新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

介護保険制度が導入された2つの背景

社会保障制度のうち、国民が保険料を拠出する形で運営される社会保険制度についてのことをずっとお話しています。前回までは年金保険制度と少子高齢化問題について述べてきましたが、やはり高齢者向けの保険制度となる介護保険制度について見ていきましょう。

介護保険制度は日本の社会保険制度の中で歴史的に新しいものです。この保険制度が制定されたのは1997年のことで施行されたのが2000年のことです。1997年という年を聞いてピンと来られた方がいるかどうかわかりませんが、緊縮財政色が強かった橋本龍太郎政権のときに成立したものです。施行された2000年は小泉純一郎内閣発足のときでした。

介護保険制度は建前上ではこれまでの行政機関による措置方式とは違い、介護サービスを利用する人が自分でお金を払い、サービスを買うという形態にシフトすることで権利性が高まるという意義が導入時に強調されました。またこのことによりサービス利用者が主体的に自ら利用する施設やサービスを選ぶことができ、選択の自由が拡大するという利点も謳われました。介護サービスを行う事業者も通所型(デイサービス等)の第2種ならば社会福祉法人でなくても参入できるようになったのです。介護サービスの自由化や参入・規制緩和と言っていいかも知れません。

しかしこの保険制度導入は別の事情もありました。それは高齢化社会進行による老人福祉・医療費の膨張です。国とくに大蔵省(→財務省)の官僚にとって看過できない問題でした。
当時病院に入院していた高齢患者の疾病が治癒し、医療の観点ではもう入院の必要がない状態ではあるけれども、家族が退院後の介護ができないなどの理由で引き取れないために、そのまま入院を続けるという社会的入院問題が発生したのです。
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どこの病院も高齢者の長期入院患者が滞留し、「トイレのないマンション」状態に陥りました。しかもその入院医療費は医療健康保険が負担する格好です。当然のことながら医療健康保険の財政を悪化させ、保険料の値上げにつながります。

そのために長期入院の高齢者を医療機関と医療健康保険制度から分離させ、介護福祉サービス部門がケアを担う形にするために老人保健法の制定と老人保健施設の設置が行われました。よく一般の病院に併設されたような形で老人保健施設が建てられていますが、このことが背景となっています。

このようにして政府は老人医療費の膨張に対応しようとしたのですが、追い付かないために、介護保険制度が制定されました。上でも述べたようにこれまでの老人福祉事業は家族が介護できない状態にあるなど、やむを得ない事情があると判断された人に対し、行政機関が措置する形で行ってきております。その福祉サービス事業を行うのに必要な措置費は国や自治体などの一般会計から支出されましたが、その費用がどんどん膨張して一般会計を圧迫しだしたので、介護保険制度を新設し特別会計として分離したのです。

それともうひとつ介護保険料を支払わねばならない対象者ですが、40歳以上の中高年齢層となります。65歳以上の人が支払う1号保険料と40~64歳までの2号保険料がありますが、1号保険料は年金から天引きされる形です。制度発足時は平均月額2913円だった保険料が現在は倍額の5869円に上昇しています。ひねた見方をすれば実質年金給付額の削減もしくはサービスの現物支給化だともいえましょう。

また公的保険の保険料は租税であるという見方をされることが多いです。そういう捉え方でいくと介護保険料は福祉目的税です。

こういう話をすると介護保険制度は緊縮財政と社会保障費圧縮という流れで生まれてきたものであり、いい印象が持てません。しかしながら老人医療・福祉財源の逼迫はかなり深刻で、背に腹はかえられなかったために介護保険制度を導入せざる得なかったというのは仕方がないことです。
財務官僚が煽る国家財政危機の嘘 その4 社会保障費 」でも述べましたが消費税を福祉目的税だと言って国民を欺き、その歳入増分を財務官僚たちが他の予算に流用してしまうよりは、介護事業費以外に財源を活用できない介護保険制度の方がましだと私は捉えます。

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政府広報に書かれていることは嘘八百でした。
お金に色はありませんので一般会計のどんぶり勘定はよくないでしょう。

介護保険制度はサービス利用者に対し、事業者が介護福祉サービスを行うと点数に応じて介護報酬が支払われます。公的医療保険制度と同じ仕組みです。

今回は簡単に介護保険制度発足の背景と基本的な制度の仕組みについて述べるにとどめました。
次回は介護保険の保険料や介護労働者に支払われる報酬が適正なものなのかについて見ていきます。またも高橋洋一先生にご登場いただきます。

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