新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

財政規律偏重主義と財政規律無視は両方とも極論

ここのサイトで何度となく財務省やその影響を強く受けた政治家、そして御用学者というべき財政規律偏重主義の経済学者・評論家(齋藤誠や小黒一正など)を強く批判してきました。
 弊サイト記事 「リフレーション政策でハイパーインフレ」なんてバカげている

彼らはオオカミ少年のように日本の国家財政危機を煽り、ことさらに増税や歳出削減を訴えてたり、デフレ脱却に必要不可欠な量的金融緩和政策やヘリコプターマネーを頑なに拒み続けています。市中の貨幣供給を増やす必要があるのに「ハイパーインフレになる」とか「国債が暴落する」などといった嘘を繰り返しました。

近年そうした財務省の言いなりになっている政治家や御用学者・マスコミの言うことを信用しなくなった人が増えており、増税や緊縮財政を批判する人がじわじわ増えてきています。数年前のことを思うとずいぶん状況が変わったなと思うのですが、逆に今度はプライマリーバランス黒字化をやめさせよとか、財政赤字をもっと増やして国民の資産を殖やせなど、かなり極端なことを主張する人が目立つようになりました。両者で共通するのはゼロか無限大(∞)のどちらかしかない、あるいは電気のスイッチのON・OFFみたいな感覚でクルマのアクセルを底踏み・ブレーキをドカ踏みするようなパタパタ運転しかできないような人たちだということです。

デフレから穏やかなインフレ(物価上昇)に誘導していくとか、それが起きるまで貨幣の供給を増やしたり、金利を引き下げるといった話がまったく理解できません。物価上昇を目指すとか言ったらジンバブエベネズエラのような状況になるとか、一度量的緩和を始め出したら物価上昇が10%とか20%と際限なく起きるとか、あるいは逆にカネをいくら刷っても、政府貨幣や財政赤字をどんどん増やしてもインフレなんか起きないなどというメチャクチャな発言が飛び出すのです。

こういうことを言う人たちは線引き文化やコミットメント文化が理解できていないのでしょう。最初から自分で明確な数字を打ち出して、そこの基準になったら新たな貨幣の発行や負債の発生を止めるというコミットメント(誓約)をするといったけじめのない人たちです。リフレーション政策は「インフレ率2%」という線引きを最初の時点で打ち出します。物価上昇が2%を達成するまでは緩和を続けるが、もしそれを超えるようなインフレが起きそうであれば緩和を縮小すると誓約してやります。アメリカのバーナンキFRB議長が行った信用緩和のときもそうです。深刻な不況のときは大胆な金融緩和を行いますが、景気が回復したら緩和を縮小しました。アメリカの金融政策はちゃんと雇用や物価などのデータに基づいて政策態度を決定しているのです。

物価上昇が2%になったら緩和を縮小するとコミットメントをしているということは、その目標に近づいてきたとき投資を行う企業や融資を行う銀行が「もうすぐ緩和が縮小するな」「出口戦略を採るだろう」という予想ができるということです。企業や銀行が無茶な投融資を行って信用膨張を起こすようなことを自動的に制止できる仕掛けです。天井知らずで物価上昇なんておきないようにするのも金融政策におけるインフレターゲットの役目です。

一方逆に去年あたりから急増してきたのが、財政赤字をもっと増やして財政政策を拡大せよといった主張です。
自国通貨建ての国債は国民の資産になるのだから、どれだけ増やしても構わないとか、貨幣や国債をどんどん発行して公共事業や社会保障の財源に遣えばいいといった発言をする人が増えてきました。気をつけてほしいのは無制限にそれをやってしまえば悪性インフレを引き起こす可能性があるということです。供給側の能力(潜在GDP)をはるかに上回る貨幣や負債を膨張させればそうなる危険があります。
プライマリーバランス亡国論」を発刊した藤井聡氏や三橋貴明氏、中野剛志氏らでさえも貨幣発行や負債は「インフレを起こさない範囲なら」という主旨の発言をしています。

にも関わらず一部の公共事業拡大推進者やベーシックインカム推進派の人たちの中に貨幣や負債を無制限に発生させても構わないといった主張をする人がいるのです。私自身もベーシックインカム推進派で、増税や緊縮財政に反対する立場ですが、かといって財政規律を完全に無視していいなどということは過去に一度も言ったことはありません。
前回の「金融政策を進めた高橋是清を暗殺した旧軍部による財政膨張 」で、戦前の旧日本軍部が適切な金融・財政政策のかじ取りをしようとしていた高橋是清大蔵大臣を惨殺し、軍部が軍事予算を拡大したいために勝手にどんどん国債の日銀引受や戦時国債の発行を推し進めて、戦後悪性インフレを引き起こしたことを書きました。財政政策が金融政策を無視して前のめりになると財政破綻の危険を生み出すのです

藤井聡氏や三橋貴明氏らについても貨幣発行や赤字国債発行はインフレ率を限界線としてと述べていますが、国土強靭計画を打ち出したときに「年間20兆円で10年間200兆円規模の防災・インフラ整備」と主張しています。この数字の根拠が経済学的にも防災計画的にも不明瞭でした。デフレ状態のときは貨幣の供給が不足しているので金融政策ないしは財政政策でそれを増やすことは当然のことですが、市中で不足しているマネーがいくらなのかを計算した上での200兆円なのか、それとも全国の防災強化が必要なインフレ整備予算を計算しての200兆円なのか疑問です。

ワルラスの法則
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需要と供給
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金融政策や財政政策は潜在GDP(供給力)と実際のGDP(有効需要)の差であるGDPギャップの差を見ながら不足分の有効需要を算出し、金融緩和の実施や財政政策の規模を決めていきます。「公共事業でいくら遣いたいから」とか「社会保障でいくらカネが足りない」「ベーシックインカムで財源が~兆円必要だ」といった財政側の要求で金融政策を決めるなんてありえません。金融政策の判断は財政側の要求に左右されるようなことがあってはならないのです。アイスランドで実施したような通貨改革(カレンシーイノベーション・CI)も同様の原則です。

国債や貨幣をどんどん発行して財政を拡大し、公共事業やら社会保障ベーシックインカムなどの財源を増やしたいという欲求は際限なく膨張します。そうした歯止めを自らかけないまま、それを主張するような人たちがいっぱいいるから齋藤誠や小黒一正みたいに「政府貨幣・ヘリマネ・金融緩和=危険」という人たちもまた消えません。齋藤や小黒は「結局人間なんて自制心がなく、欲を抑えつけられないものだ」と思っているから「カネを増やすな。インフレを起こすな」になってしまうわけです。

~お知らせ~
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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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