新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

政府貨幣も例外ではないすべての貨幣に付き纏う膨張のリスク

世界大恐慌後にシカゴ大学の経済学者が中心となって練られたシカゴプランは民間銀行の信用創造の停止と100%マネー化を行い貨幣の発行権を政府に限定するというものでした。それは恐慌前の株投機ブームに銀行がのっかり異常な信用膨張によってモノやサービス・労働などの裏付けがないままマネーや負債を無制限に殖やし続けてしまったことの反省から生み出されたものでした。お金の発行権限を政府に限定して一元管理し、銀行や投機家たちがカネからカネを生むというデタラメな行為を完全にできないようにする仕組みです。

ますます脳化し続けるお金 ~その3 変わっているようで変わっていない記号というお金の本質 」という記事でも書いたことですが、お金というものは元々”ことば”や”記号”と同じで人間の脳=”あたま”が創り出した偶像に過ぎません。ありとあらゆる”もの・こと(サービス)”の価値をお金という偶像になぞらえているだけです。その”もの・こと”が”からだ”に当たります。養老孟司さんみたいな話ですがお金はどんどん”もの・こと”からかけ離れて暴走してしまいがちな存在です。つまりは頭でっかちになりやすいということです。
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先日発生したビットコイン問題についてもそうです。もともとビットコインは電子媒体の中にある記録や信号に過ぎないものです。それが勝手に独り歩きして投機行為に使われて大きな騒動を引き起こしました。ビットコインはある意味最も純粋化されたマネーだと云えます。

金融政策とは何かといったら”お金”と”もの・こと”、”あたま”と”からだ”のつり合いをとることです。お金が貨幣市場でモノ・サービスが財市場ですが、その二者がちゃんと同調するようにしてやらないとデフレやその逆のひどいインフレが発生してわたしたちの生活を破壊してしまいます。

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シカゴプランのように信用創造停止や100%マネー化で銀行が勝手にお金や負債をどんどん膨らませることをやめさせてしまえば資産バブルやその後に発生する恐慌を防止できると考えたものが政府貨幣への転換構想になります。この通貨発行供給管理制度によって銀行の暴走は防止できるでしょう。

しかしながら政府貨幣への転換が貨幣や負債の膨張と破裂の可能性を無くすことにはならないということに気がつかねばなりません。逆に政府の暴走で貨幣や負債の膨張と破裂を引き起こすリスクを生みます。貨幣をすべて信用貨幣から政府貨幣へと転換し、政府がその統治をする場合は恣意や裁量主義を徹底して排除しなければなりません。フィッシャーのような新古典派の経済学者は恣意主義や裁量主義を嫌う考えです。フィッシャーでなくてもそれが貨幣の統治に混じり込むとやはりバブルや恐慌・ハイパーインフレを引き起こすことになるということは容易に想像できます。(だからと言って政府貨幣をやめるべきだと主張するわけではない)

政府側の暴走で貨幣や負債の膨張を招いた悪例のひとつが戦前・戦中に日本の軍部がやらかした軍事予算の膨張と終戦後の物資難・過大インフレです。皇道派将校が2・26事件で高橋是清大蔵大臣を惨殺した後、軍部が暴走し労働力や物資などの供給力を無視して戦時国債軍票を濫発し放漫財政へと突っ走ります。連合国側による経済封鎖によって日本は海外から資源を調達することができなくなり、さらに徴兵で労働力が奪われたり、アメリカからの空襲で生産設備が破壊されたことによってどんどん供給側が縮小します。一方軍部は湯水のように戦費を遣い、人や物資を消耗させ続けます。結果的に極度の財不足と貨幣ならびに負債の山を築くことになってしまったのです。終戦後戦時国債軍票などがすべて紙屑になりました。国家がつくったバブルとその崩壊です。
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信用貨幣では銀行が貨幣や負債の膨張をさせる可能性
政府貨幣では政府が貨幣や負債を膨張させる可能性
潜んでいます。

銀行か政府かの違いでどちらも貨幣や負債の膨張というリスクを背負っていることには違いありません。
大事なことはどちらの貨幣制度でもモノやサービスなどといった財市場と乖離した貨幣・負債の膨張を防ぐルールが必要だということです。
信用貨幣であれ政府貨幣であれ、政府ないしは中央銀行経済理論や数量に基づき、裁量ではなくルールによる通貨管理を行わねばなりません

前回の記事で非常に簡素ながら、フィッシャーの交換方程式とワルラスの法則を並べて紹介しておきました。

フィッシャー交換方程式
MV=PT
M:貨幣量×V:貨幣の流通速度=P:物価×T:財・サービスの取引量

ワルラスの法則

「モノやサービスなどの)財部門」と「貨幣部門」「資産部門」の超過需要の総和=0

貨幣の数量管理はこの2式が基礎となるでしょう。

ただし日本のように20年間もデフレを続けてしまったような国は流動性の罠に陥って貨幣の供給を思い切り増やしても貯蓄として死蔵されてしまう場合があります。流動性の罠流動性選好仮説はフィッシャーとは逆の立場のケインズが指摘していたことですが、フィッシャー交換方程式で見るとV=貨幣の流通速度が極度に低いという形で現れるかと思われます。ですので年間何百兆円マネーを増やせば何%物価上昇するといった単純な法則で貨幣の統治ができることはないでしょう。失業率と物価についてですが雇用の回復が進みほぼ完全雇用を達したところで物価が急上昇すると云われています。マネーサプライと物価の動きは単純に比例して動くのではなく、物価が遅れて上昇するといった可能性があるのです。

とはいえ近年はAI(人工知能)の発達によって金融政策の決定をそれに任せるといったことが可能になっているという識者がいます。フリードマンも生前コンピューターでマネーの供給管理をすればいいというような発言をしていたといわれます。

適切な通貨供給量を決める計算式やそれを行う人工知能が開発されれば、おかしな政治家や無能な中央銀行総裁の恣意や裁量に振り回されない公正な金融政策が実現できることでしょう。政府貨幣への転換という話はそれができてからです。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet
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