新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

お金と負債が異常増殖する信用膨張の問題 (2019/6/30 記事差し替え)

いまわたしたちが遣っている貨幣は負債から生まれているものであり、銀行が実際に持っている分以上のお金を貸し出すことで新しいお金を産み出すことを信用創造ということをお話しました。

前回「ドラえもん」の「未来小切手帳」という回でのび太ドラえもんが渡してくれた未来小切手帳にどんどん金額を書き込めば好きなものが何でも買えることに気づいて、調子に乗って次から次へと高額な買い物をしてしまうという話を引き合いに出しております。ドラえもんがこの小切手帳はのび太が将来得る所得から前借りして、ツケ払いをしていたということです。

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のび太のように無限にお金を殖やして、好きなものを何でも手に入れたいという欲を持った人が、地球上に数多くいます。そういう欲を抑えきれずに信用創造という打ち出の小槌でお金と負債をどんどん増やしてしまえということをやらかしてしまったことが歴史上いくつもあります。それがバブルといわれる現象や最悪の場合ハイパーインフレという問題を引き起こすことになります。

民間の銀行が激甘の与信管理で、信用度が低い借り手にまで乱脈融資を行い、負債や貨幣を膨張させてしまうような状況を信用膨張といいます。これはバブルを引き起こします。中世ヨーロッパですとオランダのチューリップバブルイングランドの南海泡沫事件、フランスのミシピッピ計画などがありますが、近代に入ってからですと、1929年の世界大恐慌前に起きたアメリカの株式投機ブームが有名です。もちろん日本で1980年代に起きた土地と株・証券バブルやアメリカのサブプライム住宅ローンバブルを忘れてはなりません。
こういうものは株式や不動産、あるいは資源といった資産の需要や価値が異常に高騰し、多くの人々がもっとその価格が上がるという予想を描いて、投機行為に走ってしまいます。その投機資産の購入費用を銀行が融資して、金利を稼ぎまくるのですが、このときに銀行が打ち出の小槌のように信用創造を行ってしまいます。

しかしながら貨幣や負債の膨張は民間銀行や投機家たちが引き起こしてしまう資産バブルというかたちの信用膨張だけではありません。国家が国債を濫発したり、通貨発行権を濫用するかたちによる貨幣や負債の膨張もあります。わかりやすい例が戦前の日本で昭和大恐慌の危機を救った高橋是清大蔵大臣が2・26事件で暗殺され、その後大蔵大臣となった馬場鍈一による放漫財政です。
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馬場鍈一

彼は軍部の言いなりになって軍事費をどんどん膨張させていき、その財源を賄うために国債の濫発や増税を行いました。他に最近ですとジンバブエベネズエラのような社会主義国家がありとあらゆる産業を潰し、ろくに外貨を稼ぐこともないまま、財政を肥大化させ、ハイパーインフレを引き起こしてしまったような例もあります。

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民間銀行や投機家たちが引き起こす信用膨張と国家権力が国債の濫発とバラマキで引き起こす財政膨張は、モノやサービスといった実物財の生産量や生産能力から乖離するかたちでマネーや負債が異常増殖する状況です。数量感覚が完全にマヒしてしまった故の惨劇でしょう。あるいは株や不動産、資源といった資産の価値が永久に上がり続けるという将来の予想や期待が無制限に膨らみ続けてしまうというバクが生んだ現象だともいえます。

このような信用膨張や財政膨張による負債や貨幣の異常増殖を防止するために、民間銀行が勝手に信用創造を行ってしまうことを停止させ、政府が恣意や裁量を徹底的に排除し、数量的かつ機械的に貨幣の供給量を統制する方法を提案した経済学者たちがいました。そのひとつが1929年の世界大恐慌後にシカゴ大学の8人の経済学者やアーヴィング・フィッシャーらによって提案されたシカゴプランといわれる銀行改革案です。

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アーヴィング・フィッシャー

この考え方をミルトン・フリードマンが引き継ぎ、100%マネーやk%ルールを提唱していたこともあります。 フィッシャーとフリードマンは両方とも新古典派経済学の代表格といえる経済学者で、政府が民間の自由な経済活動に干渉することをことごとく忌み嫌っていました。フリードマンはコンピュターを活用して貨幣の供給量と物価の統制を計るといいというアイデアを出しています。

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こうしたアイデアに興味を持っていた時期が私にありましたが、現在の経済学者の多くは単純な貨幣数量説を支持しておらず、貨幣の発行・供給量の調整だけで景気や物価の統治をするという手法を採っていません。近年の金融政策は貨幣量ではなく金利(と予想)を重視したものになっています。その理由はフリードマン自身が奨めていた変動相場制の導入です。変動相場制によって輸出入に関わる業者は為替変動に対応すべく、先物取引スワップ取引といったデリバディブ金融商品を使わざる得ません。その結果実物財の取引に遣われるマネーの何倍ものマネーが金融市場に流れることになりました。その結果フリードマンの予想は外れまくることになってしまったのです。

 参考 経済学101様 「クルーグマン vs フリードマン???
 
クルーグマン教授記事引用
「一つ目は金融政策。M2などの貨幣供給量の3%成長について批判したとしよう。これは随分前にほとんど誰からも見向きもされなくなったものであるが、フリードマンはそれでもFRBはマネーサプライをコントロールできるし、マネーサプライのコントロールさえしていれば経済の安定は達成できるのだという観念に強く取り憑かれているだろう。2008年の危機の始まりの時、これは何から何までおかしいように見えた。FRBは広義流動性すらコントロールできずにいた。なぜなら銀行準備を増やしても、ただそこに居座るだけで、貨幣はGDPとの関連をほとんど失っていた。そして振り返ると1930年代に起きたことも同じであり、フリードマンの「FRB大恐慌を簡単に防ぐことができた」という主張は非常に疑わしいものになった。」

残念ながら「100%マネーにすればいい」「信用創造を停止すればいい」といった話で済みそうではないようですね。資産バブルの発生や信用膨張を防止する手はないのでしょうか?

1980年代におきた日本の不動産・株バブルのときは製造業などを営む企業の資金需要が成熟し、日本の銀行は資金の運用先が広がらず、不動産や株などへの投機家に融資するようになっていきます。これが信用膨張の原因となっていきますが、不動産や株財テクに対する融資を制限する総量規制をかけるといった手を打つことができました。当時大蔵官僚だった高橋洋一氏は証券会社が損失補填する財テクを営業自粛(事実上の禁止措置)する省令や総量規制で株バブル・土地バブルを鎮静化させたと説明します。

 参考
 SPA!

あと経済学者のジェームス・トービンが提唱した金融取引によって生じた利益に課税するというトービン税というアイデアもあります。

そして2008年にサブプライムローンショックを発端とする世界金融危機の煽りをくらってアイスランドの銀行が経営危機に陥りますが、このときアイスランド国民や政府が採った行動は銀行とそれを利用していた投機家たちを助けず、デフォルト(債務不履行)させるというものでした。自己責任の態度を貫いたのです。

経済学者の神取道宏先生はゲーム理論の一例で金融危機と銀行破綻処理の例をあげています。

「個別の銀行が破綻しそうなとき、金融システムや経済の安定化のためには政府が経営不安に陥った銀行を公的資金投入により救済する必要がある。しかし、銀行が経営不振に陥る前に政府が「破綻した銀行は救済しない」と宣言しておくことによって、銀行の経営規律が守られ、かえって金融恐慌が起こりにくくなるかもしれない。」

アイスランドが行った金融危機に対する対処は「安全な経営を心掛けない銀行とその預金者は救済しない」という態度を示すことでした。このことでモラルハザードの進行を防止することになります。

そして最後に私は貨幣や負債の膨張を防ぐ上でひとりひとりが次のことを心がけることが重要なのではないかと考えています。

一つ目は常に実物財とマネー・負債のバランスを常に意識し、それを数量的に把握する習慣を身に着けることでしょう。実物財の裏打ちのない株や不動産などの資産バブルは空資本というべきものです。そうしたものの異常膨張が起きたときは手を出さないことでしょう。

二つ目はフリードマンの「ノー・フリーランチ(ただ飯はない)」という言葉を忘れないことです。

三つ目がニコラス・グレゴリー・マンキューの「経済学の10大原理」を読むことです。一部ですがそれを紹介しますと
第1原理が「人々はトレードオフに直面している」
第2原理が「あるものの費用は、それを得るために放棄したものの価値である」
第8原理が「一国の生活水準は、財・サービスの生産能力に依存している」
第9原理が政府が紙幣を印刷しすぎると、物価が上昇する
となります。

マンキューの10大原理のうち、上の4原理を国民ひとりひとりが頭に入れておくことが、信用膨張や財政膨張を防ぐことになります。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

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