新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

生活保護の現物支給化・収容主義化はナンセンス

長く続けた生活保護の話はあともう少しだけです。今回は「誤解と偏見だらけの生活保護問題 」や「かなり湾曲されて伝えられている生活保護不正受給の実態 」で書いた2012年の激しい生活保護バッシングのときに多く出てきた保護費の現物支給化や保護利用者を収容すればいいなどという発想についての批判です。

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この当時片山さつき議員やネトウヨと呼ばれるネット内の右派アカウントならびに在特会といった極右活動家たちが、生活保護について多くのデマを流し、利用者に対する誤解と偏見を深めました。私の周りでも当時「生活保護なんか廃止してしまえばいいのに」といった発言や「現金支給をやめて食券とかを配給する形にしたらいいのに」「生活保護受給者を収容施設に押しこんでおけばいいのに」と言った声が出て、陰鬱な気分になりました。

そんな状況をみて私はこんな生活保護バッシングなんかやっても、自分たちの所得や社会保障給付が増え、税金負担が減るわけがないのにと心の底で思っていたものです。一時的にスッキリしたいために誰かをサンドバック的に叩いたところで何の意味があるのでしょうか?何の得にもならない行為です。

ここで頭を冷やして考えていただきたいのは、生活保護を現金支給からフードクーポンみたいなものに切り替えたり、衣服などを現物支給化することが果たして保護費の抑制につながるのかということです。考えていることは戦時中の日本や旧ソ連などの社会主義国配給制と同じ発想です。

生活保護の現物支給化という発想の背景には多くの勤労者が支払った税金から賄われている保護費が、パチンコや競馬などのギャンブルや酒などの購入費になってしまうことはけしからんという気持ちからでしょう。生活保護利用者の中にギャンブルやアルコール依存症患者が少なからず含まれていることは確かですが、それは治療の問題です。生活保護利用者全員がギャンブルやアルコール依存症患者であるように捉え、そう扱ってしまうのは明らかに単純化・画一化した見方としかいいようがありません。
生活保護の利用者であれ、どのようなものを選んで購入し、使用しようが、基本的に国や役所、他者が干渉する行為は許されません。そういう干渉行為はまさに官憲主義であり、社会主義的なもので、自由主義リベラリズム)の精神に反します。犯罪などの反社会行為でない限り、基本的に他者や国家が個人の生活に立ち入り、経済的自由を奪う権限はないのです。

現金支給から現物支給に切り替えることが、逆に給付の非合理化を招く可能性が高いです。例えば食料品なんかですと食物アレルギーを持った人はどうなるのかという問題があります。人は無意識のうちに用途にいちばん合って、最もコストバリューの高い、最適な商品を選ぶよう行動します。何が最適なのかの判断が役人や他人にできるでしょうか?子どもの衣服なども成長によってサイズが合わなくなってくることが多いです。官給品がそういうことに対応できるでしょうか?

話が脱線しますが、自分の父親は戦前生まれで軍隊に徴兵された経験を持っています。軍服や軍靴は天皇陛下から下賜されたものということになっていましたが、サイズをわけるといったことはなく、上官から「靴に自分の足に合わせろ!」と無茶苦茶なことを言われたそうです。生活保護の現物支給化という話を聞くとそれを思い出します。

実状に合わない官給品は結果的に使い物にならず、ムダなものとなるだけです。非常に馬鹿馬鹿しい話ですし、配給品の製造や納品に携わる出入り業者が役人と結託して不当利益を得るといった可能性も出てきます。

あと現物支給ではないのですが、ある地方自治体で一度生活保護費のプリペイドカード支給を試行したことがあったものの見事導入に失敗しました。カードの利用世帯はごく僅かで全然普及しなかったのです。この市で生活保護の業務に携わる福祉事務所のケースワーカーからも「説明に手間がかかって業務の煩雑化を招いた」と言われ総スカンでした。
日本の場合、電子取引が普及しておらず現金主義が主流になっています。電子カードの取り扱いを行う店も決して多くはありません。使い物にならなかったということでしょう。こうしたアイデアは自分も以前述べたことがあったのですが、時期早々であったと言えるかも知れません。

次に生活保護利用者を施設に収容すればいいという発想ですが、これも実行したらとんでもないことになりそうです。もしある収容施設に元暴力団関係者とか元服役囚が入所してきたとしましょう。その収容者が牢名主みたいになり、収容施設がどっかの組事務所みたいなことになりかねません。気の弱そうな人や知的障がいを持った入所者が元ヤクザや元懲役のパシリにされたり、あるいは薬物が施設内全体に拡がるなど、施設内犯罪が多数発生する恐れがあるでしょう。当然収容者同士の喧嘩も絶えないと思います。元警察OBか元刑務官OBが職員でないといけないでしょう。
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3年B組金八先生」で出てきた「腐ったミカンの方程式」みたいなことになりかねません。

生活保護利用者収容施設の運営は昨今の流れですと、完全公営ではなくNPO団体などに丸投げする格好ではないでしょうか。ここで天下り利権が発生したり、悪質な団体が行政と癒着して、保護利用者から搾取的行為を行うといった問題を引き起こす可能性があります。官製貧困ビジネスを生みかねません。というか実際に起きています。


 日刊SPA

 貧乏かわせみ様

上の3つの記事は「囲い屋」と言われるもので、街中で生活に困窮していそうな者を見つけて、「個室寮完備」「3食付」「日払い相談可」という誘い込みで施設に入所させます。入所したらすぐ生活保護の利用手続きをとらされます。「簡単にもらえない生活保護 ~保護利用を妨害する水際作戦と硫黄島作戦~ 」で述べたように個人で役所に生活保護申請を行っても簡単に受理されないのですが、囲い屋を通すとすんなり保護利用申請が通ります。
生活保護の給付が決定すると、保護費は全額施設に徴収され、インスタントラーメンやレトルト食品などの粗末な食事だけ与えられ過ごすことになります。冷暖房の使用は限られ、風呂も週3日程度しか入れません。

そういうひどい環境でも、何もせず大人しく過ごしていれば入所者の最低限の衣食住は守られているので、囲い屋から抜け出し、再就職して自立した生活を取り戻すという意欲がどんどん消失していきます。結果的に囲い屋は公助にずっとしがみついてしまう人間を殖やし続けることになります。

福祉事務所のケースワーカーもまたこうした実態を見て見ぬふりをして、利用してきた面があります。ケースワーカーは一人で100世帯以上も受け持たねばならず、一人一人懇切丁寧に生活相談や支援、指導をしている暇がありません。悪質な施設でも預け入れてしまえば業務負担が減ります。
同じく生活保護利用者を長期間入院させてくれる行路病院も忙殺されるケースワーカーにとって便利な存在といえましょう。


今回自分が生活保護問題を追って非常に腹立たしく、馬鹿馬鹿しく思えたのは、国民も行政も一般利用者がうっかりやってしまった100円単位の所得申告ミスを含めた不正受給に目くじらを立てているのに、上で述べた囲い屋や行路病院による何千万円~数億円以上の不正・収奪行為を野放しにしてきたことです。生活保護に限らず日本の社会保障給付費の多くが悪徳業者・団体および天下り役人らにレントシーキングされてしまっている恐れがあります。

我々の血税がほんとうに有効に活用されているのかどうか、納税者が監視することは当然なのですが、その監視の目が肝心なところに向いていないのを憂うばかりです。

次回はマクロ経済政策と生活保護についてです。


こちらでも政治等に関する記事を書いています。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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