新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

特別記事 マクロ経済理論を知らぬ者にベーシックインカムの実現はできない

衆議院解散総選挙にあわせた特別記事の第2回目です。小池百合子東京都知事が代表となり立ち上げた国政新党・希望の党ベーシックインカムを公約のひとつに掲げました。

このウェブサイトの所信表明として書いた「このサイトの基本的な考え方や姿勢 」にて、自分はベーシックインカムの導入を勧めていきたいと述べております。希望の党のBI導入案についてですが、一見私が多いに賛同した井上智洋先生の「貨幣レジームの変革とベーシックインカムの持続可能性」というテキストを意識したようなものになっていました。AI(人工知能)等の発達により供給過剰が慢性化し、雇用という形での富の分配が進みにくくなったり、貨幣の流動が停滞してしまう可能性があるという流れでBIの導入が必要であるという希望の党側の説明は井上先生の見識と共通はしています。

ならば私も希望の党ベーシックインカムを公約に入れたことを手放しで歓迎するのかといえば違います。正直喜ばしくはありません。
なぜなら同時に希望の党が打ち出したマクロ経済政策の方向性が不明瞭であり、各党員の経済知識が非常に怪しいものであるからです。希望の党は公約案にアベノミクスを「金融緩和一本足打法である」とか「金融政策や財政出動に過度な依存をしない」などといった文言を書き込んでいます。これによって私はこの党が金融緩和政策縮小や緊縮財政へ走ってしまうことを危惧しました。そうかと思っていたら逆にいきなり大規模な財政出動となるベーシックインカムを公約に入れてきました。この党の経済政策は整合性がなくちぐはぐです。

あと細かい揚げ足取りになってしまいますが、ベーシックインカムの財源は企業が抱えている内部留保金に租税をかけて賄うなどというようなことまで書いていました。
私が経済学の勉強をするためにいろいろな経済学者が書かれた文章や記事を読ませていただいておりますが、「内部留保などという言葉を使うのような経済学者はインチキだと疑え」といった言葉に幾たびが出くわします。恥ずかしい話ですが左派的な思考を持っていた私も「企業の内部留保を労働者へ分配しろ」なんてことを述べておりました。多くの会計士は「それはとんでもない間違いだ」「小学生でも受かる簿記3級程度の知識でもデタラメだとわかる」と述べております。


中嶋氏は個人がローンで住宅を購入した場合に例え、その頭金にあたる部分が企業のバランスシート右の負債部門にある利益剰余金や利益準備金すなわち俗にいう内部留保金であると説明しています。つまりは希望の党は住宅ローンの頭金に税金をかけて徴収すると言っていることになります。住宅を購入するための頭金は当然現金から住宅という資産に替わってしまいます。内部留保といっても現金が金庫の中に積まれているわけではないのです。
希望の党の議員たちはそうした会計知識を持ち合わせていないという指摘が既に数多くの会計士等から指摘されてしまっています。

私はマクロ経済学の知識レベルが非常に疑わしい希望の党議員がベーシックインカム導入のための議論に耐えられるとはとても思えません。BIは大規模な財政出動であるために導入しようとなると財政規律偏重主義者等から「そんな制度を導入したら国家財政が破綻する」「ハイパーインフレになる」などという猛反発を喰らうことが予測されます。財政規律派でなく積極財政派の経済学者であってもBIに慎重意見を述べる人がいるぐらいです。そうした人たちを経済理論に基づいて説得していかないとベーシックインカムはおとぎ話として片付けられてしまうことになります。

希望の党小池百合子という表看板ばかりが目立ちますが、党員の多くは元民進党議員です。民進党はその前身である民主党時代から理論や論理の裏付けが非常に苦手で、ごく一部を除き経済学に関心を持ち勉強している議員が少ない傾向にあります。
民主党が政権を獲ったときマニュフェストに掲げた子ども手当についても、経済学や財政の裏付けをきちんとやらず無計画に導入してしまったために、当時野党だった自民党に「財政破綻するじゃないか」などと攻撃を受けて潰されてしまいました。菅直人は国会において自民党側から「子ども手当乗数効果はいくらか」という質問を浴びせられ答えに窮してしまったことがあります。

私が心配しているのはベーシックインカム希望の党がきちんとBI反対派を論駁できずに、民主党子ども手当のような形で葬られてしまうことです。民主党子ども手当制度導入失敗が、結果的に社会保障制度拡充を言い出しにくくなる空気を形成してしまいました。

もうひとつ民主党政権日本未来の党がやってしまった失敗に脱(卒)原発があります。東日本大震災津波によって起きた福島第一原発事故脱原発・反原発の動きが活発化し、当時首相だった菅直人原発を停めると言い出しました。ところが日本の電力会社は原子力発電に大きく依存していたために、それをいきなり全部停めるとなると深刻な電力不足に陥ることになってしまいます。自然再生エネルギーによる発電への転換も時期早々でした。急遽火力発電に切り替えても発電コストが大きくなってしまい、企業の生産活動や個人の家計に大きな支障を来たしました。それを民主党政権は無視して脱原発を強引に進めてしまい、その反動で原発再稼働派の声が大きくなってしまうことになります。卒原発を公約に掲げた日本未来の党もそのロードマップがラフで政策実現性に疑問を持たれ、選挙は大失敗に終わりました。それ以後「脱原発なんてできっこない」「パヨクの戯言だ」という見方が定着してしまうことになります。

私は口酸っぱく「マクロ経済理論をしっかり身に着けてからベーシックインカム導入運動をやれ」と言いますが、民主党日本未来の党がやった失敗を二度も三度も繰り返してはならないという思いがあります。

幸いにベーシックインカムについては井上智洋先生の他に、現在日銀の審議委員になられていますがシビアな市場原理主義者に徹しておられる原田泰先生も理解を示されています。あと山崎元氏やホリエモンこと堀江貴文氏もベーシックインカム賛成派として知られています。そうした諸先生方がベーシックインカムの理論的裏付けをして下さっていますので、それをきちんと学んだ上で導入を進めていくべきです。

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