大量退職や人手不足・技術継承問題が囁かれていました。しかしながら実際には団塊世代の引退時期は各個々人バラバラで分散したようであります。雇用に変化が起きるタイミングがはっきり線引きできません。

 参考 総務庁政策統括官付 統計企画管理官 千野 雅人氏

上のレポートの文中にこんなことが書かれています。
「このように、仕事をしている人や探している人(男性)は、60歳や65歳になったときに急に減少するわけではなく、60歳になったときから徐々に少なくなっていき、67歳になったときには約半分になる、ということが分かります。これを逆に見れば、退職(仕事からの引退)の状況になります。」

つまりは一挙にある時期に団塊世代が離職するのではなく、じわじわと10年ぐらいかけて減っていくということです。もし企業が大量に定年退職者が出て人手不足を警戒していたのであれば技術継承の期間を含めて2012年より前に若手を育成する動きが出ていてもおかしくありません。また定年退職者が別の職場へ再就職したとしても就労者人口はそれだけで変わることはありません。企業が今後景気が低迷していくと判断すれば定年退職者が欠けたあとに新規雇用は行わず、そのまま人員削減をする形になるはずです。様々なデータを総合的にみてみたとき、やはり2013年の雇用回復は長期に渡る景況感の改善がそれにつながった可能性が高いと私は判断します。

この他アベノミクス後も全就労者と各人の就労時間をかけた総労働時間は横ばいに近く、気持ちやや上向きに感じる程度の伸びしかないことを指摘する人がいます。事実グラフを確認すると就労者数の増加率が高くなっているにも関わらず、総労働時間はさほど上がっていません。この疑問点についてはこれまで長期に渡り職に就いていなかった人や子育てが落ち着いた女性などがパートタイム労働やアルバイトに就いた可能性が考えられ、一種のワークシェアリングとなっているのかも知れませんが、気がかりな点であることは否めません。要観察事項でしょう。

今回もまた反リフレ派に対する反論的な形の記事となってしまいましたが、私自身も今のアベノミクスを全面的に支持しているわけではありませんし、多くの宿題を残していると思います。これについてはこのシリーズ終盤でお話するつもりです。

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