新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

人口問題と国家財政危機論に振り回されるな ~社会保障・医療・福祉問題編の結びにかえて~

今回で「 社会保障・福祉・医療問題 」編は最終回とします。社会保障制度の概略から歴史、社会保障財源や医療・介護福祉・生活保護の各問題について追ってきました。一般の人が持ちがちな社会保障制度に関する誤解について解く目的でずっと記事を書いております。

何十年にも渡り、国や経済評論家、マスコミなどが日本の国家財政危機論や少子高齢化による社会保障制度破綻危機論を言い続けてきたために、多くの国民が消費税をはじめとする増税社会保険料値上げ、社会保障費削減を「仕方がないこと」と受け止めてしまっています。とくに1990年代後半以降に増税社会保障費削減が情け容赦なく進められてきたのですが、国民にそうした”痛み”を与えたにも関わらず、国家財政や社会保障財源は改善するどころか、どんどん悪化する一方でした。

何度かお見せしてきましたが、1997年に消費税率5%引き上げや社会保障費の歳出抑制策を行っておきながら、逆に財政悪化が進行してしまっていることがグラフでわかるかと思います。

まずは国家財政の方です。
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「平成の鬼平」といわれた三重野康日銀総裁が金融引き締めでいきなり政策金利を上げたとたんに、企業の投資が止まり、経済が悪化しました。1997年に橋本龍太郎内閣が消費税率5%の引き上げと同時に緊縮財政を行って財政再建を目指しましたが、逆に経済・財政両方とも悪化しました。

そして社会保障財源です。
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社会保障財源もご覧のとおりです。社会保障給付費は「福祉元年」といわれた1978年以降増加し続けましたが、社会保険料収入は給付費に追い付いていました。ところが1997年以降に社会保険料収入が伸び悩み、収入と給付額がワニの口みたいに開いていきます。1997年は終身雇用制度が崩壊し、非正規雇用の拡大や賃金引下げがはじまった年です。賃金と比例する社会保険料収入が伸び悩むのは当たり前です。

下のような図を見せて「日本は少子高齢化が進んでいるから、現役世代の負担が増える」「増税社会保険料の引き上げもしくは社会保障給付削減をしないといけない」などといわれ続けています。

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一人の高齢者を少ない現役世代が支えねばならず、将来世代の負担が増すことは確かなことですが、その解決策は増税社会保険料の引き上げ、社会保障費の削減ではありません。現役世代一人あたりの生産効率を上げる以外にないのです。国民ひとりあたりのGDPを引き上げることです。

社会保障支出はなぜ財務省に削減の標的にされるのか 」という記事の中で同様の説明をしてきましたが、非常にバカげたコメントがついてきました。
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「くだらない。普通に少子高齢化による社会保障費の増大が、財政の悪化を招いているだけ。」

などと言っていますが、1990年代後半以降になぜワニの口のように歳入と歳出が開いていったのかという理由の説明になっていません。このような発言は政治家や日銀・官僚らの経済失策の責任逃れを許すだけではなく、将来世代が高齢者を支える経済力をどのようにつけていくべきがという議論から目を反らすことにつながります。現役世代が貧しく、自分の生活を支えるのがやっとという状況で高齢者を支えられますか?経済が悪化したら現役世代は税やら社会保険料の負担ができなくなるのです

ついでに言いますと現役世代が支えないといけない依存人口は高齢者だけではありません。まだ就業できない0歳から14歳までの年少人口も依存人口に入ります。生産年齢人口と依存人口の比率はさほど変わっていないのです。下記サイトの3つ目にある年齢区分別人口構成比のグラフを見ると15~64歳までの生産年齢人口が1920年から2035年までずっと横ばいです。
 
 参考
 猫の遠吠え 次の世代に残したい日本様

野口悠紀雄氏がこんなツイートをしていました。

出生率を引き上げるべきだという考えがあるが、出生数が本当に増加すれば、今後20年程度の期間では、依存人口が増えて、経済を圧迫する。出生率の引き上げは、遅くとも20年前に行うべき政策だった。」

もはや子どもをどんどん産んで少子化を食い止めれば社会保障問題が解決できるなどという話ではないのです。人口構成を変えるというのは20~30年以上の時間がかかります。野口悠紀雄氏が述べているように、出生率や出産数を増やしましょうというのはもはや何の問題解決にもならないのです
結局少ない現役世代で多くの高齢者をどう支えるのかという観点で問題解決の道を探すしかないのが社会保障問題です。

残酷な話ですが若い現役世代の人たちの負担を減らすことは不可能です。いまのうちに頑張って社会保障費を稼ぐしかないのです。竹中平蔵氏は「90歳、100歳まで生きたいんだったら、自分で貯めておく。それがイヤで、国に面倒をみて欲しいんだったら、スウェーデンみたいに若い時に自分の稼ぎの3分の2を国に渡すことです。」と述べたことがありますが、その二つの選択肢のうちでどちらかを選ぶしかありません。
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なお一部で社会保障給付費を削減して社会保険料率の引き下げを行えば現役世代の負担が減るのではないかという意見が散見されましたが、それで社会保障給付費は抑制できても、国民医療費や介護費は減らすことができません。上の竹中氏の言葉に倣えば現役世代が国に渡すお金は減らせても、自己責任で自分が将来支払うべき医療や介護費を貯金するか、民間の保険会社の医療保険介護保険に入らねばならなくなります。負担は無くなりません。
もし仮に病院や介護施設などへ支払う診療報酬や介護報酬を乱暴に減らした場合、廃業する病院や介護施設が続出するでしょう。つまりは病気や怪我を負っても治療してくれる病院がなく、救急車でたらい回しになるとか、老親を預ける介護施設がなく、仕事をやめて自分で介護するしかない惨状が待ち受けているでしょう。
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国民医療費や介護費は膨張しています。
しかしこの支払いから逃れることは不可能です。あなたが病気や怪我のときでも病院で治療を受けず、苦しみもがきながら黙って死を受け入れる覚悟や老親を介護福祉サービスに頼らず自分でする心構えがあるというのであれば話は別ですが。

質の高い医療や介護福祉サービスを維持していくためにも、我々は医療従事者や介護職員らにしっかりと報酬を支払っていかねばなりません。

最後にもう一度強調しておきますが、人口構成問題や欺瞞に満ちた国家財政危機説に目を奪われて、日本国民が高齢化社会を迎えるために備えないといけない経済活力をどう養うのかという議論を忘れてしまってはいけないのです。残念ながらこの二つのことが頭を占めてしまい、思考停止に陥っている人がものすごく多いです。

大事なことは
社会保障費を稼ぐ」
という発想です。

次回からは「貧困・雇用・格差問題 」編に入る予定です。
一部「社会保障・福祉・医療問題 」と重なる内容の記事を書くことになるかも知れませんが、貧困問題や格差問題の考え方・捉え方について考えてみたいと思います。


こちらでも政治等に関する記事を書いています。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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