インフレターゲットのほんとうの意味と目的 ~リフレはコミットメント~
その前に再度強調しておくことはリフレーション政策の目的はただ物価を上げることではありません。民間企業の投資を活発にさせることで雇用を拡大することが最大目的です。高橋洋一先生も「リフレは雇用拡大が目的」と明言されておられます。雇用は企業にとって人への投資です。よく「まだ2%の物価上昇が起きていないからリフレは失敗」などという人がいますが、こういう人は後で述べるように何もわかっていない人です。日銀の黒田東彦総裁が行った「2年を目途に2%の物価上昇を目指す」というコミットメントは目的ではなく、企業の経営者や金融機関、投機家たちの予想を変えて、投資や融資の行動を変えるための手段です。インフレターゲットで企業の経営者が投資を活発に行うようになったならばリフレーション政策は成功したとまではいわないまでも効果を発揮していると見ていいのです。
ここで一度前に書いた3つの記事を読み返してください。
まず上から2つの記事で書いたことで重要なポイントは連続的な物価下落が予想されると実質金利の低下を招き、投資(雇用)拡大の妨げになっているということです。逆に物価上昇が予想されるようになると実質金利が下がります。
連続的なデフレ状態ですと
ですが、物価上昇が予想されるようになると
となり実質金利が下がります。企業は投資をやりやすくなります。
3つ目の記事はゲーム理論とコミットメント効果について書きました。コミットメントで相手に自分がする行動の選択肢をわざと非合理的なものに縛りつけてやることによって、相手の予想と出方もそれに支配され自分の有利な方へ転換し、結果的に自分が最大の利益を得ることがあるという話をしました。
中央銀行の総裁が「今後2年を目途に物価上昇2%を目指していく」というコミットメントは企業に対し「これから実質金利を下げて投資をしやすくしますよ。最低でも2年間ほど、そして物価上昇が2%に達するまではいきなり金利の引き上げをしませんから、銀行から安心してお金を借りてください。」と約束したようなものです。重工業ですと十年単位のビジョンで巨額の設備投資をするのが当たり前ですから、先々の見通しがすごく重要です。金融政策がコロコロ変わってしまうような状況では巨大投資が安心してできません。だからコミットメントが大事になります。
もちろんそのコミットメントが本当のものだと思わしめるための証拠を示さないといけません。そのひとつが次回以降に説明しますが量的緩和政策です。日銀内に設けさせた民間銀行用の当座預金口座に必要準備以上の準備預金残高を大量に積み上げることによって金利を引き上げにくい状況をつくってやります。前回の「ゲーム理論とコミットメント(誓約)の意味 」で述べたようにそれは日銀が自ら「選択の幅を狭め、自分にとって最適な行動がとれないようにする」ことであります。これによって企業や民間銀行は「日銀は本気で長期にわたってゼロ金利を維持するつもりだ」と予想するようになります。遊郭の遊女らが客への愛情が嘘でないことを示すためにやった指切りと同じです。
少なくとも数年は中央銀行が金利を引き上げることはないという予想は銀行にとっても資金ショートを心配することなく民間企業や個人に融資が積極的にできます。また積み上げたマネタリーベースが株や不動産への投資に流れ、その価格上昇が民間企業の資産側バランスシートを膨らませます。企業のバランスシート改善は設備投資や雇用にお金をまわすゆとりを生むことになるのです。(意図的に資産バブルをつくっているようなものですが・・・・)
もう一度言いますが、インフレターゲットは物価を上げることが真の目的ではありません。企業の投資と雇用を引っ張りあげることが目的です。アベノミクス始動の2013年春以降に狙いどおり投資が増えているでしょうか?
グラフ引用 NIPPONの数字様 設備投資より
見事に安倍政権が発足した直後の2013年1-3月期より民間設備投資が急増しています。まだ「量的緩和バズーカをやっていないじゃないか」と思われる人がいるかも知れませんが、安倍政権発足によって異次元緩和をやることが確定的になっていました。ただその予想ができただけに過ぎないのですが、投資の変化がしっかり起きています。消費税8%引き上げのときに若干投資が落ち込んでいますが、安倍政権下で基本的に右肩上がりの投資増を続けています。人への投資である雇用も上昇基調です。「今の雇用改善は団塊世代の定年退職・引退と少子化による労働可能人口の減少だ」などと言う人たちもいますが、設備投資と同調して回復しているということはリフレーション政策の効果が出ていると見るべきでしょう。
~お知らせ~
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