新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

国よる再分配は質量保存の法則と同じ

今回は非常に嫌な話をします。多くの人たちが国の再分配政策や財政政策に対し膨らませている期待や願望を潰す内容です。結論を先に言えば国は国民から税として預かった額を超える財を再分配することはできません。その理由は国は基本的に自らモノやサービスといった財を生産しないからです。それは前回の記事でも述べています。


国が国債を発行し、日銀にそれを買い取ってもらって現金化するといった財政ファイナンスや政府貨幣発行という手法で国はお金の量を自由に増やすことはできます。しかしそれに伴って即時的にモノやサービスといった財が殖えるわけではありません。
建設国債を発行して土木公共事業を進めるときもそうです。建設会社やその従事者、コンクリートや鉄鋼などの資材メーカー・建機メーカーにお金が回り、新たな公共財が生まれます。しかし国自らがその公共財を生産したわけではありません。民間に委託して生産しています。国は財を生産しませんから誰かが生産した別の財を公共財の建設従事者に報酬として再分配させることしかできません。

上の図でキツネが果物屋さんから果物を分けてもらえるという約束をして、その証書としてキツネがくだもの券を発行し、キツネの家を直したタヌキにそれを報酬として渡している様子を示しました。キツネが国で、果物屋さんが民間、タヌキが建設会社だと思って見てみてください。
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キツネが果物屋さんから果物を分けてもらう約束、国と民間になぞらえれば徴税権がないにも関わらず、勝手にくだもの券を発行したり、果物屋にある商品の量以上のくだもの券を濫発してしまうと、そのくだもの券(貨幣)は果物と交換してもらえるという効力を失います。これがハイパーインフレにつながります。
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民間が生産した財の裏付けがないと貨幣は価値を持ちません。

さてここからさらにもっと嫌な話をしましょう。みなさんがとてもとても大嫌いな竹中平蔵氏のご発言ですw
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90歳、100歳まで生きたいんだったら、自分で貯めておく。それがイヤで、国に面倒をみて欲しいんだったら、スウェーデンみたいに若い時に自分の稼ぎの3分の2を国に渡すことですみんなの介護 賢人論)より

中村淳彦氏が「読みたくもない」とツイートしておりました。

しかし竹中氏の言っていることはまったく正論中の正論です。

竹中氏は自分の「意見」を述べていません。原理原則に従ってものを言っているだけです。
竹中氏を「新自由主義者ネオリベ)めー」「緊縮財政派めー」「アメリカの手先めー」と罵ってもひっくり返せません。私の「意見」や「感想」をいえば中村氏同様に竹中氏の言うことなんか聞きたくもありませんが、「意見」や「感想」で変えられないのが現実や理論であり、経済です。

民進党前原誠司や慶応大学の財政学者・井手英策教授が「All for All」とか「痛み分け」といって再分配政策を主張したことがあります。藤田孝典氏も同様です。しかしながら再分配で国民全体の財が増えることはありません。国が国民から徴収した財の額を超える再分配は基本的に不可能です。物理の質量保存の法則と同じです。
国民全員が持つ財の量は再分配が行わる前と後で変わりません。
財の生産がどんどん落ち込んでいくとやがて社会保障・医療・福祉などの厚生予算が確保できなくなります。現役世代の所得の大半を国に渡さないと社会保障や福祉サービスが維持できなくなるでしょう。消費税を30%とか40%。あるいは朝から深夜まで働いても税や社会保険料を天引きされた手取りが十数万円程度なんてことになっていきます。多くの人が勤労意欲を無くすことになるかと思いますし、消費も落ち込んでいくことになりそうです。

現役世代の税や社会保険料の負担を軽くするけれども、老後の貯えは自助努力で行う低負担・低福祉か、
日本のように中負担・中福祉で行くか
北欧のように税や社会保障の重い負担を覚悟して、手厚い社会保障手当・福祉をもらえるようにするか
のいずれかです。

このような文を読んでいたら頭がクラクラしてくるかと思います。
ですので少しでも希望が持てそうな話をさせていただきましょう。

少子高齢化社会で現役世代の負担自体を軽くすることはできません。しかし技術の高度化によって製造業などの分野でしたら一人当たりの生産効率や稼ぎをぐんぐん上昇させることが可能かと思われます。少ない労力・少ない時間で多くの財がもっと効率よく生産できるでしょう。生産効率や利益率が高い産業分野から介護・福祉の分野へ財の再分配をするという考えなら成り立ちます。この考えならば少ない現役世代の数でも必要な財を十分に確保し、多くの高齢者を支えることもできるかと考えられます。もう一度言いますが分配する財を殖やすのは民間でしかできないことです。国ではありません。
現役世代の負担自体を軽くするというよりも、支えられる力をつけていき痛税感を和らげることを考えていくべきかも知れません。

*「政府支出乗数を考慮していないじゃないか!」と思われる方がいるかも知れません。
 今回の記事は財と貨幣のバランスについてが主題の話です。
 こちらの記事「財政政策と乗数理論について」で乗数効果のことを書いておきました。

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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