信用創造と融資・投資の活発化を計るリフレーション政策
本格的にリフレーション政策の話をする前に、貨幣がどのような形で生まれ市中へ供給されていくのか、おさらいしておく必要があります。そうしないとリフレーション政策の手段のひとつである金融緩和政策の意味や国債の日銀買受などの意味が理解できなくなります。
「必読!お金が発生する仕組み 」編の「どうして借金からお金が生まれる制度ができてしまったのか?」で書いたように今わたしたちが普段遣っている紙幣は企業や個人などが民間の市中銀行から融資を受けたときに生まれ、供給されています。民間銀行は自らが保有している現金以上のマネーを生み出し、その資金を企業などに融資していくことを信用創造といいます。信用創造で生み出されたマネーが信用貨幣です。
フリードマンもマネーの発生について「銀行の書記のペンから預金が産まれる」と述べていました。
日銀が発行した日本銀行券は日銀内にある民間銀行用の当座預金に積まれます。これの残高をマネタリーベースといいます。民間銀行が企業や個人に融資したときにはじめて日本銀行券が日銀内の当座預金からおろされ、市中へ供給されることになります。銀行が企業や個人に融資をせず、また企業がそれによって得た資金を遣って投資しないと世の中全体にお金が回らなくなります。
民間銀行が経営危機に陥ったり、民間企業から融資の貸し剥がしや貸し渋りをやらかすと、企業は資金繰りできず操業を停止させられることになります。あちこちの銀行が企業に融資できなくなり、たくさん会社を倒産させてしまう現象が恐慌です。また逆に企業が銀行からお金を借りずに投資を躊躇っていると民間銀行の信用創造が停まってお金が市中へ出回らなくなります。1990年代初頭に日銀の三重野康総裁が「平成の鬼平」と祭り上げられバブル退治と称して金利を思いきり引き上げてしまいました。
参考 幣サイト「”平成の鬼平”が引き金となった失われた20年 」
そのおかげで企業の投資は一気に委縮し、おまけに民間銀行は企業から融資をどんどん引き上げます。「銀行は晴れの日に傘を差しだし、雨の日の取り上げる」と言われたものです。
こんな調子で1990年代からずっと20年間に渡って日本は投資や融資が委縮したままになり、生産活動が停滞して、一般生活者にもお金が全然回らなくなってしまいました。民間銀行の融資先が企業ではなくお役所相手になってしまい、国家財政の累積債務がどんどん膨張していきます。これが民主党政権崩壊まで続きました。下の図を見ているとこの国は社会主義国か?と言いたくなってきます。
さらに1997年に橋本龍太郎政権が消費税率7%への引き上げと緊縮財政を行います。同時期に民間企業も雇用者の賃下げや非正規雇用拡大を進め始め、労働者の所得減少と不安定化を招きました。それが消費活動の萎縮を引き起こし、慢性的な物価下落=デフレスパイラルへとつながります。
物価の連続的な下落は企業の投資をさらに萎縮させ、お金も持っているだけでモノやサービスなどの財と交換できる価値がどんどん肥大化していくために遣われずに貯蓄されてしまいます。これが流動性の罠に陥った元凶です。
参考記事 幣サイト 「なぜリフレーション政策が求められたのか? その2 流動性の罠脱出の切り札」
投資や消費活動が停滞し貨幣の回転が鈍くなってしまうと、人々は簡単にお金を手にすることができなくなっていきます。そうなるとお金に希少価値がついてしまいますので人々は必死にお金にしがみつき、一度手にしたお金を手放そうとしません。「金は死ぬ気でつかめ! つかんだら殺されても放すな」状態です。そうなるとますますお金が投資や消費に遣われないために市中での回転速度がさらに下がります。
政府や日銀が一生懸命お金を市中へ供給したいと思っていても、銀行がそのお金を貸し出さなかったり、企業がその資金を遣って投資しないから日銀内の民間銀行用当座預金にお金がブタ積みされてしまうだけ。
また今市中に供給されたマネーも投資や消費に向かわずに貯蓄として死蔵されるだけ。
この状態から脱するには企業に投資をうんと頑張ってお金をもっと稼いだ方が得。銀行も企業や個人にどんどん融資した方が得だと思わせる必要があります。そこで用いられるのがインフレ予想とコミットメントです。
デフレで物価が下落し続けているときは
となってしまい、実質金利が高くなります。それによって金利よりう高い収益率を得られない事業や投資はどんどん中止されてしまうという話は既に「なぜリフレーション政策が求められたのか? その2 流動性の罠脱出の切り札」でしました。
逆に物価上昇を起こせば
となって実質金利が下がり、企業は投資や雇用を積極的に進めやすくなります。
そのために現在の日銀総裁である黒田東彦総裁は「2年を目途に物価上昇2%を目指す」と誓約したのです。インフレターゲットです。現在日銀の副総裁となられた岩田規久男先生が「リフレはコミットメント」と仰っています。サブプライムローンの焦げ付きによるアメリカの金融危機を乗り越えたベン・バーナンキFRB議長も予想の重要性を説いています。
~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。