新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

金融政策を進めた高橋是清を暗殺した旧軍部による財政膨張

ここのサイトで何回か登場している高橋是清ですが、この人が行った政策について非常に大きな誤解が持たれております。また同時に昭和恐慌のときに高橋が行った国債の日銀直接引受についても、それが終戦後の悪性インフレにつながったなどという曲解もなされています。戦後そのおかげで国債の日銀直接引受は禁じ手とされてしまい、「ヘリコプターマネー」という言葉を聞いただけで「ハイパーインフレ」などという人がたくさんいます。

何度も申し上げているとおり、高橋是清が行った昭和恐慌の危機脱出は金融政策を中心としたもので、財政政策は補完的に行われたものに過ぎません。高橋是清は長く日銀で勤めてきた人で自身が述べていたように、この方は財政ではなく金融の専門家です。
イメージ 1

アメリカで世界大恐慌が発生したにも関わらず、金本位制復帰を行って深刻なデフレ不況を招いた井上準之助に代わり、大蔵大臣となった高橋是清が最初に行なった仕事は金輸出再禁止と低金利政策の遂行、そして日本銀行の通貨発行限度額を1億2000万円から10億円へと8倍以上に引き上げることでした。つまりはカネ不足による銀行ならびに民間企業の資金詰まり解消と投資の活発化です。


確かにこの当時日銀国債引受で軍事予算を一時的に増額したり、地方の雇用創出のために公共事業を行う時局匡救事業のような財政政策もやっていましたが、高橋自身は限られた期間の姑息的政策という位置づけでそれらを行ったに過ぎません。高橋は財政規律を重んじ、恐慌の危機を脱して物価が再上昇しかけたところで財政の引き締めをはじめます。軍事予算縮小の過程で軍部がそれに反発し、2・26事件で高橋是清を惨殺したのです。
イメージ 3

その後の軍部の暴走ぶりは言うまでもないことです。軍部の意向に逆らうものは非国民扱いされた上に、テロルによって抹殺されかねません。放漫財政といってもいいぐらいに軍事予算をどんどん盛っていきます。
イメージ 2

高橋是清が採ろうとしていた政策の流れは今のリフレーション政策の手順と変わらないもので、最悪期はかなり大胆な金融と財政政策を躊躇なく行うものの、景気や投資・雇用が回復して物価が再上昇しはじめたら、静かに金融緩和や財政政策を引き締めていくというものです。
しかし軍部は軍事予算を膨張させることしか頭になく、リフレーション政策の流れなど理解しているはずがありません。

私は「政府(市民統治)貨幣 」編の「財政政策が前のめりになるとろくなことがない 」でも強調したとおり、金融政策ファースト・財政政策セカンドの原則を守らねばなりません。財政ファーストになってしまうと「もっと軍事費を増やせ」「公共事業を増やせ」「福祉にカネを回せ」などと財政収支を無視した歳出や貨幣ならびに負債の膨張を生む原因になります。戦前・戦時中の日本軍部がやったのはそれでした。

上で述べたように日本では国債日銀直接引受や俗にいうヘリコプターマネー、及び政府貨幣が禁じ手のように扱われてしまっていますが、それ自体を行うことがハイパーインフレや悪性インフレに直結するものではありません。今のアベノミクスがはじまる前にも実は国債の日銀引き受けは国会の承認のもとで当たり前のように行われてしました。それによって今日まで悪性インフレはまったく起きていません。

ヘリマネや政府貨幣をやっていい・いけないを論ずるよりも、大事なことは金融政策によってマクロ経済の安定を計っていくことを最重要視すべきだということです。金融政策によって適切な市中へのマネー供給量を最初に決めておけばハイパーインフレや悪性インフレは十分に防止できます。財政の方の声が強く、金融政策を無視して貨幣や負債を無秩序に増やしてしまうとひどいインフレを引き起こす可能性が出てきます。

このサイトで政府(市民統治)貨幣 について触れましたが、現在貨幣の発行・供給を民間銀行の信用創造によるものではなく、政府が発行するマネーに転換していくというアイスランドの通貨改革も通貨の発行量決定は政府から独立した通貨発行委員会が決定し、財政とは分離されています。政府は通貨発行委員会が決めた発行量のマネーを配分する権限しかありません。「もっとお金を遣いたいからマネーをどんどん発行せよ」という圧力が通貨発行委員会にかからないようにしないといけないのです。もちろん白川方明日銀総裁みたいな人物が通貨発行委員になったらマネー不足とひどいデフレになってしまうので、国民の信託を受けた内閣がランチルームか体育館裏へ呼び出して通貨発行委員をシバくような仕組みが必要ですが。。。。。

金融政策をマスターとし、財政政策をスレーブにしていくという考えに徹することによって、戦前や戦時中に起きた財政膨張と終戦後の悪性インフレが起きることを回避できるはずです。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet
イメージ 1