新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

リフレ派的視点で考えた少子化対策

前回記事「子育ては一家の巨額投資 」の続きで、今回は少子化進行を食い止めるための政策について考えてみたいです。

前回記事で述べたことは一家にとって子どもを産み、育てるということは大きな負担がかかります。別の言い方をすれば一大投資だともいえましょう。子育ては20年以上の歳月をかけて一千万円以上の巨費を投ずる大型事業なのです。この大事業を成し遂げるには親は安定した一定以上の所得を確保しないといけません

1960年代から日本は本格的な高度経済成長期に突入していきますが、このときに終身雇用制度や年功序列制度といった雇用慣行が生まれます。企業は一度雇った社員を家族のように扱い、滅多なことでは解雇せず、長く勤めた社員を昇格させていって給与も増やしていくようにしました。また経済成長が右肩上がりになっており、選り好みさえしなければ、ほとんどの求職者が職を得られる完全雇用が当たり前の時代だったのです。

高度経済成長期に現役世代だった人たちは一度就職した会社で真面目に働き続ければ、どんどん出世して所得が上がっていくという期待や予想を持つことができました。少子化傾向は高度経済成長期からはじまったとはいえ、親たちは自信をもって自分が生んだ子どもを成人するまで育て上げることができた時代だったといっていいでしょう。

ところが1990年代に入り、バブル景気が崩壊すると、終身雇用制度や年功序列制度の維持が難しくなってしまい、新卒学生たちの就職も簡単に決まらなくなっていきます。このときに正社員として雇用されなかった若年層の人たちはやむを得ず非正規雇用に甘んじ、糊口をしのぐことになります。彼らは所得が不安定で、最悪は失業等で無収入になってしまうリスクを背負うことになりました。
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もし仮に子どもを抱えた人が突然会社が倒産しただの、リストラされたとかで失業したとしましょう。どう生活したらいいのでしょうか?すぐに次の転職先が見つかればいいのですが、不景気ですと簡単にいきません。もし仮に再就職できたとしてもデフレで賃下げが進んで、前より所得がぐんと低くなってしまうといった事態もありえます。
このような経済状況で子どもをつくることは非常に危険なことであります。デフレのときに子どもをつくってはいけないのです
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日本の場合、失業した場合の失業手当ですが支給期間が半年か1年です。その間に再就職できなかったときは生活保護の申請といきたいところですが、ご存知のとおり多くの役所は水際作戦や硫黄島作戦で生活保護申請を門前払いしようとします。生活保護は簡単に利用できない制度です。こんな状況で子どもがいたら非常に可哀想ですね。最悪の場合子どもだけ児童養護施設に預けるということも考えられますが。
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幸い失業や大きな減収に見舞われることなく、20年間無事に子どもを育て上げたとしましょう。しかしながら高い教育費を注ぎこんで大学まで行かせ、就職させられたとしても、その子どもたちの所得は平均してかなり低くなっています。自分が手塩をかけて大切に育てあげたつもりの子どもであっても、成人後自分の老後を支えてくれる・・・・いやできるとは限りません。

自分の子供たちは自分の生活をしのぐので精一杯です。ちなみに隣の国韓国では日本以上に激しい受験競争で親が借金をしてでも立派な学校に行かせようとするのですが、卒業してもまともな職につけないといったことが当たり前になってしまいました。そのおかげで「ヘル朝鮮」などという言葉が流行ったりしたようです。

このように今の日本(ついでに言えば韓国も)において子どもを産み、育てることはハイリスク・ローリターンの投資になってきてしまっているのです。金銭だけではなく、育児時間や母親の肉体的負担も含めた子育ての負担だけは大きくなっていきますが、その子どもが確実に自立してくれる保障はありません。ひどい場合は取返しのつかない犯罪を犯してしまうといった可能性も無きにしも非ずです。

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企業の投資になぞらえると子育てはものすごく莫大な資金を必要とし、その成果を得られるまで20年以上もかかるという巨大プロジェクトのようなものです。しかもそのプロジェクトは大きな成果が得られるという保証はありません。
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十年単位の大型事業は企業にとってものすごく大きなリスクを背負うことになります。その企業はその間にサブプライムローンショックのような大きな経済ショックに見舞われないとも限りません。企業は家庭と違い、もっとシビアに投資対効果を計算して事業を行うか行わないかの決定をしまします。将来の見通しが明るくなければ大型投資に踏み切りません。1990年代以降の日本企業は思い切った投資や長期ビジョンに立った大型事業に消極的な態度でした。それが「失われた20年」という長い停滞期につながり雇用の萎縮を進めます。

ここで思い出していただきたいのはリフレーション政策のロジックです。この経済政策の肝は企業や銀行・投資家たちの将来の予想を変えることにより、彼らの投資や融資行動を変えることだと説明しました。レジームチェンジです。
 当方が書いた記事 3 「ゲーム理論とコミットメント(誓約)の意味

 矢野浩一准教授が書かれた合理的期待仮説とリフレーション政策に関する論述

なぜリフレーション政策が求められたのか? その2 流動性の罠脱出の切り札 」では不景気で物価が下落し続けると企業は金利以上の収益が望めなくなり、債務を抱える負担だけが重くなるので、投資を躊躇うという説明をしました。それと(実質)金利が高くなると、企業はそれを超える収益率のない事業を打ち切ってしまい投資が減ってしまうことも話しています。イメージ 1
(実質)金利>収益率となるならば企業は負債を膨張させることになるので、その事業をやめないといけません。

このままではいけないので政府・中央銀行が「インフレターゲット2%達成までは金利を絶対に引き上げたりしない」という予想を企業や銀行に与えて、投融資を躊躇わないようにします。これがリフレーション政策の主目的です

子育てに話を戻しますと、その過程で最も憂慮すべき事態は自分が会社の倒産やリストラで失業や著しい賃金の引き下げをされ、予想外の所得減少・無所得化に遭遇することです。そうしたリスクが高い経済状況ならばお金がかかる子育てはしない方が安全という判断をします。それは企業がデフレの深刻化や金利上昇を恐れ投資を控える動きと変わりません。

子育ては一家の巨額投資 」の最後で自分は子ども1人当たり十数万円の子ども手当を支給でもしない限り、国民は安心してもっと子どもを増やそうと思うわけがないよと書きました。こんなのできるわけがないと思う人が大半かと思います。子ども手当という財政政策でやろうとすると無理が出てきますね。現実的には子育ての費用は各世帯が負担していくことになります。

それができないのであるならばせめて子どもを成人するまでの20年間、一定以上の所得を獲得し続けられるという予想や信頼を政府や中央銀行がつくっていくべきでしょう。つまりは政府や中央銀行が「雇用の安定を護る」というコミットメントをするということです。日本の日銀にはそうした義務が課せられていませんが、アメリカの中央銀行であるFRB物価と雇用の安定を計る責務があると自認しています。

中央銀行が適正な金融政策を行うことで安定的な雇用を守ることにより、多くの就労者たちが長き将来に渡って得られると予想する所得(恒常所得)が増えることが期待できます。このような形で子どもを育てる費用を稼ぎ続ける自信を多くの国民に与えることが政府・中央銀行にできる少子化対策となるのではないでしょうか。

リフレーション政策とその国民からの信認が少子化対策につながるのです。政府や中央銀行は自分たちの雇用をちゃんと守ってくれるという信頼を取り戻すことが、少子化対策の第一歩です。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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