新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

子育ては一家の巨額投資

年金・健康保険財政の悪化は少子高齢化のせいだけか? 」で自民党二階俊博幹事長による「子どもを産まない方が幸せに送れるんじゃないか(と考える勝手な人がいる」発言の批判をし、さらには「食い止めきれない少子高齢化の進行 」で少子化対策の難しさについて述べました。

少子化の進行は戦後の高度経済成長期の前後よりはじまっています。1947年~49年の第1次ベビーブームと1971年~74年の第2次ベビーブームに出生数の大きな山があるのですが、それ以外はずっと子どもが産まれる数が減少し続けています。
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このことが年齢層にわけた人口ピラミッドの形を歪なものとし、社会保障制度の維持に大きな支障が出ることが予想されています。そのためにいま日本の政府は必死に出生数や出生率を向上させようと躍起になっています。

戦後の日本で少子化が進んだ原因ですが、これについては多くの人たちが述べているように経済発展が進むと世界中どこの国でも少子化になる傾向があります。まだ経済発展が未熟で医学・医療が進歩していないと死産や乳幼児の死亡リスクが高いです。多産多死であり、人口ピラミッドも乳幼児の層が厚くなります。ところが医学・医療の発達でそうしたリスクが少なくなっていくと、親は子どもの出産数をへ減らし、少ない数の子どもを手厚く育てる傾向が出てきます。

しかしながら少子化の原因はそれだけではありません。封建的な家(いえ)制度の崩壊や核家族化、産業構造の転換も当然原因のひとつとして入ってきます。地縁が強い農村型社会から個人主義的な都市型社会や工業化社会への転換は多産指向から少産指向化への移行を促します。

機械の発達があまり進んでいなかった戦前までの日本は農村部を中心に労働集約型の産業構造となります。とにかく多くの人手を要しました。後継者も育てていかねばなりません。あと社会保障も発達していなかったので、自分の老後の面倒を息子か娘に見てもらう必要があります。若いうちに子どもをたくさんつくり、育てていかねばならなかったのです。しかし都市型社会や工業化社会が進んでいくと、労働者はサラリーマン化していきます。農業・漁業や手工業の職人・個人商店のように後継ぎをつくらないといけないという必要性が薄まります。一家の支出はマイホームやマイカー・電化用品などの購入費やローンが嵩み、多くの子どもを養いにくくなります。

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山田洋二監督の映画「家族」でも、核家族化した風見精一の弟・剛(役 前田吟)一家の状況が描かれている。
狭い団地住まいで妻と子どもがひしめき合って生活しており、兄・精一(役 井川比佐志)はとても年老いた父・源三(役 笠智衆)を預けることはできなかった。

子どもを産み育てることは親にとって金銭の損得で推し量れない無償の愛によって行われるものなのですが、あえて経済や経営学的な言い方をしますと、親にとって数千万円以上をかけた投資であり、20年以上の年月という長期計画に基づく一家の大型事業であるという見方もできます。

高度経済成長期前までは産まれた子どもが労働・生産活動に参加できるようになるまで十数年もあればよかったです。戦前までならば小学校を卒業したらすぐに家業の手伝いに入るなり、商店や職人の親方へ丁稚奉公に出されたりしたものです。つまりは子どもが一家の労働力として育つまでの投資コストがさほど高くなく、早い時期にその回収ができたということです。

ところが高度経済成長期を迎え、工業化が進み、労働者も高学歴であることが望まれるようになってくると、親は子どもに多額の教育コストをかけていかねばならなくなります。

子どもにかかる基本的教育費と学費の例

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 参考 子ども養育応援便り様 「一人の子どもの出産から大学卒業までの総費用

中学までの義務教育だけでは足りず、高校卒業は当たり前で、大学まで進学しないといい就職先が見つからないといった親の思い込みも強まります。生まれてきた子どもが大学まで進学すると誕生から22年間は実質労働力とならないことになります。戦前よりも養育期間が数年から10年近く伸びています。

まだ生まれてきた子どもが順調良く成長していけばいいのですが、重い障がいを持って生まれてくる子どもも一定以上の割合でいます。障がいをもった子どもは一般の子どもよりも福祉や医療サービスの利用などで多くの養育費がかかってしまいます。親の立場からみるとその子どもが成人してからも経済的に自立できるどころか、一生延々と彼ら・彼女らの介護を続けないといけません。ひとくちに障がい児・者といっても個々人が持つ障がいの状況は大きく異なりますが、自閉症を持った子ども・人の場合、激しいパニックを起こして自傷や他傷行為をしてしまう場合があり、ひどいケースですと親が疲弊してしまっていた例もありました。(私が見た例ですと家中のガラスが割られていたり、激しく噛みつかれたり、家の床に大穴が開いているといったものです。)
子どもが持っている障がいによっては親の負担はかなり重く、一生背負い続けないといけないものになります。当然経済的にはものすごく不利な立場に追い込まれます。

一応日本では障碍児・者福祉制度がありますが、それでも補いきれない親の負担の重さがあります。もし仮に障碍児・者福祉制度がなかったとしたら、私は怖くて子どもをつくることができません。(小林よしのり氏もだからワシは子どもを作らなかったと述べていたことがある) 

よく政治家や役人たちが国民に向かって「もっと子どもを産めー」と言っていますが、子ども一人を成人するまで育て上げるコスト(上の数値化しやすい養育費だけではなく、平均一日5時間以上の労働負担や子どもをつくってしまったために生ずる所得機会損失も含め)がどれだけ莫大なものかを考えてものを言うべきでしょう。

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子どもをつくれーということは「お前ら数千万円もの養育コストを自前で負担しろー」と言っているも同然です。これだけのコストを負担できるのは恒常所得(将来にわたって得られると予想される所得)が高い人となってくるでしょう。

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野田聖子さんはそのことを身をもって知っていらっしゃることかと思われますが・・・・・。


口を出すならカネも出すのが世の中の筋です。国はひと月十万円以上の子ども手当でも出してくれますか?

国が勝手にカネも出さずに国民に負担だけを押し付けることなんかすべきではありませんし、できません。どこかの社会主義国家や全体主義国家じゃないのですから。子どもをつくる・つくらないは国民個々人の自由意思に基づく判断に委ねざるえないのです。

それでも少子高齢化が問題だということであるならば、少しでも政府側が子どもの養育を支援する制度を整えていくべきです。福祉関係者や左派政党などがよく使う言い方ですが、国が子どもを育てるといった発想も必要です。

次回はリフレ派的な少子化対策法についてです。

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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