新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

日本の経済力を弱めることに加担したのはあなたではないか!

 今回から本格的に「新・暮らしの経済手帖 時評編」の記事をはじめます。もうあまり特定の個人を名指し攻撃するようなことはしたくないのですが、やはり目に余る人はいます。

 

あるとき野口悠紀雄氏が書いた記事に目がとまりました。

gendai.ismedia.jp

 

話の内容はこのままだと日本は経済力で中国に完全に追い超され、中国人が日本へ出稼ぎに行くのではなく、日本人が中国へ出稼ぎに行かねばならなくなるような時代がきてもおかしくないし、経済的にも外交的にも主導権を中国側に握られてしまうような事態がおきてもおかしくないという警鐘であります。

 

氏の記事では日本の観光地が中国人観光客にどんどん踏み込まれてしまったり、中国の富裕層が日本の不動産を買い占められてしまうことや、中国資本が日本国債を大量に購入することで、日本の金融政策が影響を受けたり、株式市場が中国からの投資で動かされるといった例を書いております。

 

率直に言いますと、野口氏が抱いている危惧は私も持ち合わせて、記事で書かれているようなことがおきてもおかしくないと思っています。野口氏の記事には書かれていませんが、日本の企業がどんどん華系資本に買収されてしまい、多くの日本人が中国人の下で働かないといけないような時代が来ることを自分は想像したことがあります。

しかしながら野口悠紀雄氏の記事を全面的に支持するかというと、まったく逆で、読んでいて腹立たしく感じてきたぐらいです。なぜならこれまで氏が行ってきたような論説こそ、日本の産業力衰退を招いてきたからです。

 

氏の発言や文章を読んできた人はご存知かと思われますが、この方は金融政策に冷淡で、製造業を中心に民間企業が設備や人員補強などといった積極投資をすることを阻むようなことばかり言ってきています。アベノミクスで企業の設備投資が伸びたことについても「過剰投資だ」「バブルだ」と評している有様です。

氏に限らず日本人の多くは金融政策とそれによって企業の投資を促すことの重要性を理解していません。雇用の拡大や賃金の上昇も企業が投資意欲を拡大しないと実現しないのです。

 

あと氏のような構造改革派の人や規制緩和・民営化などを主張する立場の人を私は何人も見かけていますが、彼らに知ってほしいことは金融政策の引き締めが新規事業者の参入規制強化に匹敵するものだということです。

それなりの規模の事業を興し、それを拡大するには資本金を確保しないといけないのですが、銀行が新しい起業家への融資を門前払いしてしまうようなことが起きると、新しいビジネスが育つわけがありません。

上念司氏が話していたことですが、ある銀行に自分が興した会社の預金口座の開設を申し込んだら、行員の顔がどんどん曇り、「実績のない企業でないと新規口座の開設は認められません」と断ってきたといいます。これこそまさに銀行による新規事業者の参入規制です。

こんな調子で「新しい産業を育てろ」なんて話をするのは支離滅裂もいいところでしょう。

 

 あと野口氏は高収益のサービス産業を育成せよと言っておきながら、デフレ容認の発言も目立ちます。デフレ状態のとき、ほとんどの消費者は「魅力や品質が多少劣っても価格が低いものを択ばないといけない」という購買行動をとります。デフレ状況で高付加価値型ビジネスを根付かせることは相当困難でしょう。私は野口悠紀雄氏や真壁昭夫氏みたいな人に対し「じゃああなたが新しい会社を興して、高収益をあげて、高報酬・高待遇で従業員をどんどん雇ってくださいな」「世界をあっと驚かすような技術イノベーションを起こしてよ」と悪態を尽きたくなってきます。(一応野口氏は工学部出身の方みたいですが。)

 

野口氏はコラムの最後の方でこんなことを述べています。

”最近、「日本は、がむしゃらに成長しなくてもよいではないか」という意見が聞かれる。「そこそこの豊かさで満足すればよいだろう」、「世界の片隅であっても、静かに、自分たちだけの社会を維持できればよい」という考えだ。

そうした願望を理解できないわけではない。

実際、不動産市場などが撹乱される可能性を考えると、 鎖国して殻に閉じこもりたい気持ちになってしまう。

しかし、現実の国際社会では、そうした願望を実現するのは、不可能だ。

支配されず、撹乱されないために 必要なのは、事態に積極的に立ち向かうことだ。

日本が自立を続けるには、強い経済力を持つほかはない。”

 

 氏のこの発言を読んで「あなたにそれを言う資格があるのか?」と言いたくなってきました。

経済成長を計るには民間企業に研究開発や人材の育成を計るためにどんどんお金を遣わせるように促すべきですが、アベノミクスで企業がそれを活発にはじめたら「過剰投資」などと言い出すのは矛盾しています。氏自身が「日本は、がむしゃらに成長しなくてもよいではないか」「そこそこの豊かさで満足すればよいだろう」と言っている人たちと変わらないのです。

 

市場競争という戦場で闘う民間企業にとって、金融は兵站と同じです。最前線の兵士に兵器や食糧、医薬品などの物資補給をよどみなく行う兵站は非常に重要ですが、企業にとっては資金を常に融通してもらうことが、それに値します。

かつて旧日本軍で悪名高き参謀(惨謀とか無謀と揶揄された)といえばノモンハンの辻正信や、インパール作戦牟田口廉也ですが、彼らも兵站を極端に軽視し、大勢の兵士の命を犠牲にしてきました。辻や牟田口は兵士たちに「大和魂」と言いながら気合と根性だけで勝てなどと言ってきているのです。

 

金融を引き締めたまま、民間企業に「イノベーションだ!」「高収益のビジネスモデルを」などというのは辻や牟田口の「大和魂」と何ら変わりがありません。

 

金融政策は民間企業にとって銃後の護りのようなものです。

 少しでも民間企業が積極的に活動できるよう支援することこそ、日本の経済成長を支える上で重要です。

 

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet
 
イメージ 1