新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

国家財政破綻より恐れるべき危機 サプライサイドの壊死 その1

今年2021年1月より新型コロナウィルスの感染者数が再び増加し、患者を受け入れる医療機関が逼迫しているために緊急事態宣言が再発令されましたが、その期限が切れる2月7日以降も一か月ほど延長されることになりました。これについてはやむをえないことだと思います。かなり息苦しく窮屈な思いで我々は過ごさないといけないわけですが、今回営業自粛対象とされた飲食店をはじめ、それに関する食品卸業者などを含めた事業者にとって緊急事態宣言の延長は経営存続の危機にも直結します。こうした事業者に対する休業補償や持続化給付金の再支給の他に、その業界で就労する人たちを守るための雇用調整助成金支給といった手当が必要となることは言うまでもありません。個人向けには緊急小口資金融資制度や住宅確保給付金などの支援策がありますが、最終的には生活保護を利用していただくという事例もかなり増えることでしょう。となってきますとその費用を一部負担しないといけない地方自治体の財政を支えるための地方臨時創生交付金の支給も急がれます。

 

現在行われている政府の支援策

 

政府は昨年・今年とかなり大型の財政出動を行ってきており、それは必要なものでしたが、その一方で国家財政状況を気にする人たちがたくさんいるでしょう。今回の財政出動の財源は国債発行で調達されましたが、それを日銀が買い受けることで政府+日銀を統合政府として見なした場合の市中に対してつくった負債の額は実質小さくすることができるという説明をしてきています。

ちょっと不謹慎な例え話ですが、勝新太郎氏を政府、奥さんの中村玉緒さんを中央銀行だと見立てた場合、かつ勝新太郎氏自身が借金を還さなくても、奥さんの玉緒さんが夫の代わりに借金を還せば債権者は困りません。勝新太郎氏と玉緒さんは夫婦なので奥村家の家計として連結決算できます。

さらに一般の家計と国家財政で異なる点は政府と中央銀行には通貨発行益があってお金を刷って債務償還したり、債券の買い取りができるということです。もし仮に今回のコロナ禍で負債を多く抱えた企業がどうにも首が回らなくなったときには、その不良債権中央銀行が買い取る手もあります。まさに「最後の貸し手」といえましょう。

 

政府や中央銀行がどんどんお金を刷ってばらまいてしまうとひどいインフレを引き起こすのではないかと心配する人たちがいます。確かにそのリスクがゼロだということはありません。しかしながら今のように著しい需要ショックで、しかもその回復に時間がかかるならば、ひどいインフレを引き起こす可能性は低いです。物価というものは需要(デマンド)と供給(サプライ)のバランスで決まってきます。かなり基礎的な話ですが、フィッシャー交換方程式MV=PTで物価が決まってくると思っておいていいでしょう。今の現状はモノやサービスといった実物財の取引量(T)が潤沢であり、貨幣の流通速度(V)が相当低い状態であると想像されます。この状態であるならば貨幣供給量(M)を増やしても物価(P)を急騰させることには直結しないと考えられます。

とこれまでこのブログで説明してきたことを述べておきました。それでもなお「国家財政は大丈夫なのか」という不安は簡単に払拭できないかも知れませんが、私はそのようなことよりも”サプライサイドの壊死”を心配すべきだと思っています。それはモノやサービスを生産する民間事業者や産業が衰退し、そこに従事する就労者の雇用が萎縮して彼らの職能が腐食していくことであります。日本においては1990年代からこれがはじまりました。三重野康総裁以降の日銀による金融政策の迷走が民間企業の設備増強や研究開発、そして雇用といった投資意欲を萎えさせてしまい、かつては「Japan As No'1」とまでいわれていた日本の産業の国際競争力がみるみると失われていきました。リーマンショックを受けた2010年代以降に中国や韓国などアジア圏の中進国が経済的に躍進し、日本はGDP世界第2位の座を中国に奪われることになります。いま中国のGDPは日本の3倍にまで膨れ上がりました。

 

2013年から第2次安倍政権が黒田東彦氏を日銀総裁に据え、リフレ派の論客である岩田規久男学習院大学教授を副総裁に任命して、これまでのどうしようもない日銀の金融政策を刷新していきます。異次元金融緩和をはじめたことで民間事業者は積極的にお金を事業拡張や雇用に活用するようになったことも、このブログで強調し続けています。

俗にいうアベノミクスの効果は安倍総理が2020年9月に辞任する1~2年ほど前から陰りが見えかけていたのですが、それでもこの数年間サプライサイドの腐食や壊死の進行を食い止めた点を私は高く評価しています。

 

しかしその安倍政権の最末期において中国・武漢からはじまった新型コロナウィルスの感染拡大によって再び”サプライサイドの壊死”が急速に進み始めます。感染抑制のために緊急事態宣言を敷いて人々の接触や活動を大きく制限しているのですが、それは観光業界や飲食業界などといった対面サービス業を中心に民間事業者の営業活動を抑制し、その需要も激しく落ち込みます。まだそれが2~3か月の短期間で感染が完全収束すればよかったのですが、もう2年目になってもそれが達成されておりません。この間に民間事業者が耐え切れず倒産したり、事業存続を断念して廃業に踏み切っています。失業や就業時間の短縮に見舞われた就労者も大勢みえます。そうした民間事業者の中には何十年以上、場合によっては百年以上もの長い伝統と高度な技術を積み重ねてきたところや、コロナ危機がなければ健全経営で存続し続けられたはずの事業者も多く含まれていることでしょう。

 

森永康平さんのツイートです。

 

 

清算主義的な発想にとらわれた一部の経済学者や評論家などが、このコロナ禍は本来市場から淘汰されるべきゾンビ企業を篩い落とす絶好の機会だなどと考えているようですが、とんでもない誤認だと私は思います。ゾンビでない健全経営だった会社までもが倒産・廃業・休業に追い込まれてしまえば、コロナ感染が収束したとしても経済力が元どおり回復しないままになってしまう恐れがあります。元々高い技能を持った職人さんなどが職を離れ、そのまま年金生活に入ってしまうようなことになれば技術的資産を失ってしまうことにもなるでしょう。この国が優れたモノやサービスを生産できなくなり、雇用が失われてますます貧しくなっていくのです。
 
新興のビジネスが旧い伝統産業にかわって生産活動や雇用を進めればいいと考える人が多いかも知れませんが、新興ビジネスといえども従来産業が何十年・何百年に渡って積み重ねた技術を土台にしないと成立しない例がたくさんあります。例えば2003年に創立した電気自動車のTeslaなんかも次世代イノベーションの波にのった新興企業だというイメージがありますが、動力源が電気だとはいえど、クルマはボディやサスペンションがあってこそ成り立つ工業製品です。衝突安全性やシャーシ設計などのノウハウは一朝一夕で得られるものでないはずです。画期的な技術とか産業とみえるものも実はある一点の革新性が光っているものなのだと思わないといけないでしょう。

 

ちょっと話がズレましたが、コロナ禍における経済対策でいちばん重要なことは民間の産業や雇用を極力潰さないことです。一度潰した産業は簡単に回復させられません。例え政府が一時的に巨額の財政赤字や負債を増やすことになってでも、自国の民間産業の壊死だけはなんとしても避けないといけません。

 

「国家財政が破綻すると経済ガー」「国民生活が破綻する」などと思っている人たちは国家が経済を回していると思っているのでしょうか。この国は社会主義国家ではありません。民間事業者や個人が自由主義経済を動かしているのです。民間事業者や個人をどんどん破産に追い込み、経済活動ができない状況をつくってしまうことこそ本当の危機です。そもそもモノやサービスを生産して、それを売って稼ぐことができない人だらけの国なったら、政府は税収を得ることができませんし、一方で公的扶助の支出が膨張して財政赤字がもっと増えていくことでしょう。国家財政再建の前に民間経済の再生を優先すべきだと主張するのはそのためです。竹中平蔵氏も同様の主張をされています。

 

かなりディストピア的な想像ですが、今回のコロナ禍で経営破綻や廃業・休業に追い込まれた日本の民間事業者を中華系資本がどんどん買収してしまうということもありえます。先に述べたように既に中国のGDPは日本の3倍に迫ろうとしています。当然のことながら軍事費も比例して膨張します。日本が中国に侵略されてウイグルやモンゴルのような自治区にされてしまうという形で日本の国家財政問題が消滅するというブラックジョークみたいなことも想像できます。

 

今回多くの民間事業者や個人が背負わされた負債は中国から発生したコロナウィルス感染拡大という非常に理不尽なかたちで生じたものです。本来背負わなくてもいい負債でした。この莫大な理不尽極まりない負債に民間事業者や個人は押しつぶされそうになっています。これを肩代わりできるのは政府と中央銀行しかありません。

 

いつも自分が批判しているMMT(現代貨幣理論)っぽい見方になりますが、今回の理不尽なコロナ負債は民間事業者・個人家計・政府の3部門のうち、いずれかが背負わなければならないものであります。結局債務負担能力がいちばん高い政府部門が背負うしかないというのが現実的解答です。

 

元はというとこの理不尽な負債をつくったのは中国共産党という組織であり、債務者とすべきですが、それをやろうとすると第3次世界大戦でハルマゲドン(最終戦争)となりかねません。結局各国の政府部門が負債を背負い、最終的には中央銀行がそれを引き受けるという解決策を択ぶことになるのではないでしょうか。

この話は長くなりますので数回にわけて書いていきます。

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