新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

目的がわからなくなっている財政出動

今回の「財政政策のあり方」編はマクロ経済政策における意義や目的について問い直すという理由で書き始めました。このブログサイトは経済政策について解説していくもので、財政政策はその手段のひとつとして扱っています。

しかしながら財政政策の目的はいかなるものであっても目的をひとつに限定できません。例えば福祉関係の歳出目的は経済政策というより国民の厚生福利向上が第一の目的です。防衛もそうです。景気対策のためにイージス艦やら戦闘機、ミサイルなどを製造したり購入するとか言ったら「企業の金儲けのために戦争をやるのか?」と皆怒り出すでしょう。戦前の日本軍部とかアメリカの軍産複合体、ロシアや北朝鮮みたいなことになってしまいます。防衛費を歳出する目的は日本国民の生命や財産を護るためのものです。国家予算の歳出目的は多様でひと括りにできません。場合によってはひとつの政策目的だけではなく、一石二鳥でふたつ以上の政策効果を同時に狙うこともあります。

経済政策としての財政出動の場合、主目的は国民の消費活動や企業の投資意欲を拡大し、有効需要を引き上げることにあります。経済学者ケインズはあまりにひどい不況で金融政策も効力が発揮できないような事態になったときには非常手段として財政出動を行って有効需要を補えと主張しました。

その場合の財政出動でも単に景気対策だけではなく、インフラ整備や特定の産業育成、地域振興、社会保障拡充という目的を兼ねて行われることが多いです。それだけに目的があやふやになって政策効果が中途半端なものになったり、予算を割り振る政治家や官僚・財界のレントシーカーによる恣意が入り混じる可能性があります。
そのために多額の血税を投じた歳出が表に掲げた景気回復やら国民の生活利便性向上といった政策目的のために活かされず、政治家・官僚・財界の利益誘導に終わってしまうことにならないよう注意しないといけません。

小泉改革で一掃されましたが、自民の田中角栄らが蔓延らせた露骨な土建国家ぶりはひどいものでした。「日本列島改造論」などといって次々と土木公共事業を濫発し多くの公費を注ぎこみました。

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これも土木公共事業は乗数効果が高く経済波及効果が高い上に、国民の生活利便性が向上するという大義名分で進められています。その点は否定しきれないのですが、やがて利用度が極度に低い施設や明らかに採算が見込めないような事業にまで推し進めるようになり、工事をすることが目的化してしまうような状況が見受けられました。さらに政治家・官僚と業者の癒着と収賄汚職が蔓延し、田中角栄経世会のやり方は金権政治だと揶揄されたものです。

バブル経済のときまでは半ば苦々しくも自民党が積極的な公共事業拡大で仕事をつくってくれているから、景気が良くなっているのだと思う人たちが少なからずいました。しかしバブル崩壊後はそうした自民党経世会流経済政策に多くの国民が疑問を抱くようになります。バラマキをやっても一部の建設業者だけが潤うだけで庶民はちっとも豊かにならないじゃないか。単なる税金の無駄遣いだ・・・・という具合です。そこへ現れたのが清和会の小泉純一郎で「(経世会支配の)自民党をぶっ壊せ」といって国民から当時喝采を浴びたのでした。

もう一度ケインズ経済学のおさらいをしますと、ケインズが不況のときにいちばん問題視していたのは有効需要のうちで企業の投資がいちばん落ち込み、それが失業の増大を招くことでした。古典派が言うように企業は賃下げで需給調整されるのではなく、減産で対応してしまうとケインズは反駁します。(数量調整説) 
また同時に人々は企業の投資意欲低下で金利が極端に下がってしまうとわざわざいつでも自由に遣えるお金の利便性(流動性選好)を捨ててまで株や債券などで投資したりしないという指摘も行います。
そのためにケインズは金融政策でマネーの量を増やし企業の利潤率より低い利子率に下げてやるか、それでもダメなら財政政策を呼び水にして投資や消費を促してやるべきだと主張しました。スペンディング理論です。

ケインズ流の経済政策は企業の投資を回復させ、それによって人への投資すなわち雇用の拡大を計るというものです。金融政策や財政政策はそのための手段のひとつです。ケインズ派=財政政策というのは浅はかな見方でしかありません。ニューケインジアン流動性の罠が深刻な場合、金融政策だけではなく財政政策も効力を失う可能性があるとまでみています。そのためにクルーグマン教授などはコミットメントでインフレ予想を変え、実質金利を下げる手法を提案したのです。→松尾匡先生のサイト「用語解説 ケインズの経済理論

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金融政策にしても財政政策にしても、場当たり的にドカンと大規模な政策を打ち出しても継続性がなければ、企業は回収するのに十年単位も時間がかかるような巨大投資に踏み切りませんし、正規雇用を増やそうとしません。消費も同じです。一時的に収入が増えても先行きが不安ならば消費に回さず貯蓄するでしょう。これまで日本の政治家や官僚が行ってきた財政はそういうことをあまり理解していないと思われます。だから小渕政権や麻生政権時代の財政出動のように多額の歳出をやっても死に金になってしまうようなことが起きます。上のIS-LMモデルのとおりです。

財政出動もある一定期間以上継続的に行うというコミットメントをしてやらないと効果を発揮しない可能性があるということです。

ここ最近ですが何でもかんでも財政出動だとか積極財政だと唱えていれば景気は良くなるなどという人たちが増えていますが、それだけでは甘いのです。行う財政政策の内容が持続的に企業が投資を活発にするのか?個人がほんとうに積極的に消費を始めだすのかをしっかり吟味してやらないといけないのです。ケインズは「ワイズスペンディング(賢明な支出)」を強調しています。

21世紀のワイズスペンディングとは人々の予想と行動を変えるという仕掛け(nudge)を取り込んだ支出です。
オールドケインジアンが進めていたような目的があやふやでラフな財政政策ではダメな時代です。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

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