新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

異次元の量的・質的金融緩和政策

前回「インフレターゲットのほんとうの意味と目的 ~リフレはコミットメント~ 」では中央銀行が「物価が上昇しデフレを脱却するまで金利を上げない」と誓約(コミットメント)することによって、企業は「当面金利が上がらない」と予想を変え「ならば積極投資をしてしっかり稼ごう」と行動を変えていくゲーム理論のコミットメント効果について述べました。中央銀行のコミットメントがただの口約束ではないという証のひとつが量的・質的金融緩和になります。下で述べるようにこれは長期間に渡って金利が上がっていかないという予想を企業や金融機関・投資家たちに与えます。今回はそれを解説していきたいです。

まず量的金融緩和の方の説明ですが、これは既に当時日銀の審議委員のひとりであった中原伸之氏がジョン・テイラー博士のアドバイスに従い、小泉純一郎政権時代に導入しました。


上の記事で書いたことを書き抜きすると
1 日銀が民間金融機関が保有している国債ならびに手形を買い受ける。
2 その代金が日銀内に設けた民間金融機関の当座預金に振り込まれる。
3 民間金融機関は当座預金に積まれた現金を企業への融資や株・不動産等の資産運用に活用しはじめる。
4 市中に多くのマネーが供給され、それがやがて物価上昇をもたらす。(貨幣数量説) 金利も低下する。
です。

マネタリーベースを増大させてやると金利が上がりにくくなりために、企業や銀行に「2%の物価上昇が達成するまで数年間金利の引き上げはない」という予想の信頼性を強くできるわけです。遊郭の遊女や極道が誠意を示すための「指切り」と同じです。
これだけですと普通の人はなぜ日銀が国債などを買い取る必要があるのかわかりにくいかと思いますので、説明を補足しますとここで「紙幣は負債から生まれている」ということを思い出してほしいのです。すなわち信用創造です。
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紙幣(信用貨幣)は誰かが銀行からお金を借りないと発生しませんし、世の中全体にまわっていきません
民間市中銀行信用創造で金庫で保有している現金以上の資金を膨らませて、企業や個人に貸し付けしています。
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銀行は預金者からかき集めたお金を、別の企業や個人に貸し付けているというよりは、信用創造で膨らませた預金通貨を貸し付けているのです。あるいは誰かが銀行から借金していかないとお金を生み出されないと捉えるべきでしょう。お金が先に生まれるのではなく借金が先なのです。

同じく国の借金である国債についてもそうです。民間銀行が預金者から預かっているお金で国債を買っているというよりも、国が負債をつくって新たなお金を生み出していると考えた方がいいです。政府が民間企業や個人に代わって銀行に信用創造をさせているとみてもいいでしょう。

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この図の上の流れが国債日銀直接引受で下の流れが国債日銀買受です。
アベノミクス量的緩和政策は日銀が下の金融機関が持っている国債を買い取る形になっています。

日銀が市中の金融機関などから買い集めた国債の代金を日銀内の当座預金に振り込み、たっぷり余裕のある準備預金で民間企業や個人に融資を行ったり、株式や不動産の購入を行います。アベノミクスがはじまったときに株価が急上昇したのはそのおかげです。

さらにマネタリーベースの拡大は白川方明総裁時代まで日本の輸出系産業を苦しめてきた超円高を是正します。これによって民間企業の業績がV字回復し、これもまた株価上昇につながります

株価や不動産価格の上昇は企業の資産側バランスシートを拡大します。

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これは設備投資や雇用拡大につながっていきます。

最初は企業が自己資金で投資をはじめるために銀行からお金を借りないかも知れませんが、やがてそれだけでは資金が賄えなくなってくると銀行融資が増えて、量的緩和で高く積み上げられた準備預金が市中に流れ始める可能性が出てきます。それと株式や不動産を通して準備預金が流れていくルートも加わります。いずれにしてもマネーが市中へ多く供給され、投資や消費活動に活用されていくと物価上昇していくことが期待されます。(予想インフレ率の上昇)

また日銀が市中にある満期の長い国債をどんどん買っていくことは、相当長い間国債の(名目)金利を下げていくことになります。これは金融機関の資金運用先が金利が低い国債からより高い運用益が望める民間企業への融資・株式・不動産へと変わっていく効果とともに名目金利の引き下げ圧力をもたらします。説明があっさり気味ですが質的金融緩和となります。

予想インフレ率上昇圧力はフィッシャー方程式でわかるとおり
実質金利名目金利-物価で実質金利を引き下げることになります。名目金利自体が引き下げ圧力が加わっているので効果はさらに増します。

下は日銀の副総裁である岩田規久男先生が示された量的・質的緩和の波及経路です。

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自分が書いた説明と照らし合わせながら岩田先生のチャート図を見ていただけたらと思います。

次回は今回説明した日銀の国債買受がもたらした副産物というべき財政ファイナンス財政出動について述べます。



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