新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

漏給が起きにくい所得保障制度を考えていくべきではないか

基礎知識編ブログの方でここ最近盛んになってきた臨時定額給付金の再支給を求める動きについて一筆記しました。

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定額給付金の再支給はこちらもやってほしいですし、その財源も確保できますが、これよりも優先すべきなのが、医療機関への支援と緊急事態宣言の再発令で営業時間短縮や集客減で売り上げを落とした飲食店等への補償や支援です。持続化給付金や雇用調整助成金などの拡充が優先されます。そういう状況下で定額給付金のことばかりにこだわってしまう風潮を批判しています。とくに最近ですと左派系野党やマスコミが定額給付金再支給を政争の具にする動きが目立っています。

さらに今月27日の参議院予算委員会立憲民主党・社民の石橋通宏議員が菅義偉総理に対し、新型コロナウイルス感染拡大で生活苦に追い込まれている人たちに対し「政府の政策は届いているのか」「首相の責任で届けると約束してくれるか」などと質問しました。その後で菅総理が「いろんな対応策があるでしょうし、政府には最終的には生活保護という、そうした仕組みを最終的にですよ、そうしたことを含めセーフティネットをつくっていく」と答弁しています。このあとに石橋議員と同じく立憲民主党蓮舫議員が噛みつき騒ぎ立てるという一幕がありました。

【国会中継】参院予算委 3次補正予算案の総括質疑(2021年1月27日) - Bing video

私は上の録画の石橋議員の質疑と菅総理の答弁の部分を文字起こししようとしたのですが、石橋議員が「政府の政策は届いているのか」といっても、質疑する側の方が生活困窮しているであろう人々の状況を把握しているようには思えなかったのです。蓮舫議員の方はあれこれ事例らしきことを述べてはいましたが、ただ菅総理の答弁の仕方に感情がこもっていないなど精神論や感情論の話しかしていないのが不快でした。政府による支援が必要であるにも関わらず、支援が及ばない状況すなわち漏給が発生していると思うのであったら、質疑をかける側の方がそれを証明するデータを用意して追及した方が具体性のある議論となったでしょう。

こうした漏給が起きているとするならば

  1. 支援制度構造が困窮者の実情にあっていない。
  2. 支援制度が対象者に周知・理解されていない。
  3. 制度を利用したくても申請手続き等が煩雑で使いにくい。
  4. 補助金支給を判断する行政機関の審査が厳しく、制度利用希望者が申請しても受理されない。

などの理由が考えられますが、実際にそのようなことが発生しているならば、そのことを事例やデータを示して追及すべきでしょう。それがないまま質疑をかけても薄っぺらい議論で終わります。政府側が一生懸命財政支援制度をつくってもお金が役所で詰まって市中へ出ていかない状況があるならば、そこを突いて政権側に制度改善を求めればいいのです。

実際には全国民一律の臨時定額給付金の再支給こそ見送られたものの、政府は世間で思われている以上に多くの支援制度を用意していますし、申請の敷居を下げる努力もしています。

 自民の西村康稔経済再生担当大臣(新型コロナ対策担当大臣等も兼務)が自身のツイッターなどを通して、積極的に支援策の情報提供を行っています。

西村やすとし #不要不急の外出自粛を NISHIMURA Yasutoshiさん (@nishy03) / Twitter

公明党のいさ進一議員も支援情報の提供に熱心です。

いさ進一さん (@isashinichi) / Twitter

 

政府の支援策

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しかしながら立憲民主党議員のいうように実際には支援が行き届いていないとか、生活保護が非常に利用しづらいではないかという指摘が出てくるでしょう。このブログでも過去に生活保護行政についての批判を繰り返してきました。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

役所の裁量に左右されてしまう生活保護の受給資格 - 新・暮らしの経済手帖 ~時評編~ (hatenablog.com)

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

生活保護は利用する際に申請者に就業努力を促すとともに預貯金や持ち家、自家用車などありとあらゆる資産を処分しないといけないといわれています。緊急事態であるゆえに柔軟な保護開始決定を行うよう政府側は地方の福祉事務所に促しているといわれますが他の休業補償等の支出が膨れ上がって地方自治体の財政が逼迫し、生活保護開始を渋る動機が生まれてしまう可能性があるでしょう。それを防ぐには第3次補正予算で計上されている地方臨時創生交付金で保護費の一部を負担する自治体の財政を支援するという方法があるのですが、生活保護という制度はどうしても漏給の問題がつきまといます。

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政府の財政支援については2つの考え方があると思います。

ひとつ目はもっとも深刻な経済的打撃を受けている業界や個人に集中的に手厚く、給付や支援を行う考え方です。現在政府が行っている医療機関への支援や緊急事態宣言で休業を要請する飲食店業界等への補償の他に、持続化給付金や雇用調整助成金、今は休止中ですが観光業界や飲食業界向けのGoToキャンペーンなどのような政策がこれに該当するでしょう。生活保護もこれに入れていいかも知れません。

もうひとつが無差別・無選別で全国民に一律で給付を行うという考え方です。臨時定額給付金や最近再浮上しかけているベーシックインカムがそうです。

前者と後者は良い点と悪い点があります。前者の場合は必要な人や企業に手厚く給付や支援ができますが、受給資格者を支給者である行政機関どう選別するかという問題です。利用資格や条件を細かく設定することになりますが、そこで漏給が発生する可能性が出てきます。さらにいえば厚生労働省をはじめとする官僚や地方自治体職員の事務負担がかなり重くなることを無視できません。元厚生労働官僚だった千正康裕さんが「ブラック霞が関」という本を出されましたが、官僚が過労死ラインを超えるほどの激務に追われている実情が書き綴られています。

後者の方については全国民に一律給付なので漏給は起きにくいです。ただし「広く薄く」にならざるえません。昨年春~夏に支給された定額給付金は全国民一律10万円の支給でしたが、この予算は一回だけで国の財政支出は12兆円となり、やるとしてもあと1~2回でしょう。これでは倒産・廃業目前の状態に追い込まれている事業者さんや失業という状態に至った人たちにはまったく間に合わない額です。

昨年春の緊急事態宣言のときは新型コロナウィルスの正体がいまいちよくわかっておらず、とにかく人と人の接触率を下げることを考えるしかありませんでした。急な経済活動の抑制で現金収入が激減した人たちが広範にあらわれたために、漏給防止を優先して後者の全国民一律給付方式を安倍政権は択びました。

しかし今回の場合は経済的打撃を受けた業界と回復が早い業界が割とはっきり分かれているために前者の的を絞った給付方式を主体にしています。「必要な人たちに手厚く」という考え方です。

とにかく今の現状で完璧ではないけれども、最善な現実解は昨年からこれまで政府が用意してきた持続化給付金や雇用調整助成金、緊急小口資金融資制度、住宅確保給付金などといった制度をフル活用し、それでもダメだったときは菅総理の答弁どおり最終手段として生活保護制度でフォローするというものでしょう。冒頭で述べた西村大臣やいさ進一議員らのようにこうした制度を多くの人に周知させていくという行動をとった方がいいかと思います。

しかしながら支援制度の種類があまりに多すぎて、濫立しているようにも思えます。それが逆に利用を遠ざけている可能性があるのではないでしょうか。

これは今後の課題となるのですが、菅政権が推進しているマイナンバー制度の普及とデジタル庁創設の動きと連動し、給付付き税額控除制度のような制度に所得保障制度を統合していった方がいいのではないでしょうか。もうぼちぼち確定申告の時期が近づいてきていますが、このときに行政機関は個人や法人の所得状態を把握することが可能です。著しく所得が落ち込んだ個人や法人に対しては税徴収ではなく給付を行います。この制度のいいところは必要な人や事業者に絞り込んで給付ができる一方で漏給も防げるのです。

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定額給付金ですと継続的な支給はできません。2~3回が限界です。しかし給付付き税額控除方式ですと継続給付が可能になります。あとベーシックインカムとは違って大掛かりな税制改革や社会保障改革をしなくても実現できます。

おかしな話ですが、立憲民主党という党はこれまでマイナンバー制度の拡充やベーシックインカムはおろか給付付き税額控除の導入に積極的ではありませんでした。私はすでにこの政党は生活困難者に対する関心を持ってない、単なる活動家の集まりでしかないと見なしています。清算主義的な発想を持つ議員が多く、苦境に追いやられた民間企業をどんどん潰してしまえという態度すら示しています。社民党と共にこの政党は既に存在意味はないでしょう。


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