新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

民主政権末期におきた生活保護バッシングと重税無福祉国家への道

2007年あたりからの深刻な不況と失業急増に見舞われ、大きな批判を受けた自民・公明政権に代わり2009年に登場した民主党政権はわずかな期間のうちに鳩山・菅・野田と3度も総理が交代し、レームダック化しました。民主党は政治主導・脱官僚政治・ムダのない行財政を訴え政権を獲ったにも関わらず、老獪な官僚たちによって骨抜きされ、マニュフェストとは真逆の消費税10%引き上げを言い出し始めます。国民は民主党に対し激しい怒りと失望感を深めていきます。

菅直人が消費税10%の引き上げ発言がもとで参議院選挙で民主党が大敗し、衆参ねじれ状態になったために議席を奪い返した自民・公明と3党合意で政権運営をせざる得なくなりました。官僚色の強い自民総裁・谷垣禎一に引っ張られる形で民主党政権増税・厚生予算削減路線へと突き進みます。おまけに財政規律至上主義者で「死神」というべき与謝野薫まで民主党政権に加わりました。

そうした最中にあった2012年春頃、吉本芸人のK氏の母親が生活保護を不正受給しているというニュースが広まり出しました。(女性ゼブンが第一報) K氏の母親はまだK氏がさほど売れていない時期に病気となり、医師から就労をすべきではないと診断されたために生活保護の支給が開始されたのですが、その後K氏の人気が上昇し所得が大きく伸びています。K氏は都内の高級マンションへと移り住み、高額な時計を購入したり高級クラブでの豪遊をするようにまでなっていたのですが、それでもK氏の母親の生活保護は継続したままでした。(減額はされている) この報道によってK氏は激しい非難の声を浴び、母親に対し支給された生活保護費の一部を返還することになりました。

しかし事件はここで終わりません。これを境にマスコミはK氏以外の生活保護不正受給問題についても猛烈に叩き始めます。自民党片山さつき議員らがこれに乗じました。
吉本芸人K氏やその後報道された生活保護の不正受給の例においてかなり悪質なものがあり、これらの件について厳しく批判することは当然です。不公正な受給があれば生活保護制度や他の一般受給者への不信につながります。不正受給が発覚した場合は厳しい処罰を行わねばなりません。
しかしながらその一方で冷静に当時の日本の生活保護支給状況を調べてみると
1 生活保護の支給費総額は年間3.3兆円
2 うち不正受給は件数が2万5千件ほどで128億7500万円。不正受給率は全体の0.4%ほど。
しかも受給していながら豪邸を建てていたとか、高級車を乗り回していたといった悪質なものではなく、申告用の書類ミスといった程度のもので悪意がさほどないケースが圧倒的に多いという話を聞く。
3 日本のGDP生活保護費が占める比率はわずか0.7%で世界の先進国の中でもかなり低い割合。
4 日本の全人口のうち生活保護受給者の割合は1.4% これもまた世界的にみてかなり低い割合
です。
日本は生活保護の支給額自体は世界的にみて高い方ですが、本来生活保護の支給を認めてもいいぐらいの困窮状態であるにも関わらず措置を認めない漏給問題の方が多いです。生活保護受給申請を行ったにも関わらず、役所からそれを認められず、生活困窮者が餓死したり自殺(場合によっては他殺も)するという事態が何度も発生しました。

話を戻しますが2012年に起きた生活保護バッシングは産経新聞をはじめとする生活保護に関する報道や片山さつきらの発言・行動はかなり執拗なものでした。これによって一般世間の人たちは生活保護受給者の多くが不正行為を行っているかのような印象を持つようになります。さらに片山さつき生活保護受給者の大多数が在日韓国人をはじめとする外国人であるかのような発言まで行い、ネット右翼在特会などの右派系活動家らを扇動しました。私はこの醜悪極まりない行為に反吐が出そうになったぐらいです。

こうした生活保護バッシングの様子をみて直感的に思い浮かべたことは財務省の裏工作ではないかということです。何度かこのブログで説明してきたように霞が関の役人は自分たちの利権(座ぶとん)に結び付きにくい財政支出をことごとく嫌います。ここでこの時期に進められていた財政政策の動きで気になったものをいくつか列挙しておきますと

・「社会保障と税の一体改革」
菅直人政権よりはじまったもので年金をはじめとする社会保障・福祉制度の拡充や安定化のために消費税の引き上げを行い財源の確保を計るというもの。しかし政府は最低保障年金を柱とする年金制度さえ示さず、消費税率引き上げのスケジュールだけを明確化していた。
子ども手当の廃止と児童手当制度の復活
民主党の目玉公約のひとつであった子ども手当が導入からわずか2年で廃止へ。この制度導入によって年少扶養控除が廃止されたものの、復活しないまま元の所得制限つきの児童手当制度に逆行。結果的に対象者は旧児童手当時代より増税に。
・国土強靭化計画の立案
藤井聡氏らが10年間に200兆円もの防災強化を目的とした土木公共事業の推進を提言。年間20兆円ほどの財政出動

があります。

いちばん下の国土強靭化計画と生活保護バッシングが直接的に結びついているという証拠はありません。しかしながら社会保障と税の一体改革や子ども手当廃止は明らかに財務省増税工作と社会保障削減の動きだと断じていいでしょう。生活保護バッシングもそれと連動して起きたとみなしていいかと思います。
財務省は子飼いである国税庁などから多くの政治家や企業等のカネの動きに関する情報を握っています。吉本芸人のK氏の身辺情報についても税務署や母親の生活保護を支給していた自治体などに問い合わせて把握していたのかも知れません。それをタイミングを見計らって財務省がマスコミにリークしたという流れが浮かんできます。

この騒動で「生活保護けしからん」「生活保護を廃止しろ」という世論が高まり、自民党は「生活保護に関するプロジェクトチーム」を設置して(1)給付水準の10%引き下げ(2)食費や住宅扶助の現物支給(3)自立促進・就労支援(4)過剰診療防止による医療費扶助抑制(5)自治体の調査権限強化を提言してきました。

この流れのおぞましさはただ生活保護受給者を狙い撃ちしているだけではなく、多くの国民が当たり前のように享受している社会保障や福祉サービス・医療などを徹底的に削減していこうとする動きが潜んでいることです。表向きは「もっと社会保障を拡充しますから」と言いながら消費税をどんどん引き上げていきながら「国家財政が破綻する」と脅しをかけ、社会保障や福祉サービス・医療水準を引き下げていくという国家的詐欺行為といえましょう。私はこれを「重税無福祉国家」と名付けています。「やらずぼったくり」行財政です。

前回書いたように民主党政権の甘さに官僚たちはつけ入り、国家予算の歳出を80兆円から90兆円に膨張させました。シロアリ官僚らによる放漫財政を放置しておきながら増税や厚生予算の圧縮を国民に押し付けようとしています。

 「国民の血税は官僚(オレ)たちのもの 放漫財政のツケは国民の負担」

と言わんばかりです。

当時生活保護受給者が増えてしまった元凶は深刻なデフレ不況にあります。
白川方明日銀総裁は金融緩和を渋り続け、日本企業の業績はひどく低迷し続けました。当然雇用情勢は最悪で無・低所得者を増やし続けます。政府・日銀は金融引き締めで国民や企業をブン殴り、倒れたところを社会保障・福祉の削減という形でねじ踏みするという行財政を行いました。クルマで一度はねた人を二度轢きして殺すような行いです。

「てめえらの血は何色じゃあ!」

と言いたくなるほど極悪非情なサイコパスっぷりでしょう
金融政策と財政政策のネグレイトといってもいいです。
イメージ 1

イメージ 2

2009年に多くの国民が自民・公明を捨て、民主党に投票して政権を任せたのは、社会不遇者にやさしい政治にしてくれるかも知れないというかすかな期待からでしょう。民主党社会保障や福祉の拡充や(再)分配政策をしっかりやってほしかったから投票したという人は少なくないかと思われます。しかしこの党はその期待をものの見事裏切り、自民・公明以上のシバキ行財政を突き進めました。こうした謀略を仕掛けた張本人は財務省であり実行犯は自民党の谷垣らですが、民主党は生活者のための党ではないことを思い知らされました。
民主党は右派だけではなく、左派からも憎まれる政党になったのです。

2012年末に野田佳彦総理は何を勘違いしたのか消費税10%引き上げに政治生命を賭けるとか言い出して自爆テロ解散をやらかして、民主党政権に終止符を打ってしまいます。そのとき有権者は自民の麻生太郎政権を倒閣させたとき以上の激しい怒りで民主党候補やその片割れである日本未来の党などの議員を叩きのめしました。殺意すら感じたほどです。

1990年代初頭の日銀三重野総裁がやらかした金融引き締めから日本は「失われた20年」といわれる異常なデフレ状態に突入したのですが、民主党政権はそれを完全にこじらせる結果に終わりました。第2次安倍政権のアベノミクス始動まで20年も日本は転がり続けたのです。

次回はリフレーション政策への期待とその導入に向けた運動についてです。




~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

イメージ 1