新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

いま一度はっきりさせておきたいデフレの定義

「デフレと失われた20年」編ですが、本題に入る前に定義にデフレーションとはどういう状態なのかということを定義づけていかねばなりません。それの違いによって「デフレの方がモノやサービスの値段が安くなっていいじゃないか」という人がいたり、逆に「いや、経済が悪化しているのだからいいことではない」という人が出てきます。

デフレの定義は年代によって異なっていまして、2000年10月号の日本銀行調査月報では「デフレとは物価の全般的かつ持続的な下落を指す」とされています。単純にモノやサービスの価格が全体的にかつ一定期間以上下落し続けたらデフレという定義づけで、その背景にある経済活動の低迷には目を向けていません。

一方旧経済企画庁物価局の「物価レポート99」では次の3つをデフレの定義として挙げています。
1 物価動向にかかわらず不況、景気後退を指す場合
2 物価下落をともなった景気低迷を指す場合
3 景気の状況にかかわらず物価の下落を指す場合

上では単純に物価下落だけではなく、不況や景気後退を加味した定義づけを説明しています。
ここでは2の「物価下落をともなった景気低迷(が継続的に続くこと)を指す場合」をデフレの定義として採用します。

ただ単純に物価下落することだけをデフレと定義づけている人は「モノやサービスの値段が下がるから生活が楽になる。デフレの方が庶民にとってありがたい」という言い方をします。断末魔というべき昭和恐慌が起きる目前の1929年(昭和4年)12月7日付け大阪毎日新聞にも「下る・下る物価 よいお正月ができるとほくそえむサラリーマン」という見出しで、金本位制復帰によるデフレを歓迎しています。

私はそのようなデフレの定義づけは不景気で消費者の所得が著しく減少し、モノやサービスを買う力や意欲が削がれて、メーカーや販売店などが商品の価格を下げないとそれらが売れていかないという深刻な問題を無視しているものだと思っています。昭和恐慌前の大阪毎日新聞が呑気に井上準之助財政によるデフレ賞賛の記事を書いた後に大量倒産や大量失業、農村部の経済破壊が起きています。今にしてみたらいかに愚かな記事だったかがわかるかと思います。(現在も毎日新聞は全然当時の反省していないが・・・・。)

日本の左派政党や新聞・テレビ等のメディアは不景気によって発生する労働者の賃金低下や雇用不安定化という問題を無視して、物価を下げることの方が庶民の生活が楽になると考えているようです。いくら物価が下がっても収入がそれ以上にどんどん下落していったら生活が苦しくなっていくことになぜ気がつかないのでしょうか?彼らは「格差ガー」などとよく言いますが、雇用が悪化すると就職できる人とできない人が出てしまい、所得格差の元凶となります。
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物価が下落し続けるということはモノやサービスを生産する側にとって設備投資費や研究開発費などの投資費用を回収しにくくなるということです。従業員の賃金を抑えたり、雇用を抑える形にしないと事業の採算が合わなくなってきます。

ここでひとつクギをさしておきますと多くの国民は

生産者=消費者

だということを忘れてはなりません。
(ベーシックインカム制度ができてくれたら消費者の立場だけになれる人が出てくるかも知れないし、自分としてはそうなってほしいが・・・・・。)

もう高齢になってしまったとか病気や障碍を背負って就労できず年金だけで生活しているような人、あるいは実家が資産家で一生遊んで暮らせるだけのお金を持っている人は上の等式はあてはまりませんが、原則的に多くの国民は就労所得を得て消費活動を行っています。このことを日本の左派政党やマスコミは理解していないのです。

生産活動が低迷して所得が落ちれば消費も落ち込むし、逆に物価を下げ続けてもモノやサービスが売れないほど消費が低迷すれば生産も落ち込んでいきます。日本はこの負の悪循環をずっと繰り返し続けたのでした。

あと他国がどんどん物価上昇や賃金上昇をしている中で日本だけがずっとデフレを続けるということはどういうことになるでしょうか?
資源や食糧を海外からの輸入に依存し続けた場合、それらの輸入価格が高騰してしまう恐れがあります。後から発展し豊かになってきた国が、これまで日本人が買っていた資源や食糧を買い漁るようになってきます。それらを日本人が手にしようとしたとき、とても高くて手が出せないものになるかも知れません。ある程度日本も他国と足並みを揃えて経済成長をしてしかないと、やがてデフレから成長のない高インフレへと転じてしまう危険があると私は案じています。

またデフレ状態の場合投資や雇用を行ってモノやサービスの生産をしてもリターンである収益が小さいということです。その収益がどんどん縮小していくとなるとモノやサービスの生産活動が維持できなくなり、その企業は倒産ないしは廃業に追い込まれていくことになります。自国技術の腐食が進みます。

いちばん健康的で望ましい経済状況はゆるやかなインフレーション状態です。人々の所得と物価が互いに協調するかのように伸びていくことが、いちばん人々が暮らしやすい経済状況です。デフレ状態の場合、経済規模だけではなくモノやサービスの質が次第に劣化していきます。この日本の中に画期的な商品やサービスのアイデアを持っている人がいたとしても、それを実現しにくいのがデフレです。かつて日本の電機業界は商品企画者の斬新なアイデアで世界中が驚くような電化製品を世に送り市場を席捲していました。しかしデフレ状態になってから韓国や中国の電機メーカーにどんどんシェアを奪われ、日本の電機メーカーの多くが苦境に立たされています。

デフレ状態は人々の暮らしや産業を衰弱させ、最期は底辺国へと転落し国民の大多数が貧困に追い込まれるといった事態を招きかねません。それは死への道なのだということを心すべきです。

次回は日本のバブル景気とその崩壊について書く予定です。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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