新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

そもそもバブルって何?

 
最近経済評論家やマスコミとかがやっている「いまの株高はバブルだー」という奇妙な煽りについての批判の第3回目です。今回は「バブル」って何?ということの定義をはっきりさせておきましょう。あいまいなイメージだけで「バブルだー」とか「実体経済から乖離した株価高騰」などというのは頓珍漢な話です。

 

3度目になりますが、株価というのは現在(いま)の経済状況を映しているものではありません。将来の予想や期待を反映させたものです

バブルとは何かについての話に入る前に、株価ってどう決まるのかを知っておいた方がいいでしょう。自分のツイッターのフォロワーさんのツイートでいいものを見つけました。琉球大学の経済学教室が作成した動画です。

 

バブル とは何か(No53) 安易に使われがちな経済用語「バブル」の意味を正しく理解しよう - YouTube

 

 

この動画によればバブルというのは「投資財の価格がファンダメンタル価格を上回る価格で取引されている状態」となります。投資財とは株式とか不動産に限りません。石油、小麦やサトイキビといった食糧品、過去にはチューリップの球根などもそれにあてはまりました。

 

ファンダメンタル価格とは何かというと、投資財に関して、将来に渡って得られるリターン(見返り)となる収益を現在の価値に割り引いて計算することで求めた理論的適正価格です。

 

このファンダメンタル価格を算出する数式がこれです。

 

竹中平蔵氏の説明についても紹介しておきましょう。

竹中平蔵【金利と株価】金利が上がれば株価はどうなる?基本を考えればすぐ分かる! - YouTube

 

株価というものはその株を買った人が将来に渡って得られる配当金の総額を、金利とかリスク要因から成り立つ割引率で割り出したものだというのが竹中氏の説明です。

 

3つめの説明です。村宮克彦 大阪大学大学院経済学研究科 准教授が作成したものです。

Watneyオンライン講義 - 第9回 — 価値評価の考え方 — エンタープライズDCF法・残余事業利益モデル (osaka-u.ac.jp)

 

投資先の企業が正当な商工業活動によって収益を伸ばし、それによって出資者の期待通りに配当金が配れ続けていったならば何の問題もありません。それによって株価が上がっていくことはバブルでもなんでもないのです。

 

バブルという状態は投資財に将来実際に殖える実益や見返り(リターン)をはるかに超える価格がついてしまう状況です。

 

現在予想や期待したものが、そのとおりになるのかは将来になってみないとわかりません。過去に行った予想や期待によって値付けされた投資財が適正な価格だったのかどうかは事後的にしか判断できないのです。実体経済と株価の乖離」などといっている人たちは現在しかみていません。いまの状況だけをみて「バブル」だとか言うのはそもそもおかしいですし不可能なことです。そんなことができるのは超能力者です。

 

とはいえど投資家たちがふわとした予想や期待だけで、企業や事業に対し出資するようなことはしないでしょう。投資先の企業の健全性や将来計画、事業が成功する見込みなどを調べて資金を投ずるはずです。ビジネスの世界には良くも悪くも、確率論だけで予測できない「まさか」という不確実性が存在しますが、それでも企業が進める事業が成功するのかしないのか、収益を伸ばせるのかどうかなどといったおおまかな予測ができるでしょう。

 

しかしバブル状態になってしまうと、そうした冷徹な投資先の企業の経営分析や事業成功の確率、便益対費用分析(B/C)が行われず、銀行の場合ですと融資の際の与信審査が極めて杜撰になります。日本では1980年代においてひどい放漫経営をしている企業の株でも高値で取引されてしまったり、銀行による濫脈融資が平然と行われていました。まともに考えたらとても成功しないようなトンデモ事業をイケイケで進めてしまい、大火傷を負うような企業が続出します。冒頭の数式によれば本来得られるd(=見返り・収益)がさほど大きくなく、X(=ファンダメンタル価格)が大きくない企業の株や事業であるにも関わらず、「この株は絶対値上がりする」といって投資家たちが飛びついてしまったのです。

 

琉大の動画に戻りますが、バブルの弊害とは何かについても述べています。

それはたくさんの投資家たちが本来ファンダメンタル価格が高くない、ひどい会社の株を高値掴みして破産してしまうことではありません。動画の説明ではほんとうのバブルの弊害とは金融システムの不効率化で本来優れたアイデアをもった企業に資金が供給されるのではなく、かなり乱暴で杜撰な経営をしているような会社や事業に資金が過剰供給されてしまうことにあるとしています。

本来投資家というのは自分が資金を提供する企業や事業が、正当な商工業活動によって多くの人々に高い便益や福祉の向上につながるようなモノづくりやサービスづくりを志し、またそれを実現する能力があるのかどうかを目利きする社会的責務があります。銀行もそうです。(半沢直樹みたいなサムライバンカーが理想だが) バブル期は投資家や銀行などがそれを怠り、杜撰な投融資を行ったことで、恐ろしく収益性が悪い事業に資金が流れ込んで、カネをドブに捨てたような結果になりました。琉大の動画でが「金融システムの効率が損なわれる」と述べていますが、社会全体、日本経済全体の生産性を著しく下げることになったのです。

 

バブル期に無駄な事業に注ぎ込まれ、空費したのは資金(カネ)だけではありません。労働者の労働力、時間、資源も消耗させらました。バブル期のときから既に長時間労働やそれによる過労死が問題視されており、JR東海が「日本を休もう」というCMを流していた時期がありましたが、琉大の動画を視て「原因はこれか!」と頷かされました。バブル期から日本の産業の不効率化がはじまっていたのです。

 

さらに金融システムの効率が損なわれるという問題はバブル期だけで終わりませんでした。その後の「失われた~年」といわれる1990年代以降の慢性的デフレ不況期もそれを引きずります。バブル崩壊後は株式が逆にファンダメンタル価格を下回る価格で取引されるようになりました。投資家たちは投資を積極的に行わなくなり、優れたアイデアを持った企業に潤沢な資金が供給されなくなります。お金はモノやサービスの生産のための資金として活かされず死蔵されてしまいました。流動性の罠です。

 

通常の金融緩和が効かなくなる流動性の罠 その1 IS-LMモデルについて | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

お金が貯蓄として死蔵されてしまう流動性の罠 その2 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

バブルとその後の「失われた~年」がもたらした弊害は言い方を換えると莫大な機会損失であったといえます。株式の取引が正当なファンダメンタル価格に沿って行われていれば、まっとうな企業に資金が行き渡り、優れたモノづくりやサービスの生産が進んでいたはずなのに、半世紀以上にも及ぶ歪んだ株取引でそうならなくなってしまいました。資金が企業に潤沢に行き渡らなくなり、次世代技術や製品開発のための投資がままならなくなり、日本の産業競争力がみるみると劣化していきます。

 

バブル期のように株式がファンダメンタル価格より高く取引される状態でも、その逆の「失われた=年」のときのように不当に低い価格で取引されてしまう状態でも、金融システムやモノならびにサービスの生産効率を下げてしまい、サプライサイドの壊死を進ませることになります。

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いま金融緩和政策をやめるのは愚策

今月2021年2月中旬に日経平均の株価が1990年8月以来、30年6カ月ぶりに3万円台まで上昇したため「バブルが発生した」と言い出す人たちが出てきました。前回の記事で村上尚己さんの動画や記事で使われていた日米の株価のグラフを引用させていただきながら、バブル発生だというのはあまりに大袈裟だという話をしました。

いまはバブルなの? | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

アメリカで「ひどいインフレが起きる」は本当か | インフレが日本を救う | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)

 

日本の株価は3年前の2018年1月までぐんぐん伸びていたのですが、そこで頭打ちとなり以後コロナ禍をはさんだ今日まで足踏み状態だったのです。また最近やっとそのときの水準まで回復できたというに過ぎません。むしろ日本の株価の動きはアメリカに比べて遅れていたぐらいです。

高橋洋一さんのコラムで使われたグラフをみるとさらにわかりやすいです。

日本の株価は2009年以降から回復がはじまったアメリカから数年遅れ、2012年ごろから伸びます。それ以後は日米ともに足並みをそろえるように株価が上昇しています。

 

そもそも株価というものは経済活動の発展とともに上昇し続けるのが当たり前のことで、日本のように鍋底みたいなかたちで株価のグラフが推移するのは異常なことです。

 

それと株価というのはいまの企業の業績とか経済状況ではなく、将来の予想や期待によって動くものです。多くの人はコロナ禍で多くの企業が打撃を受けている現在の状況をみて「株価だけが高くなっていて実体経済と乖離している」などと勘違いした発言をしますが、株式投資家の目線は先を見ているのです。新型コロナワクチンの接種が進み、アメリカのバイデン新政権が大型の金融財政政策を打ち出す姿勢をみせていることを好感して買いに走っているのです。

 

もちろん中央銀行ETF(上場信託投資)やリスクの高い債券を積極的に買い入れすることで株価が高く維持されています。しかしこのオペの目的は株式投資家の利益を守ることよりも、企業が保有する株式などの資産価値が縮小してバランスシート(貸借対照表)の右側である資産側の方だけが縮小、負債側だけが高いままになって財務状況が悪化することを防止します。1990年代に民間企業のバランスシートが崩れて、債務超過になって経営破綻したり、原材料費や関連企業への支払い、研究開発、そして雇用といった投資を大幅に抑制せざるえない状況に陥っています。

バランスシート不況

 

おまけに日銀が株式を購入を増やしたといっても、昨年3月にETF購入枠を6兆円から12兆円へと拡大しただけです。購入枠は6兆円の増加です。株式市場全体の時価総額は700兆円もあり、その1%にも満たない額にすぎません。「大河の一滴」です。

 

私は「実体経済と乖離した株価の上昇」とかいっている人ほど、実はいまの企業が置かれている状況をわかっていないのではないかと思えてなりません。

 

コロナ禍という極めて理不尽な理由で巨額の負債を抱えなくてはならなくなった民間事業者・個人の債務負担を少しでも軽くするためには金融緩和政策が不可欠です。金利負担を軽くし、資金繰り悪化を防止しないといけないからです。

 

そんな中でおかしなコラム記事を目にしました。

原油高などによる思わぬ物価上昇に注意(久保田博幸) - 個人 - Yahoo!ニュース

 

 

奇妙な記述を抜き書きしておきます。

 今回も同様の事態になる可能性もある。これでやっと日銀にとって念願の物価目標が一時的に達成するかもしれない。しかし、これによって日銀が出口に向かうかといえば慎重姿勢を示すことが予想される。一時的と考えれば当然ではあるが。

 

 しかし、1990年台のバブル崩壊時のように1980年台の日銀の長すぎた緩和策がバブルを引き起こしたのではとの批判も出ていた。今回はいろいろとバブルが起きつつあるように思われる。それにブレーキが掛けられる体制作りが必要なのではないか。そのための日銀の3月の点検でもあってほしいのだが。

どうも久保田氏ですが、いまの状況を「バブルだ」と言っているだけではなく、原油価格の上昇による物価上昇で「日銀にとって念願の物価目標」が達成などと短絡的にとらえているようです。この方はリフレーション政策におけるインフレターゲットの意味が全然理解できていません。

 

2013年以降の日銀による異次元金融緩和において物価上昇率2%のインフレターゲットを導入した理由は単純に物価を上げることが目的ではありません。このことは元日銀副総裁であった岩田規久男氏らが以前よりしつこく説明し続けていることです。「2%の物価上昇が達成できなかったからリフレーション政策は失敗」などというのは半可通です。

 

なぜリフレーション政策で中央銀行が物価目標をコミットメントするのかというと、その目標達成まで金融緩和の手を緩めないという強い意志を銀行などから資金を借り入れる民間の経営者たちに示すことで、安心して大型投資や事業拡大を計ってもらうことが狙いです。マネタリーベースをじゃぶじゃぶにしておけば金利が上がりにくくなります。そういう状況を中央銀行が自らつくっておいて身を切る覚悟を市中に示します。

 

そしてやがて物価が上がるという予想は資金を投ずる企業経営者からみて実質金利を下げることになるという説明もしました。フィッシャー方程式です。

実質金利名目金利-期待インフレ率

 

インフレターゲットの意味は実質金利を下げて民間企業にお金を積極的に遣わせることが目的です。資金調達や借入れコストの負担が軽くなった企業が事業を積極的に拡大すれば雇用も改善し、就労者への所得分配が加速します。所得が増えた就労者は積極的にモノやサービスを買い求めて消費活動が積極的になるでしょう。となってくると最終的に需要増加で物価も上がってくるというのがリフレーション政策の筋書きです。物価上昇といっても企業の投資・事業拡大や雇用回復、消費増大を伴わないものならばリフレーション政策の成功だとはいえません。原油価格上昇だとか不作などによる生鮮食料品などの価格上昇による物価上昇で、金融引き締めなどありえません。

 

FRB議長のベン・バーナンキらは「体系的な金融政策と石油ショックの影響について」という論文にて「石油ショックは国内の消費者の購買力が産油国に移転することに他ならないから、景気を維持するためには、失われた購買力を何らかの手段で補填する必要があり、このような局面でさらに購買力を削減する金融引締めは逆効果」と述べていたようです。

バーナンキは短絡的に物価上昇が起きたら金融引き締めではなく、消費者の購買力の方を注視して判断すべきだということを言いたいのでしょうね。

 

もうひとつ変な記事です。

株価3万円でも景気に慎重 政策修正控える日銀の真意: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

 

こちらは株価の動きだけをみて金融政策の動向を騙ってしまっていますね。

 

金融政策の判断は民間企業がどれだけ積極的にお金を遣って事業を活発に進めているのか、そして雇用や就労者への所得分配と彼らの消費意欲が高まっているのかをみてすべきです。原油価格高騰による物価上昇とか株価だけをみて金融政策を引き締めるのか緩和するのかを判断するのは愚の骨頂にもほどがあります。

 

ほんとうに情けない日本の経済評論家とマスコミです。

 

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いまはバブルなの?

 

「サプライサイドの壊死」をテーマに何本も記事を書き続けていて、まだその途中ですが、気になった記事とか発言をいくつか目にしたので注意書きを記すことにしました。それはここ最近の株価上昇の動きをみて「バブルだ」と騒ぐ人たちが多いことです。

 

今月2021年2月中旬に日経平均株価が約30年半ぶりに3万円台を回復しました。日本がバブル景気に沸いていた時代であった1990年8月以来のことですが、その時代の株価になったからということで「バブル再来だ」となっているのでしょうか。

 

それと他にも出てきているのが「株価と実体経済の乖離」という発言です。新型コロナウィルス感染拡大によって経済活動が大きく抑制され、企業の業績が伸びていないはずなのに、株価がこれだけ上がってしまうのは不自然だということでしょうか。あとこちらのブログでも説明してきましたように量的金融緩和政策で中央銀行が積み上げた準備預金ですが、その一部が株式市場などに流れて株高になるという現象があります。あと中央銀行ETF(上場投資信託)を買い入れして株価の維持を計ってきました。つまりは政府や中央銀行の金融緩和政策によってもたらされた官製相場で、いびつなものだと思っているのでしょう。

しかし日銀のETF買いといっても昨年3月にETF購入枠を6兆円から12兆円へと拡大しただけです。購入枠は6兆円増加ですが、株式市場全体の時価総額は700兆円もあります。6兆円はその1%にも満たない額であり、風呂桶にバケツ一杯分の水を足した程度の話でしかありません。「大河の一滴」です。

 

いまの株価はそこまで極端なものでしょうか?村上尚己さんが出演されているネット番組「村上尚己のマーケットニュース」でつかわれていた日米の株価推移のグラフをみますと、1980年代のようなバブル状態からほど遠いことに気がつきます。

 

同じく村上さんが書かれた東洋経済の記事も読んでいただきたいのですが、株高になったといっても3年前の2018年1月の株価水準を取り戻しただけという動きでしかありません。

 

アメリカで「ひどいインフレが起きる」は本当か | インフレが日本を救う | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)

 

 

そもそも正常かつ持続的な経済成長を続けていたならば株価もそれに伴って上昇していって当然です。上のアメリカの株式市場のグラフをみるとリーマンショックのときなどで深い谷がいくつか発生していますが、それでもおおまかに見れば右肩あがりで株価が上昇し続けています。日本の場合は1990年代から鍋底みたいな値動きをしていました。これこそが異常です。

 

ここで先に述べた「株価と実体経済の乖離」という違和感について述べておきますと、それを抱く人は現在の経済状況をみてズレていると思っているのです。ここで注意すべきは株価というものは現在(いま)の状況で決まるのではなく、将来の予想と期待で動くものだということが理解できていないのです。コロナ禍によって多くの民間企業が痛めつけられてきましたが、既に新型コロナワクチンの接種が世界各国ではじまっています。アメリカの場合ですと、ジョー・バイデン新大統領が大型の金融財政政策「アメリカンレスキュープラン」を打ち出したことで、経済復興がかなり進むことが予想されます。(かなり進むどころか景気が過熱し過ぎるのではないかということでジャネット・イエレン財務長官とローレンス・サマーズが論争をはじめているぐらいですが)

 

日本においても先日発表された四半期GDP1次速報でも昨年2020年の10-12月期実質成長率が前期比+3.0%(年率+12.7%)と2期連続のプラス成長、消費は前期比+2.2%、設備投資は半導体製造装置、ロボットなど底入れの動きで同+4.5%、輸出も自動車、中国向け電子部品等が好調で同+11.1%でした。次は緊急事態宣言再発令が敷かれますので恐らく数値が悪化するでしょうが、思っているほど悪くはありません。今回のコロナ禍は観光業や飲食業などの対面サービス業がかなり深刻な打撃を受けていますが、それについて政府側の財政支援で需要減を補償されております。さらに企業の休廃業・解散が記録的な低水準で二年ぶりの減少となっています。政府の財政政策がサプライサイドの壊死を最低限に抑え込んだといえましょう。

 

企業の休廃業・解散、全国5万6千件 2年ぶり減少、抑制傾向で推移|TDBのプレスリリース (prtimes.jp)

 

 

モノやサービスの生産を担い、雇用を創出する民間事業者の倒産・廃業を防げば、コロナ感染収束後の経済復興もいち早く進みます。今回の場合は通常の不況とことなり、感染症拡大防止のために経済活動を抑制したり需要が一時的に急減している状態です。感染収束が進めばそうしたネックが解消され、需要の盛り返しが期待されます。

 

株式投資家たちはそこまで先を悲観視していないということになるでしょう。

 

それと昨年書いたことですが、株価というものは実体経済や雇用にも大きな影響を与えます。1990年代にバブルで高騰していた株価や不動産の価格が急落するのですが、そこで企業の財務バランスシートの資産側に含まれる株式や不動産等の資産価値が収縮してしまいます。負債側が大きいのに資産側が一気に萎むことで債務超過に陥ったり、そこまでいかずとも事業のために使う投資がままならなくなり、設備投資や雇用拡大ができなくなってしまいます。結果的にその企業の就労者や関連企業にしわ寄せがいったのです。

 

株価下落とバランスシート不況発生、雇用悪化との関係 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

株価の維持は株式投資を行う資産家だけのためではないのです。雇用を守る上でも重要です。

 

景気過熱の心配なし、資産バブル「見当たらず」=NY連銀総裁 | Reuters

 

引用

一部の専門家は、市場のフロス(細かなバブル)やリスクテークの存続を容認すれば金融システムが危険にさらされると警告しているが、ウィリアムズ氏は、非常に好調な資産価格の背景に「米経済や世界経済が今後力強く回復し拡大するとの投資家の楽観的な見方があり、将来にわたって低金利が続くとの期待も織り込まれている」と分析。資産価格が「暴走」していることを示す「証拠は見当たらない」とした。

そもそも「バブルだ」という人はバブル経済をどう定義づけているのでしょうか?私の目から見たらそれがはっきりとわかりません。

 

私的にいえば資産バブルというのは(実物)財・貨幣・資産(株式や不動産など)市場の超過需要の総和は0(ゼロ)であるというワルラスの法則的にみたとき、資産市場の超過需要が異常に高くなっている、あるいはそれがどんどん進んでいくという予想や期待が暴走した状態だと捉えています。

ついでに言いますとデフレ状態というのは貨幣市場の超過需要がどんどん膨らみ続ける状態で、「お金のバブル」という言い方がされます。モノやサービスといった実物財よりもお金の価値がどんどん重くなっていく状況がデフレです。ハイパーインフレが起きるときは実物財の超過需要が極端に高くなってしまいます。

日本のバブル期においては今ですと信じがたい話ですが、「株式や不動産などの資産価値が下落することはない」などということがいわれていました。つまり「永久に株価や不動産価格が上昇し続ける」という予想や期待が極端に強すぎたのです。アメリカのサブプライム住宅モーゲージも同様でした。

 

現状を見る限り、そうした極端な予想や期待がぶくぶく膨張していくような動きが起きているように私は思えません。

 

「バブルだ」という人々は中央銀行の大規模な(量的)金融緩和政策を有害視する場合が多いのですが、こうした人たちが不安を煽って各国中央銀行が行っている(量的)金融緩和政策の拙速な解除をさせてしまうことの方が大きな経済・金融システムの混乱を招く危険性があります。私はリフレーション政策についても人々の予想や期待が重要であると申し上げてきましたが、予想や期待というものは経済を動かしている人々の心理です。現代の金融財政政策は人々の心理や行動を読み取りながら進める繊細なオペレーションであります。

 

私がこのブログ上で常々申し上げていることは、民間事業者によるモノやサービスの生産活動をしっかり支え、それによる雇用の拡大・維持こそを最優先すべきだというものです。いま政府と中央銀行が担うべきミッションは民間事業者が自立的な経済活動意欲を取り戻すまで、責任をもって金融政策と財政政策によるアシストを行うことであり、その責任を果たすコミットメント(誓約)が必要なのです。

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サプライサイドを破壊する社会主義と悪性インフレ

 

 

コロナ感染拡大と”サプライサイドの壊死”についての話を書き続けていますが、今回で3回目です。

国家財政破綻より恐れるべき危機 サプライサイドの壊死 その1 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

「サプライサイドの壊死」こそ本当の将来世代へのツケ その2 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

われわれの暮らしに不可欠なモノやサービスといった実物財の生産や供給を行う民間の産業や就労者の職能ならびに意欲が失われていく現象を私は”サプライサイドの壊死”と名付けています。日本においては1990年のバブル景気の崩壊とその当時の日銀総裁だった三重野康時代からはじまった日銀の金融政策の迷走から民間の事業投資(原材料費の購入や生産設備の増強、雇用、研究開発費など)意欲が大きく削がれ、かつては世界中を席捲した日本の産業競争力がみるみると低下していきました。新しい商品の開発や技術投資をしたくても、銀行などの融資態度が硬化して資金の借り入れがしにくくなったり、1997年ごろからはじまった本格的なデフレ(連続的な物価下落)と消費意欲の低迷から企業は高い利潤を望めなくなってしまうことで、それが難しくなりました。そうこうしているうちに日本の技術競争力や優位性が失われ、運悪く就職氷河期

に出くわし、長年非正規雇用や単純労働に甘んじざるえなかったロスジェネ世代を中心に就労者の職能や就労意欲も腐食していきます。リーマンショックを過ぎた2010年あたりからこれまで日本が守り続けたGDP世界第2位の座を中国に奪われ、いまやこの国のGDPは日本の3倍になっています。2012年末に自民党第2次安倍晋三政権発足によって異次元金融緩和を主軸とするリフレーション政策の考えを採り入れたアベノミクスによって民間の投資ならびに事業拡大とそれに伴う雇用の改善でサプライサイドの壊死の進行を食い止めることができましたが、昨年2020年1月からはじまった中国・武漢を感染源とする新型コロナウィルスの拡散によって、再び日本はサプライサイドの壊死の危険が高まっています。

 

前回の記事では日本の国家財政破綻を心配するよりも、日本の産業力の衰弱を憂うべきであると私は主張しました。モノやサービスの生産活動やその能力が壊死してしまうことこそ、最終的に悪性インフレを招いたり、自国通貨の信用下落やさらなる政府の国家財政悪化を招く恐れがあるからです。日本の主流派経済学者(世界的にみたらガラパゴス経済学)たちや財務省がらみの評論家、マスコミは国家財政悪化によるハイパーインフレ発生の不安を煽りますが、ひどいインフレが起きる原因は国家財政状況よりも、実物財の生産・供給能力の不足にある場合が多いです。日銀の審議委員を務められていた原田泰・名古屋商科大学ビジネススクール教授もそうした主旨の記事を書かれています。

敗戦直前の債務残高でもインフレが起きない理由  WEDGE Infinity(ウェッジ) (ismedia.jp)

 

 

私は経済をとらえる上で大事だと思っているのはお金のことよりも、モノやサービスといった実物財や人を中心に見ないとダメだということです。「国家財政ガー」「ハイパーインフレガー」とオオカミ少年のように不安を煽る人たちだけではなく、その真逆で「財源は税でないのダー」とか「(インフレになるまで)国債財政赤字をどんどん増やすべきダー」などといっているMMT(現代貨幣理論)の信奉者も実はモノやサービスの生産・供給という観念が薄いのです。(まったくないとは言いません)

物価というものは結局モノやサービスとお金の量のバランス、それを活用する頻度といった需給関係によって決まるととらえるのが基本です。

 

ここから今回の本題に入っていきますが、社会主義国家の多くはモノ不足状態に陥りやすく、ハイパーインフレを招いた国がたくさんあります。このブログで社会主義の欠陥とハイパーインフレ、貧困の発生について取り上げました。

 

 

 

社会主義国家ではないですが、1970年代に資本主義経済圏でも左派政権や山猫ストなどを起こし過激化した労働組合の暴走で民間企業の活動が阻害され、供給不足型不況を招いています。その結果不況で雇用が悪化しているにも関わらず物価が高騰するスタグフレーションという奇怪な状況となりました。

 

 

歴史上において社会主義国家・社会主義者が行ってきたことは「奪う・壊す・殺す」の3つしかありません。基本的にモノを創造し生産するということにことごとく失敗し続けてきました。社会主義国家の元首はソ連スターリンや中国の毛沢東のような独裁的支配者となり、共産党幹部は「赤い貴族」といわれる特権階級となっていきます。彼らは商工業活動を行っていた資本家・企業家だけではなく高い生産性を持っていた富農を「粛清」と称して収容所に押し込んだり、惨殺してきました。医者や学者といったインテリ層も粛清の対象となります。このことでモノやサービスの生産力や技術力がガタ落ちになります。モノやサービスづくりの現場を知らない官僚たちが国営企業や農場の管理者となるのですが、デタラメな指示や「ノルマ」と称する無茶苦茶な生産目標を現場に押し付け、労働者の生産や労働意欲を失わせていきます。官僚たちは実際には実現できていなかった生産量を中央政府に水増し報告するようなことまでします。このような腐敗によって社会主義国家はみるみるとモノ不足状態に陥っていきます。屑鉄ばかりを産み出し農村を疲弊させた毛沢東大躍進政策とその失敗を誤魔化すための文化大革命はその典型例です。

社会主義国家や社会主義者たちは私たちが必要とするモノやサービスを生産・供給する活動を担っているのが民間の企業や実業家であることを忘れ、彼らを攻撃したり富を収奪することしか考えていないのです。そうやってモノづくりやサービスづくりを潰してしまうことばかりやってきたので、その帰結としてひどいインフレや国家財政破綻、自国通貨の信用価値棄損を起こして当然です。

 

中国・武漢から感染拡大がはじまった新型コロナウィルスによる世界規模の混乱も、社会主義国家の邪悪性がもたらした災厄だといっていいでしょう。社会主義は人々の健康だけではなく人類文明社会を支える経済システムまで破壊しています。かつて安倍政権時代のときに内閣参謀関与を務められてきた本田悦朗氏はコロナ禍について旧ソ連時代に起きたチェルノブイリ原発事故と同じだと仰いました。コロナ危機は資本主義経済と自由主義社会に対する挑戦です。

 

世界各国の政府や中央銀行は前例のない大規模な財政出動や金融緩和政策を行って、この危機に防戦しています。政府が民間の事業者や個人を休業補償金や給付金の支給などによって事業存続や生計維持を計っており、一見すると社会主義的だと思えるかも知れません。しかしそれはごく短期間の緊急対応にすぎず、むしろ資本主義経済システムと自由主義を護るために必要な措置だと見なすべきでしょう。罪や過失なき民間事業者や個人を救済せず、その結果として彼らの経済的自立を失うことになればサプライサイドの壊死となります。

 

保守や自由主義を自称する者は政府が民間に財政支援をすることを「政治的介入」だの「社会主義的」だといったりします。しかしそれはお金のことしか見ていない浅薄な見方でしかありません。本来の自由主義的経済思想とは平時において政府が民間の事業者や個人の自由な経営活動や経済活動を邪魔しないようにすることであります。民間の事業者や個人を野球やサッカーなどのプレイヤーだとするならば、彼らが最高のプレイができるようにグランドを整備をするといったことが自由主義経済における政府の役割となります。

 

コロナ禍が収束した後に民間という経済活動のプレイヤーたちが存分に力を発揮できるように手助けすることが、いま世界各国の政府に望まれていることであります。

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「サプライサイドの壊死」こそ本当の将来世代へのツケ その2

 

今回の記事ですが2020年6月30日に公開した記事「「国の借金」について考えてみる その4 「将来世代ヘのツケ」って何? | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)」と主旨が同じものです。この記事で紹介した野口旭専修大学教授が日銀審議委員に就任することになりました。それを関連させたかたちで「ほんとうの将来世代への負担増加とは何か」という話をします。

 

野口旭教授の記事

財政負担問題はなぜ誤解され続けるのか | 野口旭 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp) 」

 

 

増税があらゆる世代の負担を拡大させる理由 | 野口旭 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp) ]

 

 

 

社会は新型コロナ対策の負担をどう分かち合うのか 」

 

 

 

まず「将来世代への負担」を考える前に経済学の社会的使命とわたしたちの豊かさとは何かについて再確認する必要があります。経済学の社会的使命はすべての国民が必要とし、また欲するモノやサービスといった実物財を広くまんべんなく供給・分配できる社会システムの構築を提言することにあると私は考えます。人々がほしいもの・必要なものを不自由なく好きなだけ買える社会こそが豊かさであると思います。病気になったときにお金の心配をすることなく良質な医療サービスを受けられることも「豊かさ」です。それができなくなっていった状況が貧しさであるでしょう。

今回私が「サプライサイドの壊死」という問題を取り上げているのは、この国が良質なモノとかサービスを創り出したり生産・供給できる力を失っていくことで、わたしたちが必要な食糧や衣服、住居の確保すらままならない経済状況に追い込まれることを危惧しているからです。今回中国武漢から拡がった新型コロナウィルスの感染は世界各国をサプライサイドの壊死を進める危機の種をばらまきました。このウィルスは心臓や血管など循環器系の器官や組織を痛めつけるのですが、同じように人間の体と似た経済システムも壊していきます。社会主義国家がもたらした災厄が、わたしたちの暮らしを支えてきた資本主義経済や自由主義経済を侵しているといってもいいでしょう。コロナ危機は第二の冷戦であり、ハルマゲドンです。

もし仮にいま政府が財政支援や金融緩和政策を怠って日本国内の民間事業者が次々と倒産・廃業に追い込まれたとしましょう。それを華系資本がどんどん買収して乗っ取っていったとします。そうなるとこの国は中国の経済的植民地と化すことでしょう。これこそ計り知れない「将来世代への負担」ではないでしょうか。

 

いやそうはいっても将来世代の納税負担が重くなってしまうとか、財政再建のための緊縮財政で社会保障給付とかが削減されることになるのではないかと心配する人が多いかも知れません。しかし産業衰退化や慢性的な雇用の不安定化が進むと結局私たちは税を支払うことができなくなりますし、実質負担が重くなります。稼ぐ力があれば税や社会保険料を支払うことが可能です。私はほんとうの将来世代の負担増加とは税を稼ぐ力の衰弱だと思っています。それが前回の記事「国家財政破綻より恐れるべき危機 サプライサイドの壊死 その1 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)」で述べたことです。

 

そもそも国家財政というのはわれわれ民間の経済活動によって支えられているものであり、担ぎ手である民間企業や個人が弱ってしまったら国家財政という神輿を担ぐことができなくなります。国家財政の再建は民間からの税収を増やさないと不可能です。私は債務の大きさよりも債務を償還する能力が衰えてしまうことの方を心配しないといけないと考えています。少子高齢化問題についても同じです。現役世代が高齢者を支える経済力を強くするという発想が大事です。

 

冒頭で述べたように「豊かな社会」とは良質なモノやサービスがすべての人々に不足なく供給・分配されていることです。日本という国が優れたモノやサービスを生産する力さえ失わなければ、円が暴落して紙くずになりハイパーインフレを起こすなどということを心配する必要はありません。お金というものは「あなたがほしいモノとかサービスを譲ります」という約束手形みたいなもので債券なのですが、わたしたちに必要なモノとかサービスが不足なく生産され供給されているならば、その約束が反故されることはないとみていいでしょう。ハイパーインフレとはその約束を果たしてくれる予想や期待が崩れることではじまります。 

シノドス 矢野浩一 「リフレ政策とは何か? ―― 合理的期待革命と政策レジームの変化 」

 

 

次の記事で書く予定ですが、ハイパーインフレや1970年代のアメリカ・ヨーロッパなどで起きた不況と過大インフレが同時に進んだスタグフレーション国債や貨幣の濫発だけではなく、モノやサービスなどの生産や供給力の低下が原因しています。どちらも社会主義化と大きな関わりがあるのですが、そうした国家は民間の産業を衰弱させてきています。

 

労働者の貧困を救えなかった社会主義国家 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

国家社会主義と官製統制経済の愚かさ | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

「将来世代の負担押し付け」問題を語る人たちですが、彼らの多くは経済主体の一部門に過ぎない政府部門の財政状況だけしか目を向けず、民間の産業や個人の家計についてはお構いなしで話をします。つまりかなり視野狭窄国家主義的であるということです。もし仮に国家財政破綻とか自国通貨の暴落といった事態が発生するならば国家財政破綻が先にきて、我々の生活が苦境に陥るというかたちではなく、先に民間の産業が没落して国民生活がどん底になる方が先でしょう。通貨価値の下落についても自国でモノやサービスの生産ができなくなって、輸出で外貨を稼ぐことができなくなり、円の価値が失われていくという流れです。

 

もうひとつ「将来世代への負担」論で誤解されがちなのは、いまを生きる現世代が将来世代が生産する財を前借りして食い潰しているわけではないということです。上の野口旭教授の記事でも経済学者ポール・サミュエルソン「経済学」を援用し、次のような説明をします。

野口旭教授「社会は新型コロナ対策の負担をどう分かち合うのか 」から引用。

 

サミュエルソンは、戦時費用のすべてが増税ではなく赤字国債の発行によって賄われるという極端なケースにおいてさえ、その負担は基本的に将来世代ではなく現世代が負うしかないことを指摘する。というのは、戦争のためには大砲や弾薬が必要であるが、それを将来世代に生産させてタイムマシーンで現在に持ってくることはできないからである。その大砲や弾薬を得るためには、現世代が消費を削減し、消費財の生産に用いられていた資源を大砲や弾薬の生産に転用する以外にはない。将来世代への負担転嫁が可能なのは、大砲や弾薬の生産が消費の削減によってではなく「資本ストックの食い潰し」によって可能な場合に限られるのである。

いま起きているコロナ禍によって観光業界や飲食業界などの民間産業が経営的打撃を被り、その補償は政府が発行した国債で財源が賄われています。そしてコロナ患者の治療を行う医療機関の医師や看護師らは不眠不休で勤務を続けています。休業補償や持続化給付金などは「将来世代から前借りして」と云われますが、実際に彼らを支えるのはいまを生きている別の国民です。コロナ患者の受け入れは医療者にとって大きな労働負担ですが、これについても将来世代の医師や看護師が手助けしてくれているかというとそうではありません。(看護学校の学生からの応援はあるようですが) 

 

いまを生きる私たちが考えるべきことは将来世代に優れたモノやサービス創りという資産を遺しておくことです。それができれば将来世代が困ることはありません。これまで多くの先人築き上げた技術的資産をつまらぬ緊縮財政や誤った金融政策で潰してしまい、多くの若者の職能を腐食させ、さらには出生率低下に滑車をかけるといったことこそ、真の将来世代の負担となるでしょう。

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国家財政破綻より恐れるべき危機 サプライサイドの壊死 その1

今年2021年1月より新型コロナウィルスの感染者数が再び増加し、患者を受け入れる医療機関が逼迫しているために緊急事態宣言が再発令されましたが、その期限が切れる2月7日以降も一か月ほど延長されることになりました。これについてはやむをえないことだと思います。かなり息苦しく窮屈な思いで我々は過ごさないといけないわけですが、今回営業自粛対象とされた飲食店をはじめ、それに関する食品卸業者などを含めた事業者にとって緊急事態宣言の延長は経営存続の危機にも直結します。こうした事業者に対する休業補償や持続化給付金の再支給の他に、その業界で就労する人たちを守るための雇用調整助成金支給といった手当が必要となることは言うまでもありません。個人向けには緊急小口資金融資制度や住宅確保給付金などの支援策がありますが、最終的には生活保護を利用していただくという事例もかなり増えることでしょう。となってきますとその費用を一部負担しないといけない地方自治体の財政を支えるための地方臨時創生交付金の支給も急がれます。

 

現在行われている政府の支援策

 

政府は昨年・今年とかなり大型の財政出動を行ってきており、それは必要なものでしたが、その一方で国家財政状況を気にする人たちがたくさんいるでしょう。今回の財政出動の財源は国債発行で調達されましたが、それを日銀が買い受けることで政府+日銀を統合政府として見なした場合の市中に対してつくった負債の額は実質小さくすることができるという説明をしてきています。

ちょっと不謹慎な例え話ですが、勝新太郎氏を政府、奥さんの中村玉緒さんを中央銀行だと見立てた場合、かつ勝新太郎氏自身が借金を還さなくても、奥さんの玉緒さんが夫の代わりに借金を還せば債権者は困りません。勝新太郎氏と玉緒さんは夫婦なので奥村家の家計として連結決算できます。

さらに一般の家計と国家財政で異なる点は政府と中央銀行には通貨発行益があってお金を刷って債務償還したり、債券の買い取りができるということです。もし仮に今回のコロナ禍で負債を多く抱えた企業がどうにも首が回らなくなったときには、その不良債権中央銀行が買い取る手もあります。まさに「最後の貸し手」といえましょう。

 

政府や中央銀行がどんどんお金を刷ってばらまいてしまうとひどいインフレを引き起こすのではないかと心配する人たちがいます。確かにそのリスクがゼロだということはありません。しかしながら今のように著しい需要ショックで、しかもその回復に時間がかかるならば、ひどいインフレを引き起こす可能性は低いです。物価というものは需要(デマンド)と供給(サプライ)のバランスで決まってきます。かなり基礎的な話ですが、フィッシャー交換方程式MV=PTで物価が決まってくると思っておいていいでしょう。今の現状はモノやサービスといった実物財の取引量(T)が潤沢であり、貨幣の流通速度(V)が相当低い状態であると想像されます。この状態であるならば貨幣供給量(M)を増やしても物価(P)を急騰させることには直結しないと考えられます。

とこれまでこのブログで説明してきたことを述べておきました。それでもなお「国家財政は大丈夫なのか」という不安は簡単に払拭できないかも知れませんが、私はそのようなことよりも”サプライサイドの壊死”を心配すべきだと思っています。それはモノやサービスを生産する民間事業者や産業が衰退し、そこに従事する就労者の雇用が萎縮して彼らの職能が腐食していくことであります。日本においては1990年代からこれがはじまりました。三重野康総裁以降の日銀による金融政策の迷走が民間企業の設備増強や研究開発、そして雇用といった投資意欲を萎えさせてしまい、かつては「Japan As No'1」とまでいわれていた日本の産業の国際競争力がみるみると失われていきました。リーマンショックを受けた2010年代以降に中国や韓国などアジア圏の中進国が経済的に躍進し、日本はGDP世界第2位の座を中国に奪われることになります。いま中国のGDPは日本の3倍にまで膨れ上がりました。

 

2013年から第2次安倍政権が黒田東彦氏を日銀総裁に据え、リフレ派の論客である岩田規久男学習院大学教授を副総裁に任命して、これまでのどうしようもない日銀の金融政策を刷新していきます。異次元金融緩和をはじめたことで民間事業者は積極的にお金を事業拡張や雇用に活用するようになったことも、このブログで強調し続けています。

俗にいうアベノミクスの効果は安倍総理が2020年9月に辞任する1~2年ほど前から陰りが見えかけていたのですが、それでもこの数年間サプライサイドの腐食や壊死の進行を食い止めた点を私は高く評価しています。

 

しかしその安倍政権の最末期において中国・武漢からはじまった新型コロナウィルスの感染拡大によって再び”サプライサイドの壊死”が急速に進み始めます。感染抑制のために緊急事態宣言を敷いて人々の接触や活動を大きく制限しているのですが、それは観光業界や飲食業界などといった対面サービス業を中心に民間事業者の営業活動を抑制し、その需要も激しく落ち込みます。まだそれが2~3か月の短期間で感染が完全収束すればよかったのですが、もう2年目になってもそれが達成されておりません。この間に民間事業者が耐え切れず倒産したり、事業存続を断念して廃業に踏み切っています。失業や就業時間の短縮に見舞われた就労者も大勢みえます。そうした民間事業者の中には何十年以上、場合によっては百年以上もの長い伝統と高度な技術を積み重ねてきたところや、コロナ危機がなければ健全経営で存続し続けられたはずの事業者も多く含まれていることでしょう。

 

森永康平さんのツイートです。

 

 

清算主義的な発想にとらわれた一部の経済学者や評論家などが、このコロナ禍は本来市場から淘汰されるべきゾンビ企業を篩い落とす絶好の機会だなどと考えているようですが、とんでもない誤認だと私は思います。ゾンビでない健全経営だった会社までもが倒産・廃業・休業に追い込まれてしまえば、コロナ感染が収束したとしても経済力が元どおり回復しないままになってしまう恐れがあります。元々高い技能を持った職人さんなどが職を離れ、そのまま年金生活に入ってしまうようなことになれば技術的資産を失ってしまうことにもなるでしょう。この国が優れたモノやサービスを生産できなくなり、雇用が失われてますます貧しくなっていくのです。
 
新興のビジネスが旧い伝統産業にかわって生産活動や雇用を進めればいいと考える人が多いかも知れませんが、新興ビジネスといえども従来産業が何十年・何百年に渡って積み重ねた技術を土台にしないと成立しない例がたくさんあります。例えば2003年に創立した電気自動車のTeslaなんかも次世代イノベーションの波にのった新興企業だというイメージがありますが、動力源が電気だとはいえど、クルマはボディやサスペンションがあってこそ成り立つ工業製品です。衝突安全性やシャーシ設計などのノウハウは一朝一夕で得られるものでないはずです。画期的な技術とか産業とみえるものも実はある一点の革新性が光っているものなのだと思わないといけないでしょう。

 

ちょっと話がズレましたが、コロナ禍における経済対策でいちばん重要なことは民間の産業や雇用を極力潰さないことです。一度潰した産業は簡単に回復させられません。例え政府が一時的に巨額の財政赤字や負債を増やすことになってでも、自国の民間産業の壊死だけはなんとしても避けないといけません。

 

「国家財政が破綻すると経済ガー」「国民生活が破綻する」などと思っている人たちは国家が経済を回していると思っているのでしょうか。この国は社会主義国家ではありません。民間事業者や個人が自由主義経済を動かしているのです。民間事業者や個人をどんどん破産に追い込み、経済活動ができない状況をつくってしまうことこそ本当の危機です。そもそもモノやサービスを生産して、それを売って稼ぐことができない人だらけの国なったら、政府は税収を得ることができませんし、一方で公的扶助の支出が膨張して財政赤字がもっと増えていくことでしょう。国家財政再建の前に民間経済の再生を優先すべきだと主張するのはそのためです。竹中平蔵氏も同様の主張をされています。

 

かなりディストピア的な想像ですが、今回のコロナ禍で経営破綻や廃業・休業に追い込まれた日本の民間事業者を中華系資本がどんどん買収してしまうということもありえます。先に述べたように既に中国のGDPは日本の3倍に迫ろうとしています。当然のことながら軍事費も比例して膨張します。日本が中国に侵略されてウイグルやモンゴルのような自治区にされてしまうという形で日本の国家財政問題が消滅するというブラックジョークみたいなことも想像できます。

 

今回多くの民間事業者や個人が背負わされた負債は中国から発生したコロナウィルス感染拡大という非常に理不尽なかたちで生じたものです。本来背負わなくてもいい負債でした。この莫大な理不尽極まりない負債に民間事業者や個人は押しつぶされそうになっています。これを肩代わりできるのは政府と中央銀行しかありません。

 

いつも自分が批判しているMMT(現代貨幣理論)っぽい見方になりますが、今回の理不尽なコロナ負債は民間事業者・個人家計・政府の3部門のうち、いずれかが背負わなければならないものであります。結局債務負担能力がいちばん高い政府部門が背負うしかないというのが現実的解答です。

 

元はというとこの理不尽な負債をつくったのは中国共産党という組織であり、債務者とすべきですが、それをやろうとすると第3次世界大戦でハルマゲドン(最終戦争)となりかねません。結局各国の政府部門が負債を背負い、最終的には中央銀行がそれを引き受けるという解決策を択ぶことになるのではないでしょうか。

この話は長くなりますので数回にわけて書いていきます。

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漏給が起きにくい所得保障制度を考えていくべきではないか

基礎知識編ブログの方でここ最近盛んになってきた臨時定額給付金の再支給を求める動きについて一筆記しました。

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定額給付金の再支給はこちらもやってほしいですし、その財源も確保できますが、これよりも優先すべきなのが、医療機関への支援と緊急事態宣言の再発令で営業時間短縮や集客減で売り上げを落とした飲食店等への補償や支援です。持続化給付金や雇用調整助成金などの拡充が優先されます。そういう状況下で定額給付金のことばかりにこだわってしまう風潮を批判しています。とくに最近ですと左派系野党やマスコミが定額給付金再支給を政争の具にする動きが目立っています。

さらに今月27日の参議院予算委員会立憲民主党・社民の石橋通宏議員が菅義偉総理に対し、新型コロナウイルス感染拡大で生活苦に追い込まれている人たちに対し「政府の政策は届いているのか」「首相の責任で届けると約束してくれるか」などと質問しました。その後で菅総理が「いろんな対応策があるでしょうし、政府には最終的には生活保護という、そうした仕組みを最終的にですよ、そうしたことを含めセーフティネットをつくっていく」と答弁しています。このあとに石橋議員と同じく立憲民主党蓮舫議員が噛みつき騒ぎ立てるという一幕がありました。

【国会中継】参院予算委 3次補正予算案の総括質疑(2021年1月27日) - Bing video

私は上の録画の石橋議員の質疑と菅総理の答弁の部分を文字起こししようとしたのですが、石橋議員が「政府の政策は届いているのか」といっても、質疑する側の方が生活困窮しているであろう人々の状況を把握しているようには思えなかったのです。蓮舫議員の方はあれこれ事例らしきことを述べてはいましたが、ただ菅総理の答弁の仕方に感情がこもっていないなど精神論や感情論の話しかしていないのが不快でした。政府による支援が必要であるにも関わらず、支援が及ばない状況すなわち漏給が発生していると思うのであったら、質疑をかける側の方がそれを証明するデータを用意して追及した方が具体性のある議論となったでしょう。

こうした漏給が起きているとするならば

  1. 支援制度構造が困窮者の実情にあっていない。
  2. 支援制度が対象者に周知・理解されていない。
  3. 制度を利用したくても申請手続き等が煩雑で使いにくい。
  4. 補助金支給を判断する行政機関の審査が厳しく、制度利用希望者が申請しても受理されない。

などの理由が考えられますが、実際にそのようなことが発生しているならば、そのことを事例やデータを示して追及すべきでしょう。それがないまま質疑をかけても薄っぺらい議論で終わります。政府側が一生懸命財政支援制度をつくってもお金が役所で詰まって市中へ出ていかない状況があるならば、そこを突いて政権側に制度改善を求めればいいのです。

実際には全国民一律の臨時定額給付金の再支給こそ見送られたものの、政府は世間で思われている以上に多くの支援制度を用意していますし、申請の敷居を下げる努力もしています。

 自民の西村康稔経済再生担当大臣(新型コロナ対策担当大臣等も兼務)が自身のツイッターなどを通して、積極的に支援策の情報提供を行っています。

西村やすとし #不要不急の外出自粛を NISHIMURA Yasutoshiさん (@nishy03) / Twitter

公明党のいさ進一議員も支援情報の提供に熱心です。

いさ進一さん (@isashinichi) / Twitter

 

政府の支援策

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しかしながら立憲民主党議員のいうように実際には支援が行き届いていないとか、生活保護が非常に利用しづらいではないかという指摘が出てくるでしょう。このブログでも過去に生活保護行政についての批判を繰り返してきました。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

役所の裁量に左右されてしまう生活保護の受給資格 - 新・暮らしの経済手帖 ~時評編~ (hatenablog.com)

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

生活保護は利用する際に申請者に就業努力を促すとともに預貯金や持ち家、自家用車などありとあらゆる資産を処分しないといけないといわれています。緊急事態であるゆえに柔軟な保護開始決定を行うよう政府側は地方の福祉事務所に促しているといわれますが他の休業補償等の支出が膨れ上がって地方自治体の財政が逼迫し、生活保護開始を渋る動機が生まれてしまう可能性があるでしょう。それを防ぐには第3次補正予算で計上されている地方臨時創生交付金で保護費の一部を負担する自治体の財政を支援するという方法があるのですが、生活保護という制度はどうしても漏給の問題がつきまといます。

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政府の財政支援については2つの考え方があると思います。

ひとつ目はもっとも深刻な経済的打撃を受けている業界や個人に集中的に手厚く、給付や支援を行う考え方です。現在政府が行っている医療機関への支援や緊急事態宣言で休業を要請する飲食店業界等への補償の他に、持続化給付金や雇用調整助成金、今は休止中ですが観光業界や飲食業界向けのGoToキャンペーンなどのような政策がこれに該当するでしょう。生活保護もこれに入れていいかも知れません。

もうひとつが無差別・無選別で全国民に一律で給付を行うという考え方です。臨時定額給付金や最近再浮上しかけているベーシックインカムがそうです。

前者と後者は良い点と悪い点があります。前者の場合は必要な人や企業に手厚く給付や支援ができますが、受給資格者を支給者である行政機関どう選別するかという問題です。利用資格や条件を細かく設定することになりますが、そこで漏給が発生する可能性が出てきます。さらにいえば厚生労働省をはじめとする官僚や地方自治体職員の事務負担がかなり重くなることを無視できません。元厚生労働官僚だった千正康裕さんが「ブラック霞が関」という本を出されましたが、官僚が過労死ラインを超えるほどの激務に追われている実情が書き綴られています。

後者の方については全国民に一律給付なので漏給は起きにくいです。ただし「広く薄く」にならざるえません。昨年春~夏に支給された定額給付金は全国民一律10万円の支給でしたが、この予算は一回だけで国の財政支出は12兆円となり、やるとしてもあと1~2回でしょう。これでは倒産・廃業目前の状態に追い込まれている事業者さんや失業という状態に至った人たちにはまったく間に合わない額です。

昨年春の緊急事態宣言のときは新型コロナウィルスの正体がいまいちよくわかっておらず、とにかく人と人の接触率を下げることを考えるしかありませんでした。急な経済活動の抑制で現金収入が激減した人たちが広範にあらわれたために、漏給防止を優先して後者の全国民一律給付方式を安倍政権は択びました。

しかし今回の場合は経済的打撃を受けた業界と回復が早い業界が割とはっきり分かれているために前者の的を絞った給付方式を主体にしています。「必要な人たちに手厚く」という考え方です。

とにかく今の現状で完璧ではないけれども、最善な現実解は昨年からこれまで政府が用意してきた持続化給付金や雇用調整助成金、緊急小口資金融資制度、住宅確保給付金などといった制度をフル活用し、それでもダメだったときは菅総理の答弁どおり最終手段として生活保護制度でフォローするというものでしょう。冒頭で述べた西村大臣やいさ進一議員らのようにこうした制度を多くの人に周知させていくという行動をとった方がいいかと思います。

しかしながら支援制度の種類があまりに多すぎて、濫立しているようにも思えます。それが逆に利用を遠ざけている可能性があるのではないでしょうか。

これは今後の課題となるのですが、菅政権が推進しているマイナンバー制度の普及とデジタル庁創設の動きと連動し、給付付き税額控除制度のような制度に所得保障制度を統合していった方がいいのではないでしょうか。もうぼちぼち確定申告の時期が近づいてきていますが、このときに行政機関は個人や法人の所得状態を把握することが可能です。著しく所得が落ち込んだ個人や法人に対しては税徴収ではなく給付を行います。この制度のいいところは必要な人や事業者に絞り込んで給付ができる一方で漏給も防げるのです。

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定額給付金ですと継続的な支給はできません。2~3回が限界です。しかし給付付き税額控除方式ですと継続給付が可能になります。あとベーシックインカムとは違って大掛かりな税制改革や社会保障改革をしなくても実現できます。

おかしな話ですが、立憲民主党という党はこれまでマイナンバー制度の拡充やベーシックインカムはおろか給付付き税額控除の導入に積極的ではありませんでした。私はすでにこの政党は生活困難者に対する関心を持ってない、単なる活動家の集まりでしかないと見なしています。清算主義的な発想を持つ議員が多く、苦境に追いやられた民間企業をどんどん潰してしまえという態度すら示しています。社民党と共にこの政党は既に存在意味はないでしょう。


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