「ベーシックインカム構想 」編の記事ですが、今回もジャスティス(justice)についてとそれを求める人が抱えねばならないリスクについて掘り下げてみたいです。justiceは日本で”正義”と訳されることが多いですが、本来は”公正”や”適正”という意味のようです。ここでは両者について取り上げます。
前回話したことですが、世の中の組織すべてが公正に運営されているとは限りません。非常に理不尽な人事評価や利益分配がまかりとおっており、組織のトップや幹部が独裁体制を敷いて、多くの人が生み出した利益を独占しているといったことが多く見られます。中には組織ぐるみで反社会的な活動を行っていることもあるでしょう。そうした組織の場合、大きな貢献をしてきた人が組織内で冷遇されたり、追放されてしまうような事例が山ほどあります。国家レベルですと北朝鮮や中国共産党などがそうでしょう。人民からの財の収奪や賄賂の横行といった政治腐敗だけではなく、抵抗者を残虐極まりない方法で処刑にしてしまうという非人道的な蛮行が繰り広げられています。
このように不公正で非人道的な組織は癌細胞と同じで、多くの人々を絶望的状況に追い込み、疲弊させていきます。やがて社会全体において生産意欲を消失させ、最終的に国や社会という宿主を死に至らしめることになります。それが大多数の人に理解されていても、それを止めることは非常に難しいものです。なぜならそうした正義の行動をとる人は自分がこれまで得てきた所得や資産のみならず、最悪命まで奪われかねません。ミクロ的観点でみたとき、正義の行動はその人にとって経済的に得ではなく、大きな損になる危険性が高いのです。
時事的な話になりますが、秋元康氏がプロデュースするアイドルグループAKB48の姉妹ユニットで新潟を拠点に活動しているNGT48内で所属メンバーであった山口真帆さんが、自宅マンション近くで悪質なファンから襲撃を受けるという事件が発生します。この犯人はアイドルハンター・Z会というグループを組み、日頃から本来禁止されているはずのメンバーとの私的接触を求め、その”つながり”で得た他メンバーの住居などの個人情報を別のファンや雑誌社などに転売するなどといった行為を行っていました。彼らはメンバーが住むマンションの部屋の隣や向かい部屋に住居を構え、恋愛関係を求めるといったストーカー行為のみならず、入手困難なチケットの高額転売を行なったり、NGTのライブ中に最前列の席で飛び跳ねるなどといった迷惑行為を行う常習犯で”厄介”として他のファンからも疎まれております。彼らはNGTで出入り禁止処分を受けていたのですが、今村悦郎支配人と癒着しており、出入り禁止解除をしてもらっていました。
さらにNGTのメンバーの一部は彼らと深い男女関係を持つようになり、そうした乱れた行為を快く思わなかった山口さんに対して陰湿な嫌がらせ行為を続けます。挙句にメンバーの一人がZ会に山口さんの自宅や帰宅時間を彼らに漏らして暴行を唆します。今村支配人は暴行被害者である山口さんを保護するどころか、悪質ファンと彼らと私的交際を続けるメンバーを庇い、逆に山口さんにファンの面前で謝罪をさせるといった理不尽な仕打ちをしました。そしてとうとうNGTは山口さんと彼女を慕う二人のメンバーとともに卒業という形で追放するのです。
山口さんは腐敗した組織の内情を外へ知らしめた内部告発者なのですが、そうした人の多くは自ら犠牲になることを覚悟の上で行動せざる得ません。すでに山口さんはNGTやAKSとそれに乗るマスコミが流した虚報によってメンタルに問題があるだの、会社を攻撃している加害者であるといった汚名を被されたりしていますが、そればかりではなく、今後の活躍の場を狭められるといった不利益を被る可能性があります。内部告発はこれまで得てきた所得獲得手段や財産、名誉などすべてを失う覚悟を持たないとできないことです。
内部告発者といえば何年も前の話になりますが、民主党の菅直人政権時代に起きた尖閣諸島不審漁船襲撃事件のあと、その様子を撮影した動画記録を”sengoku38”の名でネット上に公表した海上保安庁の職員・一色正春氏のことを思い出します。この襲撃事件で海上保安庁が逮捕した漁船の中国人乗組員(といっても民兵)を沖縄地検は釈放してしまうのですが、これは中国側の恫喝に慌てふためいた菅直人や仙谷由人らが沖縄地検に”超法規措置”として釈放せよいう政治的圧力をかけてさせたからだと云われています。
海上保安庁が襲撃されたときの状況を撮影した動画を早い時点で公表していれば中国側の非を明らかに証明することができたのですが、菅直人政権はそれをしませんでした。そんなときに一色氏がネットを通して問題の動画を公表したのです。氏のおかげで、民主党政権が真相を闇に葬ってしまうことを防ぐことができました。
一色氏は真の国士として賞賛すべきです。
「勇気ある内部告発者とは前川元次官ではなく一色正春氏のことだ」 --- 山田 高明
一色氏はこの動画を公開したことを自ら名乗り出たとき
「自分としてやらなければいけないことをやった」
「一日本人、一国民として、やるべきことをやった」
と仰っています。
あともうひとつの事例を出すとワンマンと云われた三越の岡田茂社長が、愛人の竹久みちと共に会社の利益を私的流用して巨額損害を与え続けていたという事件がありました。岡田は三越から竹久が経営する会社に口銭やコンサルタント料という形で利益供与したり、三越に関する建物などの工事費を請け負い業者に水増し請求させて、利益供与の見返りに岡田の私邸を改築させるといった横領行為を行います。岡田はさらに自分に反感を持った社員をどんどん左遷して、経営幹部を自分の子飼いばかりにしていきました。
このように三越のクーデターを画策し、成功させた心ある取締役らですが、のちに会社を去っていくことになりました。正義の行動をとった人たちですが、社内に残りづらくなってしまうのです。
正義の行動をとった人はのちに経済的に得をするどころか、これまで得ていた地位や名誉を放棄することになったり、転身や再就職がなかなか見つからず大きな苦労を背負うことになりがちです。こうした人たちを支え、保護するセーフティネットが必要ではないでしょうか。
*後記