新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

社会保障費だけで見てはいけない厚生費の国民負担

消費税と年金・医療・介護費の話をしていますが、ここ最近目立つのは「社会保険料の負担が重すぎるから消費税で公平に負担させた方がいい」とか「社会保険料を抑えるために公的年金や医療費の歳出を削減せよ」という論調です。これは非常に大きな落とし穴があります。

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その落とし穴とは社会保険制度の財源問題ばかりに目を奪われてしまうことです。こういうと「えっ?」と思うかも知れませんが、社会保障問題は医療や介護、少子高齢化社会問題の一部分にすぎないのです。日本の場合医療サービスや介護サービスなどといった厚生サービスを受ける費用が社会保険や公費によって大部分を負担してもらえるので、社会保障負担=国民が負担する医療や介護費といった感じに捉えてしまいがちです。私は医療や介護費、あるいは老齢および障害年金などの費用をひと括りして厚生費と呼ぶことにしますが、すべての国民が支払う厚生費の総額=国民厚生費とGDPの比率が少子高齢化社会における国民負担を推しはかる最も重視な指標であると考えています。(といいつつ国民厚生費の総額がいくらかというデータが出せなくて申し訳ありませんが、国民医療費対GDP比とかならすぐわかるかと思います。)

最近は現役世代の社会保険料負担を減らすために消費税の増税を認めようじゃないかとか、社会保障費を削るべきだという話をする人が多く目立ちますが、実はこんな議論や主張をしても国民厚生費の負担総額は減ることがないのです。消費税で社会保障費を負担しても結局は消費税の税率が30%以上になるだけのことです。また社会保障費を削っても、自分で老後や万が一のときに備えた貯蓄や民間保険会社の保険料がその分増えるだけのことです。

 

私がいう国民厚生費を簡単に減らすことができるかというと「それはできないだろう」と答えるしかありません。日本人は2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで死亡しているといわれますが、もし自分ががんになったとき、手術や放射線抗がん剤治療を受けずに、疼痛などに苦しめられながら死を受け入れられるかです。あるいは交通事故などで大怪我をしたときに病院で治療を受けず我慢できる人っているのでしょうか?誰しもが「救急車を呼んでくれ!」「助けてくれ!」と思うことでしょう。

 

日本の場合、医療サービスや介護サービスの従事者は激務をこなさないといけないのですが、その割に労働環境や賃金などの待遇がいいとは決していえません。外科医ですと徹夜の当直明けに数時間の手術をしないといけないといったことがあったりします。

社会保障費を削減して、社会保険料や税を下げろという人が多くいますが、今でさえ過酷だといわれている医療や介護の従事者に対する報酬のダンピングができるかというとできないでしょう。 

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自分が良質な医療や介護サービスを受けたいと思うのであれば、その従事者に相応の報酬を支払うのは当然のことです。

あと年金や医療費、介護費などのようにお金の量で表せない国民負担もあります。それは家族などによる看取りや介護の手間です。あとそれによって就労できないことによる所得を得る機会損失もあります。日本の社会保障費対GDP比は約30%ですが、金額で表しにくいコストも含めるとさらに大きな負担割合になることでしょう。

 ある人が一人の現役世代が一人の高齢者と子ども一人を抱えていかねばならない状態だとツイートされていましたが、イメージ的にはそうだと私も思います。

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かなり厳しい状態ですが、若い現役世代がその負担から逃れることは不可能です。社会保険料負担から消費税負担に切り替えても、社会保障費を削りまくっても結果は同じです。とにかく若い人たちは必死に稼がないといけない時代なのです。(竹中平蔵氏みたいなことを言いますが)

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社会保険料の負担から逃れたい。社会保障費なんかどんどん削ってしまえばいいという発想は実に危険です。(ここは竹中氏と正反対だが)医療従事者や介護従事者への報酬を値踏みして、医療や介護現場の崩壊を加速させていった先がどうなることか想像してみてください。

ひょっとしたら大都市に住んでいても、医師や看護師、介護職不足でまともな医療や介護サービスを受けることができなくなるかも知れません。病気やケガ、障碍を負っても満足な手当を受けられないまま、苦しみながら死ぬといったことになってもおかしくないのです。

とにかく私たちは多くの高齢者を支える負担や税の痛みから逃れることはできませんが、それに耐える力を身に着けることはできるかと思います。とにかくいかに厚生費を稼ぐかを必死に考えるべきなのです。

 「 ブラックジャック」よりf:id:metamorphoseofcapitalism:20191001001629p:plain

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