新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

いまはバブルなの?

 

「サプライサイドの壊死」をテーマに何本も記事を書き続けていて、まだその途中ですが、気になった記事とか発言をいくつか目にしたので注意書きを記すことにしました。それはここ最近の株価上昇の動きをみて「バブルだ」と騒ぐ人たちが多いことです。

 

今月2021年2月中旬に日経平均株価が約30年半ぶりに3万円台を回復しました。日本がバブル景気に沸いていた時代であった1990年8月以来のことですが、その時代の株価になったからということで「バブル再来だ」となっているのでしょうか。

 

それと他にも出てきているのが「株価と実体経済の乖離」という発言です。新型コロナウィルス感染拡大によって経済活動が大きく抑制され、企業の業績が伸びていないはずなのに、株価がこれだけ上がってしまうのは不自然だということでしょうか。あとこちらのブログでも説明してきましたように量的金融緩和政策で中央銀行が積み上げた準備預金ですが、その一部が株式市場などに流れて株高になるという現象があります。あと中央銀行ETF(上場投資信託)を買い入れして株価の維持を計ってきました。つまりは政府や中央銀行の金融緩和政策によってもたらされた官製相場で、いびつなものだと思っているのでしょう。

しかし日銀のETF買いといっても昨年3月にETF購入枠を6兆円から12兆円へと拡大しただけです。購入枠は6兆円増加ですが、株式市場全体の時価総額は700兆円もあります。6兆円はその1%にも満たない額であり、風呂桶にバケツ一杯分の水を足した程度の話でしかありません。「大河の一滴」です。

 

いまの株価はそこまで極端なものでしょうか?村上尚己さんが出演されているネット番組「村上尚己のマーケットニュース」でつかわれていた日米の株価推移のグラフをみますと、1980年代のようなバブル状態からほど遠いことに気がつきます。

 

同じく村上さんが書かれた東洋経済の記事も読んでいただきたいのですが、株高になったといっても3年前の2018年1月の株価水準を取り戻しただけという動きでしかありません。

 

アメリカで「ひどいインフレが起きる」は本当か | インフレが日本を救う | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)

 

 

そもそも正常かつ持続的な経済成長を続けていたならば株価もそれに伴って上昇していって当然です。上のアメリカの株式市場のグラフをみるとリーマンショックのときなどで深い谷がいくつか発生していますが、それでもおおまかに見れば右肩あがりで株価が上昇し続けています。日本の場合は1990年代から鍋底みたいな値動きをしていました。これこそが異常です。

 

ここで先に述べた「株価と実体経済の乖離」という違和感について述べておきますと、それを抱く人は現在の経済状況をみてズレていると思っているのです。ここで注意すべきは株価というものは現在(いま)の状況で決まるのではなく、将来の予想と期待で動くものだということが理解できていないのです。コロナ禍によって多くの民間企業が痛めつけられてきましたが、既に新型コロナワクチンの接種が世界各国ではじまっています。アメリカの場合ですと、ジョー・バイデン新大統領が大型の金融財政政策「アメリカンレスキュープラン」を打ち出したことで、経済復興がかなり進むことが予想されます。(かなり進むどころか景気が過熱し過ぎるのではないかということでジャネット・イエレン財務長官とローレンス・サマーズが論争をはじめているぐらいですが)

 

日本においても先日発表された四半期GDP1次速報でも昨年2020年の10-12月期実質成長率が前期比+3.0%(年率+12.7%)と2期連続のプラス成長、消費は前期比+2.2%、設備投資は半導体製造装置、ロボットなど底入れの動きで同+4.5%、輸出も自動車、中国向け電子部品等が好調で同+11.1%でした。次は緊急事態宣言再発令が敷かれますので恐らく数値が悪化するでしょうが、思っているほど悪くはありません。今回のコロナ禍は観光業や飲食業などの対面サービス業がかなり深刻な打撃を受けていますが、それについて政府側の財政支援で需要減を補償されております。さらに企業の休廃業・解散が記録的な低水準で二年ぶりの減少となっています。政府の財政政策がサプライサイドの壊死を最低限に抑え込んだといえましょう。

 

企業の休廃業・解散、全国5万6千件 2年ぶり減少、抑制傾向で推移|TDBのプレスリリース (prtimes.jp)

 

 

モノやサービスの生産を担い、雇用を創出する民間事業者の倒産・廃業を防げば、コロナ感染収束後の経済復興もいち早く進みます。今回の場合は通常の不況とことなり、感染症拡大防止のために経済活動を抑制したり需要が一時的に急減している状態です。感染収束が進めばそうしたネックが解消され、需要の盛り返しが期待されます。

 

株式投資家たちはそこまで先を悲観視していないということになるでしょう。

 

それと昨年書いたことですが、株価というものは実体経済や雇用にも大きな影響を与えます。1990年代にバブルで高騰していた株価や不動産の価格が急落するのですが、そこで企業の財務バランスシートの資産側に含まれる株式や不動産等の資産価値が収縮してしまいます。負債側が大きいのに資産側が一気に萎むことで債務超過に陥ったり、そこまでいかずとも事業のために使う投資がままならなくなり、設備投資や雇用拡大ができなくなってしまいます。結果的にその企業の就労者や関連企業にしわ寄せがいったのです。

 

株価下落とバランスシート不況発生、雇用悪化との関係 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

株価の維持は株式投資を行う資産家だけのためではないのです。雇用を守る上でも重要です。

 

景気過熱の心配なし、資産バブル「見当たらず」=NY連銀総裁 | Reuters

 

引用

一部の専門家は、市場のフロス(細かなバブル)やリスクテークの存続を容認すれば金融システムが危険にさらされると警告しているが、ウィリアムズ氏は、非常に好調な資産価格の背景に「米経済や世界経済が今後力強く回復し拡大するとの投資家の楽観的な見方があり、将来にわたって低金利が続くとの期待も織り込まれている」と分析。資産価格が「暴走」していることを示す「証拠は見当たらない」とした。

そもそも「バブルだ」という人はバブル経済をどう定義づけているのでしょうか?私の目から見たらそれがはっきりとわかりません。

 

私的にいえば資産バブルというのは(実物)財・貨幣・資産(株式や不動産など)市場の超過需要の総和は0(ゼロ)であるというワルラスの法則的にみたとき、資産市場の超過需要が異常に高くなっている、あるいはそれがどんどん進んでいくという予想や期待が暴走した状態だと捉えています。

ついでに言いますとデフレ状態というのは貨幣市場の超過需要がどんどん膨らみ続ける状態で、「お金のバブル」という言い方がされます。モノやサービスといった実物財よりもお金の価値がどんどん重くなっていく状況がデフレです。ハイパーインフレが起きるときは実物財の超過需要が極端に高くなってしまいます。

日本のバブル期においては今ですと信じがたい話ですが、「株式や不動産などの資産価値が下落することはない」などということがいわれていました。つまり「永久に株価や不動産価格が上昇し続ける」という予想や期待が極端に強すぎたのです。アメリカのサブプライム住宅モーゲージも同様でした。

 

現状を見る限り、そうした極端な予想や期待がぶくぶく膨張していくような動きが起きているように私は思えません。

 

「バブルだ」という人々は中央銀行の大規模な(量的)金融緩和政策を有害視する場合が多いのですが、こうした人たちが不安を煽って各国中央銀行が行っている(量的)金融緩和政策の拙速な解除をさせてしまうことの方が大きな経済・金融システムの混乱を招く危険性があります。私はリフレーション政策についても人々の予想や期待が重要であると申し上げてきましたが、予想や期待というものは経済を動かしている人々の心理です。現代の金融財政政策は人々の心理や行動を読み取りながら進める繊細なオペレーションであります。

 

私がこのブログ上で常々申し上げていることは、民間事業者によるモノやサービスの生産活動をしっかり支え、それによる雇用の拡大・維持こそを最優先すべきだというものです。いま政府と中央銀行が担うべきミッションは民間事業者が自立的な経済活動意欲を取り戻すまで、責任をもって金融政策と財政政策によるアシストを行うことであり、その責任を果たすコミットメント(誓約)が必要なのです。

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