新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

深刻化した不況と不発に終わった麻生政権のバラマキ財政出動政策

2008年から2009年にかけて輸出に依存する日本の自動車・電機メーカーがアメリカのサブプライムローンショックによる金融危機と世界同時不況によって深刻な業績不振に陥り、そのしわ寄せが部品を納品していたサプライヤー派遣労働者にいきました。そのため倒産や廃業、失業者が一気に膨れ上がり、日本は重篤な経済危機に陥ります。

ちなみに2008年9月の日銀が示した短観では大企業製造業の業況判断指数がマイナス3だったのが、12月に入るとマイナス24まで急落しています。同年11月の国内新車販売台数は前年同月比27.3%減、12月の工作機械受注に至っては工作機械の受注額はなんと前年同月比で72%減です。GDPについては2009年に前年度比マイナス6%の落ち込みです。これは恐慌といってもいいぐらいのレベルで1990年代のバブル景気崩壊よりも被害が甚大です。それは金融危機を引き起こした震源アメリカよりも大きいものでした。

もうひとつ注意して見ないといけないのは世界同時不況や円高の影響による外需落ち込みだけが、このような恐慌的状況を生んだのではないということです。輸出は20%程度の落ち込みですが、内需は39%とさらに落ちています。国内の企業投資や個人消費が外需以上に冷え込んだのです。

極度にひどい経済悪化の中で2008年9月に福田康夫は第1次安倍政権と同じく僅か1年ほどで政権を投げ出し、その後麻生太郎政権が発足します。景気悪化と同時に自民党の支持もどんどん落ち込み、民主党がじわじわと党勢を強めている中での登板になります。麻生総理が着任後すぐに財政出動を中心とした景気対策をいくつも打ち出しました。

その代表的なものを取り上げますと
 高齢者医療費負担軽減
 中小企業への支援 
 定額給付金支給(1人1万2千円を一回のみ)
 緊急雇用対策事業 離職者への住宅・生活支援
 地方活性化事業
 高速道路料金大幅引き下げ
 家電エコポイント

といったもので総額75兆円規模に及びます。

しかしながら当時のことを思い返すと、麻生政権の経済政策は決して評判のいいものではありませんでした。
定額給付金についてはたった1万2千円という少額を1回のみしか給付しなかったので「低額給付金」と揶揄されました。「こんなスズメの波程度のはした金で消費が回復するのか?」「もらっても貯蓄に回されるだけだ」「国の財政が厳しいときに意味のないバラマキはやめろ」「こんな給付金をやるぐらいだったら本当に困っている人たちのために遣ってほしい」などという非難の声が殺到します。

定額給付金の他にもエコカー減税や家電エコポイントも特定企業や特定業種だけを対象としたバラマキだと批判する声が上がりました。確かに当時自動車や電機メーカーの工場稼働率が極端に低く、製造ラインが遊んで停まっています。これを放置しておくわけにはいきませんでした。しかしながらクルマや高額家電製品をどんどん買い替えることができるのは高所得者です。不公平感を感じやすい財政出動であった上に、補助金が切られるとすぐ需要が落ち込むといった状況でした。

高速道路の料金引き下げですが、これもまたよくわからない政策です。民主党も高速道路無料化を行いましたが、あちこちで渋滞を増やしたり、高速バスやフェリーの事業者が経営を悪化させて路線廃止をしました。それだけではなく会社そのものを廃業させてしまった船舶会社もあります。

75兆円もお金をばらまいている割りには国民にとって有難みが感じにくいものに終わっていますし、経済効果がどれほどあったのか不明です。その後民主党政権時代も含め数年間デフレスパイラル状態に陥っていたことを考えると財政出動の効果はほとんどなかったと見るべきではないでしょうか。

私が思う麻生政権の財政出動の最大の問題点はみんな単年度予算の臨時措置ばかりで、継続性のない単発的な政策しかなかったことです。派遣切りで失業した人たちへの緊急雇用支援対策や住宅支援は当然必要なものだったのですが、これもまた数ヵ月程度の臨時雇用とか手当ばかりです。失業した人にわずかな期間町内パトロールみたいな仕事を与えるけど、数ヵ月経ったらまた無職に逆戻りでは救済になっていないでしょう。
麻生政権の後の民主党政権も含めてですが、何でもいいからただ財政出動をやればいいといった感が否めません。麻生総理らはケインズが言っていたワイズスペンディング(賢い支出)をしきりに強調していたようですが、中長期に渡って持続的に需要を伸ばすような財政出動になっていたとは思えませんでした。

それと麻生政権が犯したもうひとつのミスは増税や財政規律をチラつかせていたことです
定額給付金で1万2千円バラ撒くことは一種の減税なのですが、数年後には消費税を引き上げると言っていたのです。つまり今はちょこっとお金が入っても、後で10倍返し・100倍返しで増税しますよと言っていては消費が伸びるわけがありません。税負担増予想をつくっていたのです。

これは後日リフレーション政策の項でもお話しますが、財政政策と金融政策の両方が単純にごく短期間だけどかんと大盤振る舞いしても効果が出なくなっています。小渕政権と当時の財相であった宮澤喜一氏が大規模な財政出動を行いましたが、ヘドロにコンクリートパイルを打ち込むような状態で終わっています。
つまりはデフレを脱するまで継続的に財政・金融政策を続けると企業や一般消費者に予想させないと効果が出ないのです。ですので第2次以降の安倍政権が行っているアベノミクスでは黒田日銀総裁が「2年度以内に物価上昇2%を目標に金融緩和を行う」「雇用を増やす」とコミットメントをするインフレターゲットを導入したのです。残念ながら麻生政権時代はそのような考え方が導入されていませんでした。
 
この深刻な経済危機で企業や一般個人の多くが「日本はもっとどんどん景気が悪くなる」「需要が落ち込み続けるから投資や雇用をもっと縮小しないと会社が潰れてしまう」「給料がどんどん減り続けるし、いつ会社でクビになるかわからないから消費を控え家計を引き締めないと」などといったデフレ予想を深めていきます。
このような萎縮予想を「自分たちの所得はこれからも伸びるし安定的なものになるだろう」というインフレ予想に転換しないと投資や消費は回復しないのです。麻生政権時代の財政出動75兆円かけても人々の予想を転換させるに至らなかったのです

麻生政権の財政出動が限定的かつ姑息的なものになってしまったのは、財務省が後年になっても大きな歳出が続く恒久措置を嫌ったためだと云われています。非常時の特別措置・臨時予算ということなら75兆円の予算を認めますよという経緯で決められたのでしょう。

これは次回取り上げますが、麻生政権とその閣内にいた与謝野馨財務省・日銀が政府貨幣(ヘリコプターマネー)に反対したことや、金融政策を軽視したことが恐慌脱出に失敗した原因であると私は考えています。

こうしてまた麻生政権も1年ほどで解散総選挙に追い込まれ、民主党に政権を譲り渡すことになります。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

イメージ 1